個人的にはあまり過失割合には興味がないのですが(似たような事故でも状況次第で変わるので)、
横断歩道を横断した自転車とクルマが衝突した場合、過失割合は五分五分
などという珍説が流れているとか。
実際の判例から過失割合を見ていきます。
横断歩道を横断した自転車とクルマが衝突した場合の過失割合
テキトーに判例を挙げます。
判決年月日 | 交差点? | 年齢区分 | 自転車過失 |
福岡高裁H30.1.18 | 交差点(優先道路あり) | 高齢者 | 30% |
名古屋地裁 H22.3.19 | 交差点 | – | 20% |
横浜地裁 R1.10.17 | 単路 | – | 15% |
大阪地裁H25.6.27 |
交差点(優先道路あり) | 小学生 | 15% |
東京地裁 H28.11.1 | 交差点(優先道路あり) | – | 30% |
名古屋地裁 H30.9.5 | 交差点(優先道路あり) | – | 15% |
大阪高裁H30.2.16 | 交差点 | 高齢者 | 10% |
名古屋地裁 R4.3.30 | 交差点 | – | 20% |
仙台地裁 H29.5.19 | 交差点 | – | 5% |
ちなみに横断歩道から5、6m外れた位置を横断して「横断歩道を横断したものと同視できない」とされた判例はこちら。
判決年月日 | 交差点? | 高齢者 | 自転車過失 |
神戸地裁 R1.9.12 | 交差点の付近 | 高齢者 | 40% |
名古屋地裁H28.8.10 | 交差点(優先道路あり) | 高齢者 | 40% |
横断歩道を使って横断した方が自転車の過失割合は小さくなりますが、なぜでしょうか?
理由はこちら。
自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当
平成30年1月18日 福岡高裁
38条1項は「横断歩道を横断しようとする歩行者が明らかにいない場合以外は減速して止まれる体制にしなさい」なので、「歩行者に向けた減速接近義務」を果たしていれば事故を回避できたという考え方になるからです。
横断歩道を通過する前に横断歩道の左右に歩行者がいないか確認するわけで、自転車が突っ込んでくるのが見えたら止まるしかないし。
そして過失とは「予見可能な事故を回避しなかったこと」を意味する。
横断歩道があれば自転車が横断することは予見可能なので、道路交通法の義務とは関係なく減速して警戒することになります。
自転車に優先権がなくても事故回避義務まで免除するわけではないし、優者危険負担の原則がある以上、五分五分になるわけもない。
例えば、歩道通行自転車がノールックで横断した事故について、
自転車の過失割合は15%です(横浜地裁 R1.10.17)。
民事の過失割合は、デカイ立場の方が責任が大きくなるように設計されているので、こうなります。
道路交通法上の優先権が過失割合に強く反映されるわけでもない。
ただし、青信号で横断歩道を横断した自転車と左折車が衝突した事故について、全責任は自転車にあるとした判例も無くはないです。
いわゆる当たり屋の判例になりますが、当たり屋さんは立証が難しい。
五分五分はデマ
このような横断歩道があり、右側歩道に自転車が横断待ちしていたとします。
横断歩道左側は明らかな死角なので「横断しようとする歩行者が明らかにいないとは到底言えない」上に、「自転車がタイミングを誤って横断するリスク」もある以上は減速して様子を見るしかない(38条1項前段、70条)。
過失割合が五分五分になることはほぼあり得ないような話。
被告は、被告車を運転して横断歩道の設置された本件交差点を右折するに当たっては、前方及び側方の条件に十分注意した上で、進路の前方を通過しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない義務がある(道路交通法38条1項前段参照)にもかかわらずこれを怠り、漠然と右折したために、横断歩道上を進行していた原告自転車を発見するのが遅れ、原告自転車との衝突を回避することができず、本件事故を惹起した過失があるというべきである(なお、原告は、被告に道路交通法38条1項後段の規定する横断歩道の直前での一時停止義務がある旨主張するが、本件交差点に自転車横断帯は設置されていないことに加え、原告は自転車から降りて押して歩いていたものではないことに鑑みると、被告に上記義務は生じないものと解される。)。
東京地裁 平成21年3月3日
あくまでも38条1項前段は「歩行者がいないことが明らかな場合以外は全て減速」なので、自転車の存在は関係なく減速義務が発生します。
交差点に優先道路の設定(交差点内にセンターライン)があるなら五分五分に近いくらいになる可能性はありますが、道路交通法上の優先権がなくても事故回避義務まで免除するわけではないという意味を理解した方がよいかと思います。
しかしまあ、「五分五分」なんてよほどのレアケースくらいでしか起こらないし、上で挙げた判例の中には「過失運転致死傷罪で有罪判決」と書いてあるものも。
自転車にも優先権がないことを理解する必要がある一方、車道を通行する車両には大きな注意義務があることは明らか。
刑事事件の判決内容は民事には影響しません。
個人的には過失割合がどうとかではなくて、それぞれやるべき義務を理解して果たせとしか思っていないのですが、皆さん過失割合は好きですよね。
過失割合でいうなら、横断歩道を横断した自転車の判例(赤信号無視を除く)で自転車の過失はたぶん平均すれば10~20%程度になるものが多いんじゃないかと思う。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
素晴らしい分析。回避義務というのを理解できない猿が多いこと。右直でも当然に直進ゼロだと思って鬼倉しながら加速するような極度のバカばかり。
コメントありがとうございます。
優先だからなんでもアリなわけがないことを理解してないと、有罪になることをわからない人がいるのは残念ですよね
まあ轢かれて死んでしまっては過失割合も何もないんですけどね
コメントありがとうございます。
ちょっと意味がわかりません。
自転車同士の事故だったら過失割合はどうなるのでしょうか? ロードバイク乗りとしてはこちらの方が気になります。
コメントありがとうございます。
基本的には車道通行自転車側のほうが過失が大きくなります。
理由は「歩行者に向けた減速接近義務」だと思われますが、優先道路の有無などに左右されるかと。
私は去年末、同じ状況で横断歩道をロードバイクで走行中、左折の車に轢かれましたが、10:0でした。
保険屋は最大でも9:1と言ってましたが、相手のドライバーがまともな方だったみたいで、普通に不注意で突っ込んだので、相手に非はないです。と言ってくれたらしく、10:0となりました。
コメントありがとうございます。
示談交渉では10:0も多いと思います。
理由はいろいろあるのですが、10%程度を争うよりも早く示談したい事情があればそうなることもあります。
過失割合は自転車有利としても、被る被害や金銭的負担は自転車側のほうが大きいことが多いので、私は常に車に注意して運転していますし、ロードに乗ったままで横断歩道も使わないようにしていますね。
コメントありがとうございます。
私としては「みんなやるべき義務をやりましょう」です。
責任の重さとしては四輪車が大きいにしても、義務を守ることは等しいので。