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なぜ無過失にならないか?無過失を認めた判例と。

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こちらで書いた判例ですが、

 

刑事責任「無罪」と民事責任「無過失」は全く別問題。
だいぶ前に取り上げたこれがまた話題になっているようですが、こういう「自称詳しい人」の意見ほどあてにならないものはない。刑事責任「無罪」と、民事責任「無過失」は全く別問題ですし、2007年の道路交通法改正も何ら関係ありません。刑事責任「無罪」...

 

ちょっと質問を頂きましたので。

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センターライン越えは無過失では?

この判例、裁判所ホームページにありますがちょっと複雑なので分かりにくいかもしれません。
簡単にいえば、

より早い段階で車両甲を発見し,急制動の措置を講じることによって衝突を回避すること等ができた可能性が否定できず,前方不注視の過失がなかったとはいえないが,他方で,どの時点で車両甲を発見できたかを証拠上認定することができない以上,上記過失があったと認めることもできない

以上の理由から自賠法(人損)による免責は認めなかった一方、民法(物損)は否定した事案です。
理屈としてはこれと同じ。

 

ロードバイクの事故と、本当の原因。
何年か前になりますが、名古屋で先行する時速35キロで進行する大型車に対し、左側の狭いところから時速36キロで追い抜きしたロードバイクが事故に遭った件をご存知でしょうか?こちら。この事故、民事の判例もあります。刑事事件の内容刑事事件の概要です...

 

自賠法と民法は立証責任が違うので、こうなります。

 

ところで、じゃあどういうときに無過失(免責)を認めるかというと、例えばこんな判例があります。
判例は最高裁判所第二小法廷 昭和45年5月22日。

 

まずは事案の概要。

運転者が、中心線のある幅員約16メートルの道路において時速約40キロメートルで運転中、附近にある横断歩道を迂回せず酔余のためその前方約20メートルの地点を横断中の被害者を発見し、時速約10キロメートルに減速して、被害者に近づいたところ、大体道路を横断し終つた被害者が、一、二歩後退したため、自動車の左照灯附近に衝突した

横断歩道の付近にあたるところを酔っぱらいが横断。
運転者は時速40→10キロに減速して横断歩行者が横断するのを見届けたところ、歩行者が後退して衝突。

自己の勤務する会社の前の道路であるにせよ、横断歩道でもないところを歩行する者は当然相当の危険を冒すことを自覚して慎重に行動すべきであつて、被控訴人には飲酒後の行動の軽率であつたことを責めなければならない。一方運転者に対して、大体横断し終つた歩行者が再び後退する場合のあることまで考慮に入れた運転を求めるのは酷である。また控訴会社にもこの車の運行に関しとるべき措置において欠けるところは無かつたと見るべきである。

 

以上のとおり考えてみると、本件事故は専ら被控訴人の過失によつて発生したものと認めるべく、一方控訴人には過失は認められず、また控訴会社についても自賠法3条但書の例外事由をすべて充しており、いずれも賠償責任はないものと謂わなければならない。

 

大阪高裁 昭和43年8月31日

原判決が確定した右事実関係のもとにおいては、原判決がした判断は首肯でき、原判決には所論の違法はない。

 

最高裁判所第二小法廷 昭和45年5月22日

ということで自賠法3条但し書きを適用して無過失の証明があったとして免責。

 

そのほか、車列間横断した歩行者(幼児)との衝突事故でも無過失の立証を認めて免責。

原審の確定するところによれば、上告人A1が、昭和40年4月3日午後4時20分頃被上告人B運転の三輪貨物自動車と接触して受傷した事故現場は、東西に走るa国道とb道路(南北路、幅員約7.5mの歩車道の区別のないコンクリート舗装道路)とが交差する大阪市c区de交差点から右南北路上南方約50mの地点にあつて、本件事故現場附近からは、ほぼ南西方向に一本の地道が三差状に出て、その三差路の幅員は、右南北路と接する部分では約9.3mあるが、南西方向に伸びるに従い急に狭くなり約4mとなる。本件事故現場附近は田畑が多く、ことに、西側の見通しは良好であり、信号や横断歩道の設備はない。右南北路は、自動車の往来が頻繁で、右e交差点の信号が南北赤になるときは、北行車はたちまち停滞して、その列は、右三差路すなわち本件事故現場附近をはるかに超えて、全長約100mに達する程の停滞状況を示し、他方南行車の方は、e交差点で通行止めとなるので、a国道から廻つてくる自動車が南進してくるだけの状態となる。上告人A2は、その友人訴外Dを見送るため、右三差路を経、右南北路を通つてe交差点のバス停留所まで行くべく、その長男上告人A1を伴つて自宅を出、Dと話をかわしながら、三差路を通り、南北路に達したが、そのときの南北路の交通状況は、丁度e交差点の信号が南北赤であつたから、北行車が、前記のように100m位列をなして停滞し、三差路前も、人が車の間を通つて横断できる程度に少しの間隔をおいたほかは、自動車が頭尾を接して停車していた。上告人A2は、右南北路の西側端を通ることは停滞車のため困難であるとみて、なんとなくその場で直ちに横断してその東側端を歩こうと考え(上告人A2は近辺の交通状況を知悉していた。)、前記停滞車の間隙を抜けて南北路を横切り、その東側端に渡ろうとし、よつて、上告人A1が先頭にたち、少し間隔をおいて上告人A2が続き、その後にDがほぼ一列になつて続いたのであるが、上告人A2は、その際、特に南行車通過に伴う危険に備え、上告人A1の手をつなぎ、または、注意を与える等の措置をとることなく、慢然上告人A1の独り歩きに任せていたため、かかる場合の事故防止能力を欠く上告人A1は、そのまま独りで停滞車の間を通り抜けて南北路中心線附近まで飛び出した。折しも、被上告人Bは、本件事故車を運転してa国道を東進し、e交差点を右折して右南北路に乗り入れ、その中心線から約50センチ東寄りのところを時速約25キロで南進し、右三差路附近にさしかかつたが、前記のように、同所には横断道路の設定はなく、また、叙上のとおり、西側に停滞する車両列のため三差路をなすことすら見極め難い事情にあつたため、そのまま進行したところ、本件事故現場約2m手前で上告人A1が北行停滞車の間隙からやにわに飛び出してきたのに気付き、突嗟にブレーキを踏んだが間に合わず、上告人A1は、自己の右側顔面を被上告人B運転の三輪貨物自動車後部荷台右側面の二つの蝶つがい附近にひつかけるように接触して転倒した。被上告人Bとしては、北行停滞車が列をなしていたため、上告人A1がその間隙から飛び出してくることを予知することはできない状況であつたというのであり、以上の事実は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができる。そして、右事実によれば、被上告人Bとしては、本件事故現場附近を本件事故車を運転して時速約25キロで南進通過中、停滞していた対向北行車列のかげから、突如として上告人A1が自ら飛びかかつてきたような状態となつたのであつて、これに気付いたときは、急停車の措置をとつても、もはや上告人A1との接触を避けることができず、自車の右側面が上告人A1の顔面に接触してしまつたことが認められ、この間、被上告人Bの運転には別段非難すべき点はなく右述のような道路交通状況のもとで、被上告人Bに対し、自車の進路直前に突如飛び出してくるものを予見し、これに対処することまで要求することは難きを強いるものといわねばならない。)、結局本件事故につき、被上告人Bには過失はなかつたというべきで、かえつて、上告人A2は、学令にも達しない僅か5才10か月の幼児である上告人A1を帯同して、右南北路の如き自動車交通頻繁な、しかも、横断歩道の設けられていない個所を横断しようとしたのであるから、わが子の手をつなぎ.または、注意を与える等の措置をとつた上、左右の安全をみずから確認して相応の指示誘導をし、もつて、交通事故を未然に防止すべき歩行者、子の監護者としての注意義務があつたにもかかわらず、右義務を怠り、慢然上告人A1を先頭にたたせ、独りで横断するに任せたため、本件事故にあつたというべきであつて、上告人A2は、本件事故につき過失があつたことは明らかである、とした原審の判断は正当として首肯するに足りる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、原審の認定しない事実関係を前提とし、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。

 

最高裁判所第一小法廷  昭和45年1月22日

他の判例。

 

最近だと、中央分離帯から直前横断した事故について、運転者を免責にした判例があります(新潟地裁長岡支部、平成29年12月27日)。
この判例はやや特殊な事情により、どう頑張っても中央分離帯上にいた歩行者を発見できないとしています。

 

なので無過失の立証って無理難題を強いるわけではありませんが、裁判所はめったに認めないかと。
被害者保護のために賠償責任があるので。

 

ただし、似たような事故でも全然違う結果になることはよくあります。
同じように車列間横断でも50:50にしている判例は普通にあります。

優先道路を進行するバスと、子供の自転車の事故ですが、東京高裁 平成26年12月24日判決では50:50。
路線バスの運転者として周囲の住宅街などから子供が飛び出しすることは予見可能だとして注意義務を認めていますので、無過失の立証はめったに認めない。

 

若干珍しいところだと、最高裁判所 平成3年11月19日判決。

右折待ち車列の二列目から突破した事故。
無過失の立証を認めています。

道路交通法37条は、交差点で右折する車両等は、当該交差点において直進しようとする車両等の進行妨害をしてはならない旨を規定しており、車両の運転者は、他の車両の運転者も右規定の趣旨に従って行動するものと想定して自車を運転するのが通常であるから、右折しようとする車両が交差点内で停止している場合に、当該右折車の後続車の運転者が右停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けるという違法かつ危険な運転行為をすることなど、車両の運転者にとって通常予想することができないところである。前記事実関係によれば、上告人は、青色信号に従って交差点を直進しようとしたのであり、右折車である郵便車が交差点内に停止して上告人車の通過を待っていたというのであるから、上告人には、他に特別の事情のない限り、郵便車の後続車がその側方を通過して自車の進路前方に進入して来ることまでも予想して、そのような後続車の有無、動静に注意して交差点を進行すべき注意義務はなかったものといわなければならない。そして、前記確定事実によれば、本件においては、何ら右特別の事情の存在することをうかがわせるものはないのであるから、上告人には本件事故について過失はないものというべきである。

 

最高裁第3小法廷 平成3年11月19日

まあ、こんなトリッキーなプレイは予見不可能ですから当然かと。
なので無過失を全く認めないわけではありませんが、めったに認めない。

現実には

現実には裁判するよりも話し合いで解決できたほうがお互いに楽なので、よほど主張に隔たりがなければ示談交渉かと。

 

過失割合の仕組みって国によってだいぶ違うので、日本なんかは道路交通法の義務とは関係なく予見可能なら過失扱いしていますし。
間違っても道路交通法の義務のみで過失割合を決めたらとんでもない結果になりますが、無過失は全く認めないわけじゃないけどハードルが高い。
対歩行者でも無過失を認めた判例はありますが、マレな事案かと。


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