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横断歩道から外れた位置を横断した歩行者は、道路交通法38条1項の対象になるか?

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横断歩行者の優先は道路交通法38条1項に規定されていますが、

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

※自転車横断帯と自転車を省略。

 

横断歩道により」とある以上、厳格に解釈すれば横断歩道から外れた位置を横断した歩行者は38条1項の優先対象にはなりません。
民事過失割合を検討する上では横断歩道から1~2m外れた位置を横断しても横断歩道上とみなすのが一般的ですが、違反の成立として考える上ではビミョーだったりします。

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横断歩道の直近を横断した歩行者との事故

判例は東京地裁 令和元年12月19日。
運転免許取消処分取消請求事件(行政)です。

 

原告の主張としては、横断歩道外を横断した歩行者との衝突事故だから道路交通法38条1項の横断歩行者等妨害等違反の一般違反行為には該当しないと主張。
過失運転致傷罪の公判においても衝突場所を争ったようで、検察官から予備的訴因として「横断歩道付近において…」が追加され、最終的に「横断歩道付近において…」で有罪確定。

 

刑事訴訟では横断歩道外と認定された点についても、38条1項の横断歩行者等妨害等違反が成立しない根拠だと主張しているようです。

 

ところで。
民事責任としては、横断歩道から1~2m外れた位置を横断した歩行者も「横断歩道上」とみなす傾向にありますが、道路交通法は刑法。
古い解説書をみると、横断歩道からわずかに外れた位置を横断した歩行者は38条での優先がなく、70条(安全運転義務)の問題だとしているものもあります。

 

今回の判例は、横断歩道上もしくは横断歩道に極めて近接した地点が衝突地点だと推認されるとしています。

本件衝突地点が本件横断歩道上であったとすると、本件被害者は、本件交通事故当時、本件横断歩道上を現に横断していたものと認められる。一方、本件衝突地点が本件横断歩道に極めて近接した地点であったとしても、本件被害者は、その当時、本件車道を渡り始めたばかりだったのであり、幅員9mの本件車道を渡りきるために本件横断歩道によって横断しようとして本件横断歩道に極めて近接した地点にいたものと認めるのが自然であるから、本件横断歩道によって本件車道を横断しようとする意思のあることが外見上明らかな状態にあったというべきである。そうすると、本件衝突地点が本件横断歩道上であった場合のみならず、本件横断歩道に極めて近接した地点であった場合であっても、本件被害者は、本件横断歩道により「横断し、横断しようとする歩行者」であったと認めるのが相当である。しかるに、原告は、原告車両を本件被害者に衝突させてその通行を妨げたのであるから、かかる原告の行為は、道路交通法38条1項に違反し、「横断歩行者等妨害等」の一般違反行為に当たる。

 

東京地裁 令和元年12月19日

例えばこのような位置で横断待ちする歩行者がいたときに、

このように歩行者が進行するとみなせば「横断歩道を横断しようとする歩行者」とみなせるわけで、

車両側の立場としては、最終的に横断歩道外を横断したか、横断歩道上を横断したかで分ける必要がないとも言える。
また、仮に「横断歩道を横断しようとする歩行者」とは見なせなくても、「横断歩道を横断しようとする歩行者が明らかにいない」とは言えない状況。
なので38条1項の減速接近義務は免れない。

 

なので横断歩道+その直近については、事故が起きれば車両側の責任とみなせるかと。

 

なお、過失運転致傷罪で認定された内容との整合性については、最高裁判所第三小法廷 昭和25年2月28日判決を理由に失当としています。

 所論刑事判決において本件六千円の債権が存在するものと認められたからといつて民事判決においてそれと反対の事実を認定することは固より妨げない。原審は右刑事判決で右債権が存在するものと認定したことを認めたけれども、真実該債権が存在するものと認めたことはない。刑事判決で存在するものと認められたということはただその判決をした裁判官というだけのことで、果して真実に存在したかどうかは別問題である、それ故原審が刑事判決で存在せるものと認定されたことを認めながら本件において実際には存在しないものと認定したからといつて理由に齟齬あるものということは出来ない

 

最高裁判所第三小法廷 昭和25年2月28日

行政事件も民事訴訟になります。
刑事訴訟と民事訴訟で認定内容が違うなんて話はよくあること。

 

とりあえず、横断歩道の「直近」については横断歩道上とほぼ同視することが多いと思われます。

結局のところ

横断歩道によっては見通しが悪いところもありますが、

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない

38条1項前段を厳守していれば、よほどの異常事態じゃない限りは事故にはならない。

横断歩道等における歩行者等の優先に関する車両等運転者の義務等を定めているのは、道交法が、歩行者等の横断の用に共するための場所として横断歩道等を設け(同法2条1項4号、4号の2)、歩行者等に対しては、横断歩道等がある場所の付近においては、当該横断歩道等によって進路を横断しなければならない義務を課していること(同法12条1項、63条の6)との関係で、歩行者等が横断歩道等を横断するときには歩行者等の通行を優先してその通行の安全を図るべきものとし、その横断歩道等に接近する車両等に対して、歩行者等の通行を妨げないようにしなければならない義務を課したものと解される。このような道交法の規定及びその趣旨に照らせば、同法38条1項にいう「横断し、又は横断しようとする歩行者」とは、横断歩道上を現に横断している歩行者等であるか、あるいは、横断歩道等がある場所の付近において、当該横断歩道等によって道路を横断しようとしていることが車両等運転者にとって明らかである場合の歩行者等、すなわち、動作その他から見て、その者が横断歩道等によって進路を横断しようとする意思のあることが外見上明らかである歩行者等のことをいうと解するのが相当である。

 

(中略)

 

原告は、道交法38条1項は、横断歩道等に「接近する」車両等に適用される規定であって、横断歩道上を既に進行中の車両等に適用される規定ではないから、原告車両が本件横断歩道上の進行を開始した後に本件車道の横断を開始した本件被害者は、「横断し、又は横断しようとする歩行者」に当たらないと主張する。
しかしながら、前記(2)で説示したとおり、原告車両と本件被害者は、本件横断歩道上か、又は本件横断歩道に極めて近接した地点で衝突しているのであるから、原告車両が本件横断歩道に接近した時点では、本件被害者は既に本件車道の横断を開始していたか、又は横断しようとしていることが明らかな状態にあったことが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。また、仮に、上記のような推認が及ばないとしても、横断歩道等によって道路を横断する歩行者等の安全を図るという道交法38条1項の趣旨に照らせば、車両等が横断歩道等を通過中に、その車両等の進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等が現れた場合であっても、例えば歩行者等が急に飛び出してきたなど車両等運転者が注視していても歩行者等の通行を妨げない行動に出ることが困難な場合を除き、車両等運転者は、同項に基づき歩行者等の通行を妨げないようにする義務を負うものというべきである。

 

東京地裁 令和元年12月19日

ちなみに横断歩行者等妨害等違反に関係する行政訴訟ってちらほら見かけますが、まあまあビックリするような主張を繰り広げているものもあります。
どうでもいいんですが、某執務資料にしても原著は古いので最近の判例に差し替えたほうがいいものもありますが、あれはもはや差し替える予定がないのですかね。

 

解説自体の誤りについても。

 

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