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ロードバイクの事故と、本当の原因⑤。

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以前こちらについて書いてますが、

 

ロードバイクの事故と、本当の原因。
何年か前になりますが、名古屋で先行する時速35キロで進行する大型車に対し、左側の狭いところから時速36キロで追い抜きしたロードバイクが事故に遭った件をご存知でしょうか? こちら。 この事故、民事の判例もあります。 刑事事件の内容 刑事事件の...

 

続編です。

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前回までのおさらい

まず、刑事は無罪です。
刑事事件で認定された内容はこちら。

刑事事件の概要です。

・被告人は一貫して幅寄せしてないと主張
左側に寄せたとする鑑定人の意見は不自然、不合理として採用されていない
・やや左側に湾曲した道路
・被告人が左側に寄せる理由がない
・警察の再現実験では、約1mの隙間を左後ろから追い抜きすると、着衣等が先行車側面に接触してしまう
・ロードバイク乗りから同条件で追い抜きするか聞き取り調査したところ、いずれの対象者も否定

なお,捜査段階で本件事故の衝突状況等について鑑定を行った証人Eは,本件擦過痕は被告人車両が被害者自転車を踏んで引きずって印象されたものであり,本件擦過痕の位置及び方向から、衝突地点はX地点より縁石よりで,被害者自転車が第1車両通行帯外側線より縁石側を走行し,そのハンドルが同外側線の車道側の端付近で被告人車両に接触した,本件擦過痕が外側線側から縁石側に向かっていることからすると被告人が被告人車両のハンドルを左に切ったと考えられる旨供述する。しかし,Eは,被告人車両の左第2軸がダブルタイヤで被害者自転車を踏んで本件擦過痕を残した旨供述するところ,被告人車両の第2軸はシングルタイヤであることを看過している点で信用性に疑問がある。この点をおくとしても,自転車の形状は複雑であるため,被告人車両のタイヤに踏まれた部分とは別の部位が路面に本件擦過痕を残す可能性は否定できず,Eが述べるように本件擦過痕上を被告人車両のタイヤが通過したとは必ずしも言い切れない。また,証人Fが指摘するように,本件擦過痕はやや右に湾曲しており,同人が本件擦過痕の角度として再現,測定した値が正確かどうかはおくとしても,Eが述べるように被告人車両の左第2軸のタイヤが本件擦過痕上を通過した場合,被告人車両の左前部が縁石に衝突ないし接触しかねない状況になり,不自然,不合理である。したがって,衝突地点及び本件擦過痕から推測される被告人車両の走行軌跡に関するEの見解は,採用できない。

概要としてはこんなイメージになります。
(なお、事故現場はわずかに左カーブしている様子です)

第3 過失の有無についての検討
1 前記第2の1のとおり,本件道路は,交通頻繁な国道で,西側に防音壁が設置され,その西方に歩道が整備されていることからすると,歩行者や自転車の通行が想定されていないものと認められる。
また,本件事故現場の第1車両通行帯は幅約3.8m,被告人車両は幅約2.49mであるから,被告人車両が第1車両通行帯の中央を走行した場合,被告人車両の左側面と外側線との幅は約0.6m,これに外側線と縁石までの幅約0.7mを併せても約1.3mである。証拠によれば,実際に,被告人車両と車両諸元が同一の大型貨物自動車を本件道路の第1車両通行帯に置き,被告人に本件事故時の走行状況を再現させて,同車両左側面と縁石との通行余地の幅を計測したところ約1mであり,自転車(28インチのロードバイク)に乗車した警察官に,同通行余地を走行させたところ,時折その着衣等が大型貨物自動車側面に接触するなど,安全走行が極めて困難な状況であったこと,本件道路の第1車両通行帯を通行する標準的な大型貨物自動車等を任意に抽出,調査したところ,車両左側の通行余地は約1mであったこと,本件道路を通過するロードバイクライダーを抽出し,第1車両通行帯を時速約35kmで走行する大型貨物自動車の左側通行余地1mの条件で,同車両の左側を追い抜いたり接近したりするか聞き取り捜査をしたところ,いずれの対象者も否定したことが認められる。
これらの事実からすると,被告人において,本件道路の第1車両通行帯を走行するに当たって,走行中の被告人車両左側面と縁石との間のわずか約1mの隙間を左後方から自転車等が進行してくることを予見して,その進路を妨害しないよう留意して進行すべき注意義務があるとはいえない

 

2 また,検察官は,被告人が,ハンドルを的確に操作して適正に進路を保持することなく,被告人車両を本件道路の左端に寄せて走行させた旨主張し,被告人はこれを否定しているところ,被告人があえて被告人車両を左端に寄せる理由は見当たらない。本件擦過痕に基づき,被告人車両が本件道路の左端に寄って第1車両通行帯外側線付近で被害者自転車に衝突したとするEの見解が採用できないことは,前記第2の3のとおりである。
なお,証拠によれば,本件道路は直線道路ではあるものの,わずかに左に湾曲しているため,第1車両通行帯の中央付近を走行するためには,本件事故現場の南方でやや左にハンドルを操作する必要があり,意図的に車体を寄せるつもりがなくても,車体が左右に振れることは十分あり得る。
一般に,自動車運転中に走行車線内で車体が若干左右に振れることは不可避であり,走行車線からはみ出すような場合はともかく,走行車線内で走行位置が若干左右に振れたことをとらえて,ハンドルを的確に操作し進路を適正に保持しなかったということはできない。被害者自転車においても,被告人車両同様,走行中に車体が若干左右に振れることは避けられないと
ころ,本件道路のように第1車両通行帯の外側線と縁石との幅が狭い場所を走行する際には,もとより被害者自転車のハンドルや被害者の身体が外側線から第1車両通行帯内にはみ出すことになるため,被告人車両が殊更左に寄らなくても,被害者自転車が被告人車両左側面と接触してしまう可能性は否定できない。
以上によれば,結局のところ,そもそも被告人がハンドルを的確に操作して進路を適正に保持することなく被告人車両を本件道路左端に寄せて走行させた事実は認められず,仮に,走行中に被告人車両の車体が若干左に振れたために本件事故に至ったとしても,被告人に結果回避義務違反があったとはいえず,被告人に過失は認められない。

 

名古屋地裁 平成31年3月8日

 

以上、刑事責任は無罪で確定しています。

 

そして民事の第一審。
原告側の主張としては、「自転車が追い抜きした」のではなく、「自転車が追い抜きされた」のだと主張。

一審(名古屋地裁)は原告が主張する「自転車が追い抜きされた」という事故態様について「否定できない」とし、自賠法による人身部分の賠償責任を認めた。
一方、「自転車が追い抜きされた」という事故態様について「立証がない」として民法(物損)の責任は否定。

 

自賠法と民法では立証責任が違うので、このようになります。

控訴審

一審原告、一審被告の両者が控訴していますが、名古屋高裁 令和4年7月20日判決が下した結論。

 

認定された事故態様は、被害ロードバイクが先行、加害大型車が後行。

その上で、大型車がロードバイクを追い抜こうとして両者が並走状態になった際に、ロードバイクが加速し追い抜こうとしたものと認定。
なので「事故の瞬間」については、ロードバイクのほうが速度が速いという検証結果とも一致します。
そして原判決を変更し、以下の過失割合にしています。

ロードバイク 大型車
20 80

刑事事件と民事事件では認定された事故態様が異なるわけです。
いわゆる幅寄せについては認定されていません。

刑事と民事の差

刑事と民事では過失認定の深さが違うので、刑事で認められなかったことが民事では認定されるなんてことは珍しくもないですが、結局のところどちらが先行していたか直接的な証拠があるわけではないので、このようなことが起こり得ます。

 

刑事の事故態様(ロードバイクが追い抜き)にしても、そこそこの速さで進行する大型車の左側(1m)を追い抜きしようとするか?と聞かれたら疑問が残るし、特に急いでいた事情もない被害者が、追い抜きされている途中に並走状態になってから急加速して追い抜きしようとするか?と聞かれても疑問が残る。

 

なのでモヤモヤする事故としか言えませんが、双方が真逆の事故態様を主張していて直接的な証拠がない。
なかなか難しいですね。

 

なお、控訴審の詳細については書きませんが、双方が主張する事故態様についてそれぞれ整合性を取り、一審原告が主張する「ロードバイク先行、大型車後行」を事実として認定。
刑事と民事では立証する上での「深さ」の違いがあるとはいえ、刑事事件としてはこのような事故態様の下で過失を争い、

民事事件で認定された事実はこう。

真逆になるのもね…
ただし、「事故時」にはロードバイクのほうが速かったことは刑事も民事も同じ認定です。
速いロードバイクが追い抜き「される」という不可解な状況については、並走状態に陥ってから加速したからだとするのが民事2審の認定。

 

なお、被害ロードバイクに過失を20%つけた理由は、並走状態に陥ってからの動きです。
この事件、刑事事件の認定のようにロードバイクが時速35キロで進行する大型車の横、たった1mの左側端から追い抜きしたという時点でも不可解だし、民事の認定のように並走状態に陥ってからロードバイクが加速したという点でもやや不可解な面がありますが、興味がある方は判決文をどうぞ。


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