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なぜ歩行者の青点滅信号には「速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと」が規定されているのか。

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こういう意見を見ると、そもそもの理由とか考えないのだろうか?と疑問がありますが、

例えば黄色灯火。

信号の種類 信号の意味
黄色の灯火 一 歩行者等は道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者等は、速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと
二 車両及び路面電車(以下この表において「車両等」という。)は、停止位置を越えて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。

歩行者と車両では明らかに規定内容が違います。
なぜこうなっているのでしょうか?

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昭和35年時点では

道路交通法が制定された昭和35年時点ではまだ「歩行者用の人の形をした信号」がありません。
当時の黄色灯火について確認します。

信号の種類 信号の意味
黄色の燈火又は「ちゅうい」の文字 一 歩行者は道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者等は、速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと

二 車両及び路面電車(以下、この表において「車両等」という。)は、交差点にあってはその交差点(交差点の直近に横断歩道がある場合においては、その横断歩道の外側までの道路の部分を含む。以下この表において同じ。)の直前において、その他の場所で横断歩道がある場所にあってはその横断歩道の直前において停止しなければならず、また、交差点又は横断歩道に入っている車両等は、その交差点又は横断歩道の外に出なければならないこと

※まだこの時代には「停止線」がありません。

 

今と歩行者のついては変わりませんが、昔は車両についての黄色灯火は

 

「止まれ、既に交差点に入っている車両は交差点から出ろ」

 

という規定でした。

 

歩行者には「速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと」とありますが、車両に「引き返せ」はムリなのはわかりますよね。
いきなりバックしだしたり転回しだしたら危険なんてもんじゃない。

 

そうすると、当時の歩行者の規定「速やかに、その横断を終わる」と車両についての「交差点又は横断歩道に入っている車両等は、その交差点又は横断歩道の外に出なければならないこと」はほぼ同義だったものと捉えることができます。

 

車両について「速やかに」なんて記述すると、無意味にスピードアップして危険になるのはバカでもわかるので、そこについては歩行者と車両の特性で分けていたのでしょう。

昭和45年改正

昭和45年施行令改正では車両の黄色灯火について、下記が但し書きとして追加されています。

ただし、注意の信号が表示された時において当該位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。

そして「交差点又は横断歩道に入っている車両等は、その交差点又は横断歩道の外に出なければならないこと」については削除。

 

このように改正した理由は言うまでもありませんが、以下が理由。

従来、注意信号の意味は、車両等に対し、交差点等の直前で停止しなければならないこととされていたが、車両等が交差点等の直前に接近していると、急に停止することによって、かえって後続車両の追突等の危険が生ずるおそれがあるので、このような場合には当該車両等を停止させずにそのまま進行させようとする趣旨である。

 

「道路交通法の一部を改正する法律」(浜邦久、法務省刑事局付検事)、警察学論集、1970年9月、立花書房

まあ、当たり前ですね。
黄色灯火を遵守するために急ブレーキが使われまくったら、メチャクチャになる。
ただし、施行令改正前も法解釈上、黄色灯火だから何が何でも止まれなんていう無理難題を課していたわけではなくて、交差点の直近にて黄色灯火になって停止不可能な場合はそのまま進行することが許容されていたようです。
つまり実質的には歩行者の規定にある「速やかにその横断を終わる」というのと同様に、「速やかに交差点から出る」という形だったと。

 

そして昭和46年改正では現在の50条が新設。

(交差点等への進入禁止)
第五十条 交通整理の行なわれている交差点に入ろうとする車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、交差点(交差点内に道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線をこえた部分。以下この項において同じ。)に入つた場合においては当該交差点内で停止することとなり、よつて交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入つてはならない。
2 車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、横断歩道、自転車横断帯、踏切又は道路標示によつて区画された部分に入つた場合においてはその部分で停止することとなるおそれがあるときは、これらの部分に入つてはならない。

このような流れで、現在の規定にある形になっています。

その上で

歩行者の黄色灯火や青点滅に、

速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと

とあるのに、車両については同様の規定はありません。
「引き返せ」についてはバックするわけにはいかないので車両に同じ規定を作ることが不合理なのはわかりますが、車両については「交差点から出る」として歩行者でいう「速やかに横断を終わる」と実質的に同等のルールになっていました。

 

しかし車両については、速やかに交差点から出るみたいな規定にすると無意味に高速化しやすくなる懸念と、黄色灯火で何が何でも止まろうとして急ブレーキ勢が対立するような危険すらあるわけで、現在の内容に改正。

 

その上で50条を新設し、そもそも交差点内にとどまる可能性があるときには、青信号だろうと交差点に進入することを禁止してバランスを取ったのでしょうね。
ちなみに歩行者については、横断した先に歩行者が溢れていて横断歩道上にとどまる危険性がある場合だからといって、青信号で横断を禁止する規定はありません。

 

なので歴史から見ていくと、「歩行者にだけ追加される」のではなく、車両については不合理だから削除したというのが正解でしょう。
元々は「速やかに云々」に相当する規定は、歩行者にも車両にも存在していた。
しかし車両については不合理だから削除したため、歩行者にのみその規定が残ったのかと。

 

ところで、歩行者の黄色灯火や青点滅にある

速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと

について。
「速やかに」とは、当然ながら歩行者の能力に応じた「速やか」になるわけで、高齢者や障害者、怪我人にダッシュを強いるような話ではない。
「時速何キロ以上」みたいな絶対的基準ではなく、あくまでも歩行者の能力や状況に応じた話を指しているのは明らか。
青信号で適法に横断を開始している以上、原則としては途中で赤信号に変わろうと道路交通法38条1項による優先対象になるわけで(札幌高裁 昭和50年2月13日判決参照)、歩行者が優先になることには変わりない。
そうすると歩行者の黄色灯火や青点滅に「速やかに」などと「残している」ことの意味は、わざとノロノロ横断して邪魔することを目的としたようなイタズラへの対策くらいの意味しかないんじゃないかと思う。

 

立ち止まって妨害することは76条4項2号(禁止行為)で規制していますが、ワケわからん牛歩戦術みたいなアホが出てきたら立ち止まってないのでね笑。

 

歩行者について「速やかに云々」をあえて「残している」意味なんてそんな程度なんだろうなと思いますが、「歩行者に追加される」のではなく、「車両には不合理だから削除した」と見るほうがより正確なんだろうし、そもそも他の条文にて歩行者保護を規定している以上、それで十分なんでしょうね。

 

まあ、どういう経緯でこのような規定になっているのかは改正史とその当時の資料を見ていかないとわからないので、警察にイチャモンつける暇があるならまずは自分で調べるのが筋だろうけど、このような規定って他条との関係性も含めて捉えないと、その真意を理解することは難しい。
なので他国の信号規定だけを単純比較する人って心配になる。

 

なお、黄色灯火については最高裁判所第一小法廷 昭和47年5月4日判決などがあります。

 


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