以前書いた記事なんですが、
若干疑問に感じる判例が見つかったので紹介します。
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一方通行規制は適正なのか?
まずは前回記事のおさらいから。
一方通行規制がある道路の「両端」には「一方通行」と「車両通行止」の規制標識があるものの、途中の小道からは「指定方向外進行禁止」しかない。
「指定方向外進行禁止」は「右折」を禁止しているのみで、一方通行の効力がないから無効なのでは?という話ですね。
要は何らの事情で左折後に道路外に出た後に、
当該車両については、先ほどの交差点における「右折禁止」のみが規制としてかかっていて、一方通行規制の効力が及んでないと解釈しうる。
で、疑問に思った判例。
東京高裁 昭和40年7月23日判決です。
事件の概要。
・被告人が逆走した道路は、規制道路の両端には「一方通行」と「車両通行止」の規制標識があるものの、交差道路から進入するにあたり「一方通行」を示す標識も「指定方向外進行禁止」の標識もなかった。
・しかし被告人は、当該道路が一方通行規制されていることを知っていた。
判決としては、無罪。
ところで、道路交通法第7条、第9条、同法施行令第7条によれば、道路交通法により公安委員会が行う車両の通行の禁止、制限は、総理府令・建設省令(すなわち標識令)に定められた道路標識を設置して行わなければならない旨規定しているから、公安委員会が行う道路の通行の禁止、制限は、その内容を標示する道路標識によつてしなければ法的効力を生じないものと解すべきである(昭和37年4月20日最高裁判所第二小法廷判決、最高裁判所刑事判例集第16巻4号427頁)。そして、標識令にいわゆる「一方通行」とは当該道路において指定方向に逆行する通行を禁止する場合の通行方式をいうものであるから、道路の一方通行を行うには標識令に従い「一方通行にする区間の前面及び区間内の必要な地点における路端」に「一方通行」を標示する規制標識(326)号を、またその道路の出口には「道路の中央又は左側の路端」に「車両通行止」(302)号を標示する規制標識を設置することを要するものといわなければならない。すなわち、道路の一方通行を行うには、その入口及び出口に右のような規制標識を設置するほか、区間内の必要な地点にも一方通行を標示する規制標識を設置しなければならないことが明らかである。しかして、一方通行の道路の途中に分岐点があつて、その地点から一方通行の道路へ車両の進入が予測される場合にはその分岐点は右にいう必要な地点に該ると解すべきことは勿論である。けだし、かかる分岐点は、原判決もいうとおり、そこから進入する車両が入口に向う場合は出口に当り、出口に向う場合は入口に当る関係になること言うまでもないからである。然るに本件道路は前述のとおり、その入口と出口には適式な道路標識が設置されていたのであるが、原審及び当審における検証の結果に徴すれば、自動車の進入することが当然予想される本件分岐点には、本件事件当時何らの規制標識が設置されていなかつたことが明らかである。さすれば、本件事件当時には、本件道路の出口から入口方面に向つて車両が通行することは有効に禁止されてはいたけれども、本件分岐点には公安委員会による有効な通行の禁止、制限の処分はなされていなかつたことになるから、本件分岐点から本件道路に進入する車両に対しては入口方向に至る通行を禁止する効力は生じていなかつたものと解するのが相当である。されば本件道路が一方通行の道路であることを理由に、本件分岐点から進入する者を処罰することは許されないものと解すべきである。
東京高裁 昭和40年7月23日
まあ、これはそうでしょう。
ただし、若干気になる点。
所論は、本件分岐点より北の谷方面に通ずる道路は幅員3.5mの狭隘なもので、特に区間内の必要な地点とは認められないとするかの如くであるが、当審における証人Aの証言及び被告人本人の供述によれば、これまでにも被告人やその弟らは車を運転して屡々本件分岐点から本件道路に進入していることが窺われ、これを当審における検証の結果に照らしても、本件分岐点が標識設置の必要性のない地点とは到底認められないのみならず、現に本件発生後、右分岐点にも指定方向外進行禁止の道路標識が設置されたのであつて、この一事に徴しても本来必要のない地点であつたとするのは当らないこと明らかである。
東京高裁 昭和40年7月23日
この事件後に「指定方向外進行禁止」が設置されたとあります。
指定方向外進行禁止のみでも、実質的には狭い道路において転回することすらできないし、事実上の一方通行規制として効力があると捉える余地があるのかなと思いまして。
そもそも、一方通行逆走として検挙するのではなく、指定方向外進行禁止の違反として検挙すれば足りるとも言えるので(道路外に出た後の話を除けば)、ちょっとわかりません。
本件事件当時、被告人が本件道路が一方通行であることを知つていたことは、これを窺うことができるけれども、すでに説明したとおり、本件分岐点においては車両の通行規制が有効に行われていなかつた以上、被告人に右のような認識があつたかどうか或いは右の認識を欠いた点に過失があつたかどうかは本件違反の成否には何ら影響するところがない。
以上を要するに、被告人には本件道路交通法違反の罪は成立せず、これと同旨に出でた原判決は正当であつて、検察官の論旨は理由がない。
東京高裁 昭和40年7月23日
ただし、指定方向外進行禁止の場合は必ず一方通行規制というわけがないことを考えると、指定方向外進行禁止と一方通行規制は全く違う内容になるわけで、両方の標識が必要になる気がします。
交通規制は
たぶん、こうした不備を探せば日本中いくらでも見つかるような気がするのですが、あまり深いことを追及すると警察は崩壊するんじゃないかとすら思う今日この頃。
どちらにせよ、青切符を導入して以降はこうした事例をわざわざ争う人が少ないわけで、だから道路交通法違反の判例は少ないのですけどね。
「一方通行」と「車両通行止」の規制標識が交差道路から視認可能な設置が必要だと思うけど、なぜにこの事件以降に指定方向外進行禁止の規制標識を設置して終わりにしたのだろうか?という疑問がある判例です。
まあ、一方通行規制があることを知りながら「標識の不備」をついて逆走するのもどうなんですかね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
以前に一方通行道路をバイクを押して逆方向に歩き、行った先の交差点から交差道路に入って走り出したら期せずして一方通行の逆走になっていたことがあります。弁解すれば許してもらえそうでしょうか?
コメントありがとうございます。
状況がよくわかりませんが、交差点に有効な標識があれば当然違反です。
わかりにくくてすみません。本記事の図で縦の道がC→Dの一方通行になってて、D→Cにバイクを押し歩いた場合です。一方通行道路を逆に歩いた先の交差点ですから一方通行の入口にあたります。逆から来た車両向けの標識はありません。(交差道路を逆走して前から来たクルマのドライバーに注意されるまで気づきませんでした)
コメントありがとうございます。
ですので、有効な標識が交差点にあるかどうか次第です。
承知しました。ありがとうございます。しかし、狭い路地から出てきた場合とかも標識なくて一方通行わからないことが多々ありますね。ちょこっと道路標示入れるとかしてほしいものです。(違反にするかどうかはおいといて)