ちょっと前に質問を頂いたのですが、
これは一応理由があります。
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左追い越しが禁止されている理由
昭和35年に道路交通法が制定されたときに「追い越しは右側から」とされましたが、その理由は主に二点。
①速い車両は右側という「キープレフト」の徹底
②追いつかれた車両の義務
②から。
まず、追い越しって「追いつく」ことが第一の要件になりますが、「追いつく」とは26条でいうところの車間距離に迫った状態です。
前車と後車の進路が重なることが条件。
以前も書きましたが、道路交通取締法時代は追い越しする後車はクラクションを鳴らすことが義務でした(旧令24条2項)。
旧法時代は、クラクションを聞いた先行車が左に寄って進路を避譲する義務がありました(旧令24条3項)。
追い越しする際にクラクションを吹鳴する義務は道路交通法においては廃止されましたが、「追い付かれる」ということは、先行車の動きを制約します。
27条では一定の要件を満たした場合、追い付かれたら左側端に寄ることを求めているわけ。
その際、後続車が「左右どっちから追い越ししてもいい」というルールだったなら
○先行車→追い付かれて左側に寄ろうとした
○後続車→左側から追い越ししようとした
下手すりゃ、左側に寄ろうとした先行車と、左側から追い越ししようとする後続車がぶつかるでしょ笑。
追い付く、追い付かれる関係は先行車の動きに制約を課すので、右側からしか追い越しできないルールにしたわけ。
右側追い越しの原則をとったのは、車両の通行区分においては、すでに述べたように速度の遅いものから左側に寄って通行することがたてまえとされており、また、避譲する場合も原則として左側に寄ることとなっているからである。なお、旧令においては、やむを得ない場合における左側追い越しを認めていたが、新法では、危険防止を徹底させるため、このような例外を認めないことにした。したがって前車の運転者は、後車の追い越しについては、常に右側のみを注意していればよいわけであるから、それだけ危険の発生する度合が減少するものと考えられよう。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961
追い付かれる先行車にも制約があるので、左右どっちから追い越ししてもOKにすることは衝突リスクがある。
追い付かれた先行車は左側に寄る、追い付いて追い越しする後続車は右側から追い越しする。
そして「追い抜き」の場合、そもそも追い付く、追い付かれる関係にないので先行車に制約がかからないから関係ないことになります。
車両通行帯がある道路では、そもそも特別な事情がない限りは第一通行帯を通行する義務があるので、第二通行帯を通行する車は、第一通行帯に戻らなければならない(20条1項、3項)。
その段階で「追いつかれた」ときに、もし左側追い越しが禁止されていなかったら
○先行車→第一通行帯に戻ろうとする
○後続車→左側から追い越ししようとする
衝突リスクが高まります。
最初から違う進路にいた「追い抜き」と、同一進路&車間距離が詰まっている「追い越し」では双方に関係する危険度が違う。
追い付く、追い付かれる関係は相互に注意があるわけですが、それぞれのプレイ方向を決めないとぐちゃぐちゃになりかねない。
なので左側追い越しを禁止しているわけです。
一応は意味がある
27条の追いつかれた車両の義務が「第四節 追越し等」に規定されているのは、追い越しという行為は先行車にも一定の制限を掛けるからです。
そもそも、旧道路交通取締法時代は、追い越しと追いつかれた車両の義務が令24条にまとめられていた関係から、セットなんですね。
追い越しする際にクラクション鳴らさないと違法という時代があったわけで…
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない。
3 前項の合図があったことを知った場合において、前車が後車よりも法第16条第1項および第2項の規定による順位が後順位のものであるときは、前車は、後車に進路を譲るために道路の左側によらなければならず、その他のときは、追越を妨げるだけの目的をもって後車の進路を妨げる行為をしてはならない。
以前も書いたけど、旧道路交通取締法時代ってある意味興味深い判例がありまして、旧令24条2項に基づいてクラクションを鳴らしても、先行車が合図に気がついて避譲しない限り追い越しすることが違法だとする判例が残っています(ただし反対意見もあり)。
およそ追越の場合においては、交通の安全を確認しなければならないことは、右法条の明記するところであり、そのために追い越そうとする後車は警音器を鳴らし又は掛声その他合図をして前車に警戒を与えることを要し(第2項)、右合図があったときは前車は避譲する等して後車の進路の障害にならぬよう措置すべき義務をもっている(第3項)のを見れば、後者がなした合図を前者が気がつかぬときは止むを得ない場合を除いては追い越ししてはならぬものと解すべきである。
東京高裁 昭和25年11月2日
追い越し前の警音器吹鳴義務が削除された理由は、騒音問題です笑。
なぜ左側から追い越しが禁止されていて、左側から追い抜きが禁止されていないかについては、「追いつかれた車両の義務」との関係が大きいように思います。
追いつかれた車両にも一定の制限がかかる以上、追いつかれた車両は左側に寄り、追い付いた車両は右側から追い越しすることで秩序形成したかったと理解できますが、このあたりの流れは旧道路交通取締法からの改正史を追っていくほうが理解しやすいと思います。
↓
道路交通法の問題点を考えるときに、そもそもどういう経緯でそのルールにしたのかわからないと改善案もないのよね。
ニッポンの追い越しは、元々はクラクション鳴らしてドケドケ攻撃してから追い越ししないと違法だったことが出発点なのです。
まあ、クラクションのみならず「掛け声」も認められていた時代なので、
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない。
昭和感が凄まじい。笑。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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