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なぜ?赤信号無視で最高裁まで?

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以前取り上げたこちらの判例について質問を頂いたのですが、

 

交通取締が変わったかもしれない判例。
判例を調べている段階でちょっと面白いのを見つけました。 車の交通違反は、原則として切符を切り反則金を支払えば刑事訴追されないシステム。 赤信号無視で違反切符を切ろうとしたけど、本人は黄色で通過したと思っているので拒否し、パトカーの車載カメラ...

 

ちょっと分かりにくいのかな、この判例。
被告人は「信号無視はしてない!」と裁判で争ったわけではありません。

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争ったのはなに?

まずは事件の概要。

(1) 被告人は,平成27年7月12日午後8時11分頃,大阪府内の道路において,赤色の灯火信号を看過してこれに従わないで,停止線を越えて普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転して進行した。同所付近で交通取締りに従事していた警察官らは,上記事実を現認したことから,直ちにパトカーを発進させて追跡を開始し,被告人車両を停止させた。警察官らは,被告人に対し,赤色信号無視を現認したなどと告げて降車するように求めたが,被告人が,黄色信号だったと主張して違反の事実を認めず,降車を拒否し,運転免許証も提示しなかったこ
とから,被告人を道路交通法違反(信号無視)の現行犯人として逮捕した。
(2) 被告人は,交通取締りの現場や逮捕後に引致された警察署で,警察官らに対し,対面信号機が赤色であったことを示すパトカーの車載カメラの映像(以下「本件車載カメラ映像」という。)の提示を求めたが,警察官らは,その映像が存在するにもかかわらず,そのようなものはないと言って拒否した。警察官らは,被告人を釈放した後,交通反則切符を作成し,被告人に対し,交通反則告知書の記載内容及び交通反則通告制度について説明したが,被告人が「信号は黄色や」などと上記主張を繰り返し,交通反則告知書の受領を拒否したことから,本件を受領拒否事件として処理することとした。
(3) 被告人は,検察官から取調べを受けた際も,対面信号機は黄色であったと主張したが,その後,本件車載カメラ映像を見せられると,赤色の灯火信号を看過した事実を認め,交通反則通告制度の適用を求めた。検察官は,平成28年4月5日,被告人を起訴し,第1審裁判所は,公判期日を開いて審理した上,同年6月14日,公訴事実どおりの事実を認め,被告人を罰金9000円に処する判決を言い渡した。

流れはこう。

 

・赤信号無視で検挙されたが、「赤じゃない!黄色だ!」と否認

・「ドラレコ映像あるのか?」と聞いたところ、取締りした警察官が「そんなもんない」と回答

・映像がないので反則金支払いを拒否し、検察に送致

・検察官の取り調べでも「黄色だ!」と主張したものの、検察官が第2回取り調べ時にドラレコ映像を見せた

・ドラレコには赤信号無視の証拠がバッチリ

・第3回取り調べ時に「信号無視認めます。やっぱり反則金払うから反則金制度の適用お願い!」と求めたが、検察官は反則金制度の適用には戻せないとして起訴

・一審(枚方簡裁 平成28年6月14日)は「過失による信号無視」として有罪判決

 

という流れ。
反則金制度は反則金を支払うことで刑事責任を問われない仕組みですが、この場合被告人自らが否認して反則金制度の適用を拒否した扱いだから検察に送致。
検察に送致された後に「やっぱり認めるから反則金制度の適用キボンヌ」は通用しないよ~という流れです。

 

で。
被告人が控訴した理由は、刑訴法379条(訴訟手続きの違法)なんですが、二審(大阪高裁 平成28年12月6日)は職権で以下を認定。

2 原判決は,被告人が交通反則告知書の受領を拒んだのは,本件車載カメラ映像が存在するにもかかわらず,そのようなものはないと言って提示を拒否した警察官らの不誠実な対応が一因を成しているというべきであるからそのことを棚に上げ,一旦交通反則告知書の受領を拒んだ以上その効果は覆せないなどとして,道路交通法130条2号に当たると解するのは,信義に反するものであり,被告人が本件車載カメラ映像を見せられた後,速やかに交通反則告知書受領の意思を示した本件のような場合は,被告人が一旦交通反則告知書の受領を拒むという事態があったとしても,同号に当たらないと解するのが相当であるとする。

要は検察官がドラレコ映像を見せた後には信号無視の事実を認めた上で反則制度の適用を求めたことからも、警察官がドラレコ映像を見せていれば被告人が否認して反則告知書の受領拒否は起きてないし、警察官の不誠実な態度が受領拒否になったのだから、反則金に戻してやれやとして裁判を打ち切りにする判決(公訴棄却)を出した。

 

しかし最高裁は二審の判断を破棄。

しかしながら,上記の事実経過のとおり,被告人は,警察官らが交通反則告知書の記載内容及び交通反則通告制度について説明をした際,赤色の灯火信号を看過した事実を否認して交通反則告知書の受領を拒否したのであるから,道路交通法130条2号に該当する事由があることは明らかである。なお,被告人が赤色の灯火信号を看過したことを示す証拠である本件車載カメラ映像の提示を求めたことに対し,それが存在するにもかかわらず,警察官らがそのようなものはないと述べたことがあったとしても,交通反則通告制度においては,同号該当性を否定する事情とはならないというべきである。したがって,第1審裁判所が不法に公訴を受理したものということはできない。

 

最高裁判所第一小法廷 令和元年6月3日

なので裁判での争点は「信号したか?」ではなく、「反則告知書の受領拒否から検察送致された後に、違反を認めて再び反則制度の適用に戻せるか?」です。

 

なお、最高裁判決には補足意見がついてます。
裁判所ホームページをどうぞ。

映像で明らかなら争う余地がない

読者様からの質問は「信号無視してない!と争ったのか?」ですが、そこについてはドラレコ映像があるので、どう頑張っても覆りません。

 

あくまでも「受領拒否して検察に送致された後に、再び反則制度に戻せるか」「そのような状況で起訴したことは違法か」が争点です。

 

大阪高裁判決を見る限り、判決理由としては①警察官が「ドラレコないよ」とウソをついたこと、②検察官がドラレコ映像を見せた後は違反を認めたこと、を考慮して「最初から見せていれば受領拒否してないし、それなら反則金制度に戻してやれや」という特殊な事情から画期的な判決を下したと思われますが、最高裁は全否定。

 

最初から認めていれば反則金支払いで終了ですが、受領拒否して起訴された以上、反則金と同額の罰金+前科のお土産付きになります。

 

道路交通法違反について納得いかないとして受領拒否から争う人もいるだろうし、その全てが起訴されているわけでもないです。
争う権利はありますが、争った先に無罪があるとは限らない。

 

まあ、警察官が「ドラレコないよ」じゃなくて「見せないよ」だったら受領拒否してない可能性もありますが、反則金制度はあくまでも迅速な違反処理を目的に作られたわけで、現場の警察官もイチイチドラレコを見せる義務はないことになります。

 

補足意見

交通反則通告制度は,道路交通法に違反する罪に当たる行為のうち一定の軽微なものについて,警察官による告知及び警察本部長による通告により,反則者に反則金納付の機会を与え,これに応じて任意に反則金を納付した者は,当該行為について公訴を提起されないこととして,事件の簡易迅速な処理を図ろうとする行政上の措置として設けられたものである(最高裁昭和55年(行ツ)第137号同57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1169頁参照)。
このような制度であることから,警察官は,反則者があると認めるときは,その者の居所又は氏名が明らかでない場合等を除き,書面により,反則行為となるべき事実の要旨,反則行為の種別等を告知すべきものとされ(道路交通法126条1項),同書面には,交通反則通告制度の手続を理解させるため必要な事項を記載するものとされている(同条2項)が,その交付に当たり,上記の範囲を超えて,反則者の求めに応じて反則行為となるべき事実を証する資料・証拠等を提示ないし教示することは求められていない。また,同事実及びその犯人の確定は同法違反の罪についての捜査として行われるものであるが,捜査の手続上,司法警察職員としての警察官が被疑者である反則者に収集された証拠等を提示ないし開示する必要があるとする理由を見いだすことはできない。その他,当審弁護人が指摘する警察法等の関係法令を検討しても,上記提示等を必要とする法的な根拠があるということはできない。
そうすると,本件の事実経過の下において,被告人が赤色の灯火信号を看過したことを示す本件車載カメラ映像の提示を求め,それが存在するにもかかわらず,警察官がそのようなものはないと述べたことがあったとしても,交通反則通告制度の手続について誤解を招くようなものでもなく,警察官は,道路交通法の上記規定に従い,被告人に交通反則告知書の記載内容等を説明してこれを交付しようとしたところ,被告人が反則行為となるべき事実を否認して受領を拒否したというのであるから,同法130条2号にいう「書面の受領を拒んだ」場合に該当することは明らかであり,これを否定すべき事情はないということができる。

 

最高裁判所第一小法廷 令和元年6月3日

取締りの現場においてきちんと納得行くような証拠を提示するような義務はないし、あくまでも迅速な違反処理を目的としているわけですが、何年もかかって最高裁まで行くくらいならドラレコ見せれば瞬間解決していたとも言えるわけで笑。

 

そういう意味では矛盾を抱えている気もしますが、違反者みんなが「ドラレコ見せろ」と騒いでは検察送致後に認める…という流れは阻止したかったのかもしれません。
争う人が多数だと反則金制度の意味がなくなるし。


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