過失運転致傷罪(自動車運転処罰法)が無罪になったからといっても、行政処分は別というのは市民感覚からすればズレていると思いますが、法律上は「別」になってしまう。
交通事故をめぐる刑事裁判で無罪となったにもかかわらず、運転免許の取り消し処分が変わらないのはなぜなのでしょか。免許の取り消しは無効だとして、福岡県を相手取り裁判を始めた福岡市の女性について、福岡高等裁判所は26日、1審に続き、女性の訴えを認めました。
無罪なのになぜ戻らない? 交通事故での運転免許取り消し『無効』訴え 福岡高裁は1審支持(FBS福岡放送) - Yahoo!ニュース交通事故をめぐる刑事裁判で無罪となったにもかかわらず、運転免許の取り消し処分が変わらないのはなぜなのでしょか。免許の取り消しは無効だとして、福岡県を相手取り裁判を始めた福岡市の女性について、福岡高等
なぜ警察はこのような運用になるのでしょうか?
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刑事と行政は別という仕組み
これについてはなかなか難しい話ですが、刑事訴訟は「疑わしきは被告人の利益に」、行政処分は「疑わしきは被告の過失に」みたいな運用になっているのだと思う。
以前もチラっと書いたけど、警察的には安全運転義務違反(70条)や交差点安全進行義務違反(36条4項)をカジュアルに認定しすぎなんですね。
どちらも本来、判例上の認定基準はまあまあハードルが高い。
ところで、そもそもこの事件の争点がなんなのかについては、報道にある通り。
刑事裁判では、「バイクは軽トラックの前方を進行し追突した」とする検察側に対し、弁護側は「急発進したバイクが車線をまたぎ、前に飛び出してきた」と主張しました。
福岡地方裁判所は、バイクの急な車線変更の可能性を認めて優子さんに無罪を言い渡し、検察側は控訴せず、判決が確定しました。
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刑事事件(福岡地裁 令和2年5月7日)の内容をざっくりまとめると、報道の通り。
警察の捜査を経て検察側が主張していたのは、主には「同一車線上の追突」。
しかし被告人側が主張していたのは、「第1通行帯で停止していた原付が、突如第2通行帯に進入してきた」。
事故そのものの映像がないため、警察の再現実験やら目撃者の証言(目撃者は事故そのものを見たわけではなく、第1車線左端に停止していた原付を目撃)などから、被告人側の主張を採用。
第1通行帯の歩道寄りに停止していた原付が急加速して第2通行帯に車線変更してくることは予見できないし、前方左右を注視していても回避することは困難として無罪の判決。
そして行政事件は「運転免許取消処分の取消」を求めて提訴したものです。
結局、警察(公安委員会)的には「刑事事件と行政処分は別」というところなんでしょうけど、その考え方自体は法律上はその通り。
ただまあ、「別」とは言え、要は公安委員会が決定した免許取消処分の基礎として、事故態様が「同一車線上で原付に追突した」という前提で免許取消処分にしていたわけ。
「同一車線上で原付に追突した」ということを基礎として、以下の処分をしている。
・一般違反行為→「安全運転義務違反」(道路交通法70条、2点)
・違反行為に付する付加点数→「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によつて発生したもの」(施行令別表第2の3、13点)
合計15点として免許取消にしたわけです。
なおそれ以前は優良運転者とあります。
しかし、刑事事件の認定は「同一車線上で原付に追突」ではなく、「第1通行帯の歩道寄りに停止していた原付が急加速して第2通行帯に車線変更してきて衝突」。
公安委員会的には、刑事事件での認定に不合理な点があるし、刑事事件と行政処分は「別」なんだから、あくまでも「同一車線上で原付に追突」した事実として押しきろうとしたようですが、行政訴訟は一審、二審ともに原告の主張を認めて「運転免許取消処分の取消」にした形です。
刑事訴訟と行政訴訟で違う事実が認定される可能性もありますし(それぞれ別に審理されます)、刑事訴訟と民事訴訟だと全く違う事実に認定されることもあります。
一例↓
ただまあ、「刑事事件と行政処分は別」という建前に拘りすぎずにもう少し柔軟に対応しても良さそうな気がしますが、良くも悪くも行政が一度処分を決定した後には、自ら撤回することはマレです。
一度決定したら、あとは裁判以外では動かない。
行政訴訟の難しさ
以前も書いてますが、行政訴訟の原告勝訴率は10%以下です。
行政訴訟は勝てない裁判。
原告が勝訴しても、あくまでも「処分の取消」なのでお金を得るわけでもありませんし、弁護士費用は自腹です。
よく勘違いされますが「訴訟費用は被告の負担とする」と主文にあっても、ここでいう訴訟費用には弁護士費用を含みません。
あくまでも印紙代や交通費などの話ですから…
そういう点も含めて、「刑事事件と行政処分は別」という建前に拘りすぎずにもう少し柔軟に対応してもいいんじゃないかと思いますが(原告側に負担が大きすぎる)、そもそも、事故態様がどうだったのかについて警察の捜査も雑なんじゃなかろうか。
なお、行政訴訟の一審は福岡地裁 令和5年3月15日です。
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