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ひき逃げ無罪事件、最高裁へ上告へ。

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ちょっと前に解説した件ですが、

 

救護義務と「直ちに」の話。なぜひき逃げ無罪に?
ちょっと前になりますが、このような報道がありました。 田村政喜裁判長は「直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできない」として、懲役6月とした一審長野地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。 事故を巡っては同年、過失運転致死罪で男性の有罪...

 

東京高検は控訴審判決を不服として、最高裁判所に上告したそうな。

2015年、長野県佐久市の中学生が車にはねられ死亡しました。東京高裁はひき逃げの罪に問われた男性について逆転無罪を言い渡しましたが、検察はこの判決に不服とし上告しました。

 

中学3年男子死亡事故 口臭防止剤を購入で飲酒隠蔽も…東京高裁「すぐに戻って救護、ひき逃げに当たらない」“逆転無罪”判決 東京高検が不服として上告(NBS長野放送) - Yahoo!ニュース
2015年、長野県佐久市の中学生が車にはねられ死亡しました。東京高裁はひき逃げの罪に問われた男性について逆転無罪を言い渡しましたが、検察はこの判決に不服とし上告しました。 2015年3月、佐久市で
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上告審の争点は

一審判決文をみると争点は道路交通法72条1項の「直ちに」にありますが、

(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。

「直ちに」の解釈はこう。

右報告が果して道路交通法72条1項後段所定の報告をした場合にあたるかどうかについて案ずるに、右にいう「直ちに」とは、同条1項前段の「直ちに」と同じくその意義は、時間的にすぐということであり「遅滞なく」又はというよりも即時性が強いものであるところ、同条1項前段の規定によれば交通事故であつた場合、事故発生に関係のある運転者等に対し直ちに車両の運転も停止し救護等の措置を講ずることを命じているのであるから、これと併せてみると同条1項後段の「直ちに」とは右にいう救護等の措置以外の行為に時間を籍してはならないという意味であつて、例えば一旦自宅へ立帰るとか、目的地で他の用務を先に済すというような時間的遷延は許されないものと解すべきである。
蓋し同法が右報告義務を認めた所以は、交通事故の善後措置としては、先ず事故発生に関係のある運転者等に負傷者の救護、道路における危険防止に必要な応急措置を講ぜしめるとともに、これとは別に人身の保護と交通取締の責務を負う警察官をして負傷者の救護に万全の措置と、速やかな交通秩序の回復につき適切な措置をとらしめるためであるから、現場に警察官がいないときの報告も、時間を藉さず直ちになさねばならないからである。

 

大阪高裁 昭和41年9月20日

一審で認定された事実はこんな感じ。

・被告人は飲酒運転をし、横断歩道を横断する被害者(歩行者)をはね飛ばした。
・被告人はフロントガラスが蜘蛛の巣状にひび割れたことから(事故の認識)、事故現場から約95.5m離れた地点で停止。
・被告人は被害者を約3分探したが、靴などは発見できたが被害者を発見できなかった。
・通行人から「救急車呼びましたか?」などと声を掛けられたが、その時点では通報しなかった。
被告人は飲酒運転を隠すためにコンビニに向かいタブレットを購入。その間に通行人が被害者を発見し通報。
・通行人が警察に通報している間に戻ってきた被告人は、被害者の人工呼吸などをした

一審の長野地裁は、「飲酒運転発覚回避行動」を「救護の遅延」と判断して有罪判決にしてますが、東京高裁は破棄して無罪。

 

東京高裁の中身がよくわからないのですが、関係する判例として以下があります。

救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動を取れば、直ちにそれらの義務に違反する不作為があったものとまではいえないのであって、一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する

 

東京高裁 平成29年4月12日

一審の長野地裁は「飲酒運転発覚回避行動」としてコンビニに向かった時点で救護義務よりも飲酒運転発覚回避行動を優先させた、つまり「救護義務及び報告義務の履行と相容れない状態に至った」と判断してますが、報道をみる限り東京高裁は「一定の時間的場所的離隔を生じさせて」について判断が分かれたのかなと。

 

そして最高裁に上告するようですが、道路交通法72条1項の「直ちに」について何らかの判断を示すのかもしれません。

 

ところで、東京高裁 平成29年4月12日判決。
この判例は危険運転致死が有罪、救護義務違反が無罪。
概要ですが、事故現場から約300m走らせてから停止した事案について、危険運転致死は「殊更信号無視」で有罪ですが、救護・報告義務については一審の横浜地裁、二審の東京高裁ともに無罪。
その説示がこれ。

検察官は、人身事故を惹起した被告人が、a交差点で信号待ちで停止をしていたにもかかわらず、被害者の救護に向かうなどせず、そこから被告人車両を発進させて約150m進行したのに、救護義務違反及び報告義務違反の成立を認めなかった原判決は、「直ちに車両等の運転を停止して」の解釈適用について、人身事故を惹起した運転者に生じる内心の動揺や混乱を救護義務及び報告義務の履行遅滞を認める正当理由として認めるかのごとき誤った法解釈をしたものであり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。

 

しかしながら、救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動を取れば、直ちにそれらの義務に違反する不作為があったものとまではいえないのであって、一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する

 

東京高裁 平成29年4月12日

ただし今回の報道の件とは状況がだいぶ違いますし、冒頭の件についてはフロントガラスが蜘蛛の巣状にひび割れて事故が起きたことを認識し、被害者の靴などは発見できたが被害者を発見できないまま、通行人が「救急車呼びましたか?」という問いかけにも通報せずにコンビニに向かい飲酒運転発覚回避行動を優先したという事案。

 

時間的距離的にコンビニに行ったことが短時間、短距離だとしても意図的に被害者の捜索(救護)を一時放棄したわけなので、これを「直ちに」の範疇と捉えるのはちょっと違うんじゃないかと疑問が浮かびます。

「直ちに」とはなんなのか?

被告人がコンビニに行った時点では被害者を発見できてなかったわけですが、捜索することを一時放棄、一時中断した場合でも「直ちに」と言えるのかは果てしなく疑問です。

 

ちなみにこの件、一時不再理については一審時点で「問題なし」と判断されてます。

 

個人的にはおかしな高裁判例を残さないほうがいいように思いますが…
あとそもそも、この事件は既に過失運転致死罪で有罪判決が出てますが、最初から捜査を尽くして過失運転致死罪+救護義務違反・報告義務違反を一緒に問うべきだったように思う。
複雑な経緯からこのようになっているのはわかりますが…


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