事故の本質は何らかの不注意にありますが、「自転車を押して歩く人」は歩行者として扱われます。
歩道上で「自転車を押して歩く人」は、民事でどのように扱われるのでしょうか?
Contents
自転車vs自転車を押して歩く人
判例は東京地裁 令和4年11月11日。
事故の概要です。
歩道橋のスロープを「自転車に乗ったまま降りてきた」原告が、「自転車を押して歩いていた」被告に衝突。
原告は衝突地点から9m吹っ飛んで骨盤や鎖骨の骨折、脳挫傷、急性硬膜外血腫など重傷を負い、「専ら被告に原因がある」として提訴。
被告は自らが負った傷害と、不当な提訴により違法に応訴を強いられたとして損害賠償請求(反訴)。
スロープは長さ85m、階段なし。
そもそもこの状況は「自転車に乗りスピードを出してスロープを下った原告」と、「自転車を押して歩く歩行者たる被告」の衝突事故。
原告がなぜ被告を提訴するのかというと、被告側から歩道橋のスロープに進行するにはUターンのような状態になるから押して歩くにしてもスロープの状況を確認する注意義務があるし、被告はスマホを操作していたから注意義務違反があると主張しているようです。
なお被告側からの反論としては「そもそもスマホを契約したことがなく、事故発生の通報も近隣の人に依頼した」。
さて、裁判所が「自転車を押して歩く歩行者」の過失を認めるのか?になりますが、以下の過失割合を認定。
原告(自転車) | 被告(自転車を押して歩く歩行者) |
100 | 0 |
原告の請求を棄却し、被告の反訴請求の一部を認めた形になります。
なお、「原告の提訴が違法」だとする反訴は認められていません。
自転車を押して歩く人
自転車を押して歩く人は道路交通法上は歩行者ですが、歩行者に30%の過失を認めた判例もあります。

これはちょっと特殊な事例で、道路外から歩道に向かって「自転車を押して歩いていた」ところ、歩道通行自転車と接触した事例。
福岡高裁宮崎支部 令和2年6月3日判決が「自転車を押して歩く歩行者」にも過失を認めた理由をみるに、接触部位を重視したように見えます。
こうではなくて、
自転車の「後部」に接触。
目の前を通りすぎる自転車の「後部」に接触したことから、「自転車を押して歩く歩行者」にも回避可能性があると見なしたような印象です。
さて。
冒頭の件ですが、
道路交通法上、誰が悪いかは明らかな気がしますが、こういうのってややこしいことに提訴された以上は出廷したり、答弁書や準備書面を作成したり、弁護士に一任するしかない。
裁判で勝ったとしても、弁護士費用は相手に請求できません。
ワケわからない貰い事故でも訴えられたら悲惨なので、事故に遭わないように注意することは大事。
まさかこのような事故態様で、
「自転車を押して歩く歩行者に専ら過失があるよ!」なんて提訴されるとはなかなか思わないでしょうけど、現実的にはあります。
そしてスロープを下る際は、降りて押して歩く方がいいわけです。
衝突地点から9mも吹っ飛んで重傷…これ、歩行者自身に衝突していたら下手すると衝突された歩行者が死んでます。
電動アシスト自転車のようなのでなおさら。
けど、スロープをまあまあの速度で降りてくる自転車ってまあまあいます。
以前駐輪場の管理人に聞きましたが、過去にスロープを乗ったまま下って事故は何回か起きていると…

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント