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なぜ「消えた横断歩道」での事故は無罪になったのか?

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先日書いた件。

 

消えかけた横断歩道と、車両の注意義務。消えた横断歩道には停止義務はない?
横断歩道が消えかけているのはよく見かけますが、 過失運転致傷罪に問われた運転手の刑事裁判では、横浜地裁川崎支部が19年11月の判決で「車両進行方向の横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」だったとして、無罪を言い渡した。これを受けて...

 

過失運転致傷罪に問われた運転手の刑事裁判では、横浜地裁川崎支部が19年11月の判決で「車両進行方向の横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」だったとして、無罪を言い渡した。これを受けて被害者と家族は20年10月、運転手の勤務先と県を相手取り、1億3900万円の損害賠償を求めて民事訴訟を起こした。

 

「消えた横断歩道」ではねられた 摩耗を放置した神奈川県も一部責任を認め和解 劣化した白線は全国に:東京新聞 TOKYO Web
川崎市の横断歩道で歩行者が車にはねられた一因は「白線」が消えていたことにあると、道路標示を管理する責任を負う神奈川県が過失の一部を認め...
読者様
読者様
教えてください。仮に横断歩道が無かったとしても横断歩行者はねたら有罪だと思うのですが、なんで無罪になったのでしょうか?

仮に横断歩道がなかったとしても、注意義務を果たして回避不可能な事故なら普通に無罪になります。
その上で、前回も書いたように判決文が見つからないので想像になってしまいますが、ちょっと検証してみます。

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なぜ無罪になったか?

前回も書いたように、「道路交通法上は」信号がない横断歩道には道路標識と道路標示の両方が必要。
ただし、今回の罪状は過失運転致傷。

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

「必要な注意」って、必ずしも道路交通法上の義務のみではなく予見可能な事故を回避しなかったこと全般を指します。
なので道路交通法上の義務と、過失運転致傷の注意義務は別。

道路交通法所定の義務と業務上過失致死傷罪における業務上の注意義務とは、一応別個に考えなければならない

 

最高裁判所第一小法廷  昭和48年3月22日

冒頭の件ですが、事故の態様は対向車あり、横断歩行者は右→左に横断したようです。

これですが、横断歩道の路面標示がきちんと確認できて、標識もあるなら「道路交通法38条1項前段」により、仮に横断歩行者が視認できなくても「横断しようとする歩行者が明らかにいない」とは言えない以上、減速接近義務がありますよね。

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない

対向車があり死角が生じるなら、当然大幅に減速する義務がある。

 

ところが今回は、路面標示がほとんど消失し、予告表示もだいぶ消えかけている。

 

事故発生3ヶ月前の予告表示。
だいぶ消えかけている。

事故発生3ヶ月前の横断歩道。
完全に路面標示が消失。

いやはや、酷いな…

報道を見る限りの推測ですが、「標識」と「予告表示」から「横断歩道の存在が理解できる」と検察が主張したのかな?と思う。
あくまでも道路交通法違反ではなく過失運転致傷。
「予見可能な事故を回避しなかったこと」が問題になるわけですが、標識と予告表示があれば「横断歩行者の存在が予見可能」⇒減速して警戒する義務があったのに怠った過失がある、みたいな主張をしたんじゃないですかね。

実際のところ、他の判例では横断歩道の路面標示が消えかけていても、「被告人は何度かここを通行して横断歩道の存在を認識していた」というところから注意義務違反を認定しています。

被告人は、(中略)、交通整理の行われていない交差点を(中略)に向かい直進するにあたり、過去に同交差点を通行したことがあったため、同交差点出口に横断歩道が設けられ、その白線表示の一部が消失し、一部が残存していることを知っていたのであるから、歩行者等が同表示に従って横断することを予見できた上、当時、同表示の手前の右側車線には右折待ちの停止車両があったため、同表示の右方の見通しが困難であったのであるから、同表示の手前で徐行又は一時停止し、同表示に従って横断する歩行者等の有無に留意し、その安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、

 

大津地裁 令和3年2月12日

道路交通法上は路面標示がないと「横断歩道がない」になりますが、あくまでも過失運転致死傷罪。
そして大津地裁判決では、量刑判断の中で「被告人車両の進行方向の車線上の横断歩道の白線表示がほぼ消失し」として考慮している。

 

けど冒頭の横浜地裁川崎支部判決は、路面標示の消失から「車両進行方向の横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」として、横断歩道が存在しない(横断歩行者がいることが予見できない)として減速接近義務を否定したのかなと思われます。

そうなると、あとは被告人から歩行者が視認可能になった地点で事故の回避が可能か?が判断されるわけで、

回避不可能という判断なんじゃないですかね。
対向車が死角になるので、被告人から横断歩行者が視認可能になるのが「どの地点なのか?」の問題になってしまいます。

横断歩道がない場合

ちょっと前に挙げた札幌地裁 令和5年4月18日判決。
横断歩道がないところを子供が乗る自転車が右→左に横断して起きた事故です。

被告人は、被告人車両を運転し、本件道路の第2車線(以下「本件第2車線」という。)をf方面からg方面に向かって進行していた。被告人車両の後方で第1車線を走行していたB運転車両(以下「B車両」とい
う。)のドライブレコーダー映像(甲5〔211110162401_0033.mp4のファイル〕)によれば、再生開始から24秒頃、被告人車両がB車両を追い越した。その前から32秒頃にかけて、対向車線は第1車線を中心に断続的に車が走行しており、被告人車両は、24秒頃から32秒頃まで約15m間隔で進行する10台の対向車両とすれ違い、その後衝突するまでは対向車両とすれ違っていない。
他方、32秒頃、被害者自転車が対向車線側歩道から対向車線に進入を開始した。
その後、被害者自転車はさらに被告人進行車線に進入し、34から35秒頃、公訴事実記載の場所である本件第2車線上(以下「本件衝突場所」という。)において、被告人車両と衝突した。38秒頃、被告人車両は停止した。

3 本件衝突場所付近の道路状況についてみると、本件道路は、本件衝突場所の9.8m手前で市道(以下「本件市道」という。)と交差しており、本件道路が優先道路であった。

 

札幌地裁 令和5年4月18日

対向車の影に「横断自転車」が隠れてしまうため、被告人から横断自転車が視認可能になるのは「どの地点か?」が争点になりました。

検討された点はこちら。

①被害者自転車が歩道上にいた時点(㋐付近)
②被害者自転車が歩道から車道に乗り入れ始めた時点(Ⓟ’1付近)
③被害者自転車全体が対向車線の第1車線上に進入した時点(Ⓟ’2付近)
④被害者自転車が対向車線の第2車線に進入し(Ⓟ’3)、又は、中央線に到達した(㋑)時点

裁判所は④の地点で視認可能と判断してますが、要はこの時点で急ブレーキを掛けても事故の回避が不可能。
なので無罪になっています。

 

見通しが悪い交差点ですが優先道路なので徐行義務もない。
そうなると視認可能な地点で制限速度で通行していて急ブレーキで回避可能か?が問題になるわけです。

 

冒頭の報道についてですが、たぶんこんな感じでしょう。

・横断歩道の存在を「認識できない」と判断された
・なので予め減速して警戒する義務が否定された
・被告人から横断歩行者が視認可能になった地点で、事故の回避が不可能と判断された

これが仮に「横断歩道の存在を認識できた」と判断されたら、「予め減速して警戒する注意義務」があり、注意を果たして減速していれば事故の回避が可能だったと判断されるだけ。
なので横断歩道の存在を認識できたか?が争点だったと考えられますが、検察官が何を主張したのかはわかりません。

 


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