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消えた横断歩道、刑事と民事の差。

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だいぶ前に書いたこちら。

 

なぜ「消えた横断歩道」での事故は無罪になったのか?
先日書いた件。 過失運転致傷罪に問われた運転手の刑事裁判では、横浜地裁川崎支部が19年11月の判決で「車両進行方向の横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」だったとして、無罪を言い渡した。これを受けて被害者と家族は20年10月、運転...

 

この事件は横断歩道の道路標示が消失していて、事故の3ヶ月前の状況。
だいぶ消えかけている。

事故発生3ヶ月前の横断歩道。
完全に路面標示が消失。

なんか世の中には「無罪=0:100確定!」みたいな重大な勘違いをする人が結構いますが、この事件って民事と刑事の差がある意味ではよく出ていると思う。

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民事と刑事の差

まず、事故の概要。

事故は2018年10月31日昼に発生した。川崎市川崎区の片側2車線の市道で信号機のない横断歩道を渡っていた男性が、左側から直進してきたタンクローリーにはねられた。一命は取り留めたものの、右半身にまひが残り、高次脳機能障害の影響で介護が必要になった。
周辺は工場地帯。大型トラックが頻繁に往来し、舗装が傷みやすい。県警は18年4月、現場近くの企業から消えかかった横断歩道の白線を塗り直すよう要望を受けていた。だが、それから半年がたっても県警は周辺と合わせて状況を確認中で補修はしていなかった

「消えた横断歩道」ではねられた 摩耗を放置した神奈川県も一部責任を認め和解 劣化した白線は全国に:東京新聞 TOKYO Web
川崎市の横断歩道で歩行者が車にはねられた一因は「白線」が消えていたことにあると、道路標示を管理する責任を負う神奈川県が過失の一部を認め...

消えかけた横断歩道で起きた事故。
この通り、道路標示は完全消失。

刑事事件の認定がこれ。
横断歩道を認識することは著しく困難と判断してますが、おそらくは「横断歩道がない」とみなすしかなく、予見可能性を否定したのだと思われます。

過失運転致傷罪に問われた運転手の刑事裁判では、横浜地裁川崎支部が19年11月の判決で「車両進行方向の横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」だったとして、無罪を言い渡した。

 

「消えた横断歩道」ではねられた 摩耗を放置した神奈川県も一部責任を認め和解 劣化した白線は全国に:東京新聞 TOKYO Web
川崎市の横断歩道で歩行者が車にはねられた一因は「白線」が消えていたことにあると、道路標示を管理する責任を負う神奈川県が過失の一部を認め...

判決は「車の進行方向の横断歩道を示す路面の白線標示は完全に消失していた。現場が横断歩道上であると認識するのは困難」などとし、「横断歩行者の予見は可能ではなかった」とした。また、検察側が「被告は過去に現場を複数回通行していた。横断歩道と認識できた」と主張した点については、「道路標示を記憶することを運転者に義務付けすることはできない」と退けた。

 

白線が消えた横断歩道、「摩滅が一因」で交通事故 県が受け入れ和解:朝日新聞デジタル
横断歩道を歩行中、車にはねられたのは横断歩道の白線が摩耗して消えていたためだなどとして、川崎市の男性(66)らが道路標示を管理する神奈川県などに損害賠償を求めた訴訟は24日、横浜地裁川崎支部で和解が…

朝日の記事によると、検察官は「被告人が事故現場を何回も通行していたことから横断歩道があることを認識していた」と主張していたらしい。
しかし「道路標示を記憶することを運転者に義務付けすることはできない」として無罪としている。

 

横断歩道を認識できなければ、38条1項前段の減速接近義務が否定されてしまう。
まあ、「道路交通法上は」信号がない横断歩道には標識と標示の両方が必須要件なのですが(令1条の2第3項)、道路交通法違反の判例ではなく過失運転致傷の判例。
道路交通法上の義務がなくても、「横断歩道があること」を客観的に認識できれば注意義務はあると考えられますが、道路標示が完全消失しているとなると注意義務まで否定されてしまう。

 

そして民事は和解だそうですが、刑事では「横断歩道は完全に消失し認識することは著しく困難」、「道路標示を記憶することを運転者に義務付けすることはできない」、民事では「現場を繰り返し走行して横断歩道を認識できていたはずだ」としている。

「消えた白線」が争点となった裁判で同支部は今年6月、総額6700万円の和解金の支払い案を提示。現場を繰り返し走行して横断歩道を認識できていたはずだとして、過失割合の9割(6030万円)は運転手の勤務先にあるとしたが、県にも1割(670万円)の過失があるとした。双方が受け入れ、和解が成立した。

 

「消えた横断歩道」ではねられた 摩耗を放置した神奈川県も一部責任を認め和解 劣化した白線は全国に:東京新聞 TOKYO Web
川崎市の横断歩道で歩行者が車にはねられた一因は「白線」が消えていたことにあると、道路標示を管理する責任を負う神奈川県が過失の一部を認め...

同支部は今年6月に和解を勧告した。県によると、運送会社には「運転手は現場の道路を幾度も往復して、道路標識などもあることから横断歩道の存在を認識していた」と指摘し、県についても「事故前に横断歩道の道路標示の摩滅は連絡を受けていた。状況を認識できた。摩滅が事故の一因になったと認められる」とした。

白線が消えた横断歩道、「摩滅が一因」で交通事故 県が受け入れ和解:朝日新聞デジタル
横断歩道を歩行中、車にはねられたのは横断歩道の白線が摩耗して消えていたためだなどとして、川崎市の男性(66)らが道路標示を管理する神奈川県などに損害賠償を求めた訴訟は24日、横浜地裁川崎支部で和解が…

刑事と民事では過失認定の深さが違うのでこうなりますが、刑事は処罰を目的にし、民事は被害者救済を目的とするから過失認定の深さが違うのは当たり前。

 

刑事責任としては「現場を繰り返し走行していても横断歩道を視認できないし、道路標示を記憶する義務はない」とし、民事責任としては「現場を繰り返し走行して横断歩道を認識できていたはずだ」と真逆とも言える内容になる。

 

1億3900万円の損害賠償を求めて総額6700万円の和解金の支払い案を提示とあるのは、被害者にも一定の過失を認めたのか、それとも被害者が請求した内容のうち因果関係がない部分を排除したのかはわかりません。
仮に損害として認定された額が請求の満額になる1億3900万円なら、歩行者過失として50%程度減額されていることになりますが、詳しくはわかりません。

 

刑事事件で無罪になることと、民事の過失は基本的には無関係です。
無罪になると民事過失0%になると勘違いしている人がまあまあいるので書いておきます。

消えかけた横断歩道

神奈川県では16年2月にも、白線の消えかかった横断歩道で小学生の死亡事故が発生している。その後、2年間かけて集中的に塗り直したが、20〜22年度に改めて調べると、全体の2割で60%を超える消失が確認された。本年度は12億円を補修に投じる方針だ。
全国的な傾向も大きくは変わらない。警察庁が20年8月に行ったサンプル調査によると、横断歩道が61%以上摩耗していたのは13.2%、41%以上は30%近くに達した。21年10月には「道路標示が消えかかったままにすることは、横断歩行者を危険にさらす」と各都道府県警などへの通達で、早急な塗り直しを求めた。

 

「消えた横断歩道」ではねられた 摩耗を放置した神奈川県も一部責任を認め和解 劣化した白線は全国に:東京新聞 TOKYO Web
川崎市の横断歩道で歩行者が車にはねられた一因は「白線」が消えていたことにあると、道路標示を管理する責任を負う神奈川県が過失の一部を認め...

この和解については、神奈川県の責任を1割認めた点も特徴。
要は以前から「消えかけているから塗り直して」と陳情されていたのに放置していたのは事実ですし、県に責任があるのは当然。

 

Googleマップの映像(事故3ヶ月前)では道路標示は完全消失に近い状況なのに、県の対応はどうかと思う。

 

事故の半年前には現場近くの会社関係者から、横断歩道の補修をするように要望があった。県側は「現場を見た担当者は、総合的に十分、認識できる状態と判断していた」と主張し、事故当時、補修はしていなかった。

白線が消えた横断歩道、「摩滅が一因」で交通事故 県が受け入れ和解:朝日新聞デジタル
横断歩道を歩行中、車にはねられたのは横断歩道の白線が摩耗して消えていたためだなどとして、川崎市の男性(66)らが道路標示を管理する神奈川県などに損害賠償を求めた訴訟は24日、横浜地裁川崎支部で和解が…

県がいう「十分」というのはいったい…
民事は判決ではなく和解だそうですが、行政ってとりあえず争う姿勢をみせるみたいなのってどうなんだろ。

 

以前の記事で挙げた別の刑事判例は、同じく横断歩道の道路標示がだいぶ消えていたようですが、実際にどの程度消えていたのかはわかりません。
量刑判断では「被告人車両の進行方向の車線上の横断歩道の白線表示がほぼ消失し」とあるのでかなり消えていたのは間違いないと思うけど、以下の過失により有罪に。

被告人は、(中略)、交通整理の行われていない交差点を(中略)に向かい直進するにあたり、過去に同交差点を通行したことがあったため、同交差点出口に横断歩道が設けられ、その白線表示の一部が消失し、一部が残存していることを知っていたのであるから歩行者等が同表示に従って横断することを予見できた上、当時、同表示の手前の右側車線には右折待ちの停止車両があったため、同表示の右方の見通しが困難であったのであるから、同表示の手前で徐行又は一時停止し、同表示に従って横断する歩行者等の有無に留意し、その安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、

 

大津地裁 令和3年2月12日

ただしこの判例、判決文を読む限りでは被告人側が積極的に争ったような雰囲気ではありません。

 

「道路交通法上は」信号がない横断歩道について標識と標示の両方がないと「横断歩道が存在しない」ことになりますが、

(公安委員会の交通規制)
第一条の二
3 法第四条第一項の規定により公安委員会が横断歩道又は自転車横断帯(以下「横断歩道等」という。)を設けるときは、道路標識及び道路標示を設置してするものとする。ただし、次の各号に掲げる場合にあつては、それぞれ当該各号に定めるところによることができる。

道路交通法「だけ」に異常なこだわりを持つ道路交通法テロリストの人からすると、「標示が消えている以上は横断歩道が存在しないんだ!」と捉えるしかないでしょうけど、道路交通法だけで世の中が回っているわけじゃないし、そもそも過失運転致死傷罪の成立は道路交通法違反とは必ずしも関係しません。

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

「道路交通法違反により」ではなく「自動車の運転上必要な注意を怠り」ですしね。
民事責任についてはもっと大雑把で、

(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

道路交通法違反の話をしているわけではなく、「過失」つまり不注意全般を対象にしている。

 

道路交通法、自動車運転処罰法、民法、自賠法など目的とするところが違います。
無罪だから賠償責任を免除されるわけではないし、道路交通法違反がないから過失運転致死傷罪が成立しないわけでもないし、道路交通法違反があっても過失運転致死傷罪が不成立になることもあるし、道路交通法違反があっても民事賠償責任が免責になる場合も当然あるのですが、なぜか多い意見がこれ。

いろんな人
いろんな人
無罪だから0:100で決まり!

無罪でも民事過失が80%になった判例とかもあるし、やや珍しいけど有罪だけど民事は無過失なんて判例もあります。
要は刑事責任と民事責任は必ずしも相関性があるわけではないのですが、

道路交通法上はこの状態が「横断歩道がない」になるのは運転者・歩行者ともに同じなわけで。
仮に自動車運転処罰法や民事責任を道路交通法と完全一致させたら被害者保護にはならないので(直後横断ですし)、

道路交通法の具体的義務のほかに「過失」、「注意義務」という概念がないと、成り立たないのでしょうね。
道路交通法テロリストの人からすると、道路交通法上は「横断歩道がない」なのにおかしいとでも考えるのでしょうか。

 

民事責任と刑事責任に差が出るのはよくあることですが、それこそ下記なんて、民事と刑事では事故態様すら違います。

 

ロードバイクの事故と、本当の原因⑤。
以前こちらについて書いてますが、 続編です。 前回までのおさらい まず、刑事は無罪です。 刑事事件で認定された内容はこちら。 刑事事件の概要です。 ・被告人は一貫して幅寄せしてないと主張 ・左側に寄せたとする鑑定人の意見は不自然、不合理とし...

 

刑事 民事
事故態様(認定事実) 自転車がクルマを追い抜きした クルマが自転車を追い抜きした
結果 クルマの運転者は無罪 クルマの過失は80%

真逆の事故態様に認定されるのもなかなか不思議ですが、刑罰を課す刑事責任における過失認定と、被害者の利益回復を目的とする民事責任は根本的に意味が違うという典型例なのかもしれません。

 

ちなみに余談ですが、法2条1項4号にて横断歩道の定義が「道路標識又は道路標示」となっているのに、施行令では「道路標識及び道路標示」となっている理由は、昭和38年改正時に「未舗装路に横断歩道を設置可能にしたため」です。
未舗装路には道路標示をかけないので、法改正した影響。
未舗装路に横断歩道を設置する場合には、施行規則に基づいて標識が4本必要です。


コメント

  1. スレイ より:

    この横断歩道の問題いつも法律って絵に描いたもち?と思うのですが
    横断歩道は道路標示と標識がセットで無いと効力が無い
    イコール雪国では冬期間の路地にある横断歩道は十中八九が効力無効になるのですが(^-^;
    圧雪路の下に道路標示が埋もれ真っ白になるので・・・

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      確かにおっしゃる通りなのですが、積雪特例があるので別記事で解説します。

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