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左折禁止のT字路、二段階右折義務が本当にあるかは疑問が残る話。

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ちょっと前になりますが、左折禁止のT字路で二段階右折しなかった件がありますよね。

ちょっと気になって調べていたのですが、判例上は本当に二段階右折義務があるか、ビミョーになってきました。
その理由を説明します。

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本当に二段階右折義務があるか?

要はこの交差点は、指定方向外進行禁止(左折禁止)。

つまり全車両が右折しかできない。

 

さて判例の件ですが、仙台簡裁 昭和38年2月13日。
T字路を左折東進する際に、合図を出さなかったことから合図履行義務違反に問われたもの。

前記曲角を左折東進する以外に、自動車の進行し得べき道路はないのであるから、その道路に沿い前進する場合、自動車運転者としては、上記の如き見とおしのきかない曲角においては、徐行又は警音器吹鳴等の方法により衝突の危険を回避すれば足り、特に左折の合図までする要はないものと思われる。何となれば、法の合図を命ずる趣旨は、例えば、一直線の道路でも、横断するとか、転回又は進路を変えるような場合は格別、そのまま前進する場合には、特に合図の要はなく、丁字路とか十字路又はY字路等の道路を進行する自動車がいずれの方向に進行するのか、後続の自動車又は前方から進行してくる自動車或いは通行人等に自車の進行方向を示し、衝突等の危険を未然に防止せんとする趣旨に外ならないのであるから、前記の如く、事実上丁字路の一方が通行止になっていて、自車がそのまま道路に従って前進するような場合、進行道路が屈曲していたからといって、殊更、左折の合図をする要はないものと解するのが相当である。

 

仙台簡裁 昭和38年2月13日

この判例では左折しかできないT字路について、事実上の曲がり角と捉えて左折合図をする必要はないと解釈している。

 

で、これ。

左折進行禁止のT字路ですが、仙台簡裁の解釈によれば事実上右方向への曲がり角に過ぎないと解釈できるわけで、「右折」ではないとも取れる。

 

自転車に二段階右折を課している理由は、速度が遅い軽車両が左折前に道路中央に寄ること自体の懸念です。
要は後続直進車と交錯するリスク(右左折車は徐行義務があるから交錯し難い)から歩行者の横断に近い形にしている。

その意味では、「直進」がないT字路で自転車が道路中央に寄ることに大きなリスクはないのですが、ミラー装備義務がない自転車が進路を変更することにリスクがあるので(ノールック進路変更)、その意味ではT字路だろうと二段階右折する理由があります。

 

しかし、「左折禁止のT字路」、つまり全車両が右折する交差点ですよね。
全車両が右に行くので交錯する要素がない。

仙台簡裁の解釈によれば、左折禁止のT字路で二段階右折する理由がない。
事実上単なる曲がり角とも言えるので。

 

で、仙台簡裁判決には続きがありまして、検察官が「事実誤認」として控訴しています。
検察官の控訴趣旨はこれ。

本件丁字路の一方は、本件当時通行止になっておらず、車馬の通行に供せられていたのであるから事実誤認がある。のみならず、法53条は、たとえ一本道であっても、右折、左折に際しては合図を要求しているものと解すべきであるから、法令の解釈適用に誤りがある。

事実誤認と法令解釈の誤りの2本立てで控訴。
仙台高裁 昭和38年12月17日判決は、事実誤認の主張(つまり一方が通行止めではない)を認めて有罪にしてますが、一審の法令解釈については何ら判断していない。

 

この件は「最新道路交通法事典」(東京地方検察庁交通部研究会、東京法令出版、1974)に書いてありますが、「実務道路交通法新版」(久保哲男、立花書房、1986)では仙台簡裁判決のみを掲載し控訴審の判断には触れていない。
一審の法令解釈を尊重しているわけですよ。

 

「左折禁止のT字路」について、本当に二段階右折義務があるのかはだいぶ怪しいですね。
ちょっと前に書いた件にしても、一般原付やオートバイが「左折禁止のT字路」で道路中央に寄る義務があるか怪しいと書きましたが

事実上全ての車両が右折しかできない交差点なので、単なる曲がり角と捉えたところで間違いとも言い難い気がします。

そもそもの話

T字路の場合と、左折禁止のT字路を同視するのも不思議だなぁと思ってましたが、一方にしか進行できないT字路で本当に二段階右折義務があるかはだいぶ怪しい気がします。

 

なので「そんなに責める問題なのか?」と疑問視してましたが、一応はこういう判例もあり、検察庁の解説書や久保哲男氏(検察官、弁護士、警察大学校講師)の解説書ではこのような判例を取り上げていると書いておきます。

 

そもそも、昭和42年に反則告知制度を導入した関係から道路交通法違反の判例はかなり少ないですし、自転車の道路交通法違反についてはなおさら少ない。
誰もこんなもんで検挙されて起訴されてないから判例がないわけで、その意味では自転車のルールって定説と言えるものがない。

 

自転車の並走にしても、警察庁の解釈と日弁連・野下解説では違いますし、

 

自転車が「歩道」で並走して違反になるか?解説書と警察庁の見解から。
ちょっと前に書いたこちら。 まとめておきます。 歩道での並進を推進する立場ではなく、あくまでも法解釈の話として捉えてください。 自転車の並走と解釈 いくつかの解説書に書いてある見解のおさらいから。 自転車の並走は19条で規制されています。 ...

 

昭和20年代には、無灯火の自転車のペダルに片足をかけ、地面を三回蹴って約5m前進した行為が、自転車の無灯火通行に該当するかを争った判例もありますが(広島高裁松江支部 昭和25年8月30日判決)、こんなしょーもない話でも起訴しないと裁判所が判断を出さない。
なおこの判例は無罪です。

 

左折禁止のT字路で本当に二段階右折義務があるかはだいぶ怪しい、としておきます。
信号の件も考慮する必要はありますが、信号の件を考慮しても判例上は「単なる曲がり角」と解釈しうるので。

 

なお当たり前ですが、右左折可能な場合には当てはまりません。


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