ちょっと前から注目していた事件なのですが、このような事故がありまして。
本日判決公判でした。
2022年7月、札幌市中央区の交差点で、横断歩道上にいた女子中学生(当時13)を車でひいて死なせたとして、過失運転致死の罪に問われていた男性(72)の判決公判が23日、札幌地裁(井下田英樹裁判長)であった。井下田裁判長は「女性が自死を企図した可能性を否定できず、男性が女性の飛び出しを予見するのは困難だった」などとして、無罪を言い渡した。
起訴状などによると、同年7月7日未明、男性は乗用車を運転中に、横断歩道上にいた女子中学生をはねて死亡させたとされる。信号は車側が青で、歩行者側が赤だった。公判では、男性に過失が認められるかどうかや、中学生の死と男性の運転行為に因果関係があるかどうかが争点になっていた。
検察側は、「(男性に)注意義務違反があった」と訴えた。防犯カメラ映像をもとにした事故鑑定から、男性が運転していた車の時速が84~92キロだったなどと指摘し、「指定最高速度の時速50キロを守って、前方左右をよく見て運転すれば事故を回避できた」としていた。
一方で弁護側は、「(男性が)女性が飛びだしてくることを予見することは不可能だった」として、男性に過失は認められないと訴えていた。男性が脇見運転などをせずに前方をよく見て運転していたと主張し、歩行者が赤信号を無視して青信号を進む車の前に飛びだしてきた場合に、「人の発見が遅れ、直ちに適切な回避措置をとることが難しくなるのは経験則上、明らかだ」などとした。
また、事故鑑定の方法に誤りがあると指摘したほか、女子中学生が亡くなったのは故意に自殺を試みたからだとし、仮に男性に過失があっても、それと中学生の死には因果関係がないと訴えていた。
「自殺企図」疑いの中学生が車にひかれ死亡 運転した男性に無罪判決(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース2022年7月、札幌市中央区の交差点で、横断歩道上にいた女子中学生(当時13)を車でひいて死なせたとして、過失運転致死の罪に問われていた男性(72)の判決公判が23日、札幌地裁(井下田英樹裁判長)
札幌市の交差点で2022年7月、乗用車で女子中学生=当時(13)=をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われた札幌市西区の男性(72)に、札幌地裁は23日、自殺の疑いを否定できず「衝突を予見できる可能性は認められない」として無罪(求刑罰金50万円)を言い渡した。
判決によると、男性は22年7月7日、札幌市の時速50キロ制限の道路を84キロを超える速度で走行し、交差点に進入。対向車線から信号に従わず走って横断してきた女子中学生に衝突、死亡させた。
公判で弁護側は、中学生が自殺するつもりで車の前に飛び出し、衝突は予見や回避ができなかったと主張していた。
女子中学生死亡事故で無罪 札幌地裁「衝突予見できず」(共同通信) - Yahoo!ニュース札幌市の交差点で2022年7月、乗用車で女子中学生=当時(13)=をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われた札幌市西区の男性(72)に、札幌地裁は23日、自殺の疑いを
23日午前の判決公判で、札幌地裁の井下田英樹裁判長は、女子中学生が通っていた精神科医への聴き取り、証拠として提出された防犯カメラの映像などから「自死のために飛び出してきた可能性を否定できない」と認定。
その上で、「女子中学生の飛び出しを予見、事故を回避できた可能性には合理的な疑いが残り、被告に過失を認めることはできない」などとして、男性に無罪を言い渡しました。赤信号で飛び出した女子中学生をはね、死亡させた72歳に無罪判決…検察は前方不注意、90キロ前後で走行の過失主張も「自死のための飛び出しを予見、回避できない」(HBCニュース北海道) - Yahoo!ニュースおととし7月、札幌市中央区の交差点で、当時13歳の女子中学生を車ではね、死亡させた罪に問われた72歳の男性の裁判…札幌地裁は23日午前「女子中学生が自死のため、飛び出した可能性を否定できない」など
要は検察側としては、「制限速度内で前方注視していれば回避できた」と主張していたものと思われます。
なお、赤信号無視する歩行者や自転車などを予見する注意義務は「特別な事情がない限り」ありません。
これ自体は昭和43年最高裁判決にある通り。
本件の事実関係においては、交差点において、青信号により発進した被告人の車が、赤信号を無視して突入してきた相手方の車と衝突した事案である疑いが濃厚であるところ、原判決は、このような場合においても、被告人としては信号を無視して交差点に進入してくる車両がありうることを予想して左右を注視すべき注意義務があるものとして、被告人の過失を認定したことになるが、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、そのような交通法規無視の車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務がないものと解すべきことは、いわゆる信頼の原則に関する当小法廷の昭和40年(あ)第1752号同41年12月20日判決(刑集20巻10号1212頁)が判示しているとおりである。そして、原判決は、他に何ら特別な事情にあたる事実を認定していないにかかわらず、被告人に右の注意義務があることを前提として被告人の過失を認めているのであるから、原判決には、法令の解釈の誤り、審理不尽または重大な事実誤認の疑いがあり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
いわゆる「信頼の原則」と言われるものですが、対歩行者(大阪高裁 昭和63年7月7日など)や対自転車(大阪高裁 平成27年5月19日、徳島地裁 令和2年1月22日など)でも確立されているもの。
ただし被害者が赤信号なら必ず信頼の原則が働くわけではなく、前方注視していれば回避できたとして有罪にした判例もあります。
本件は、被告人が深夜(略)普通乗用自動車を運転し、車道幅員約12mで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかり、青色信号に従い右交差点を直進しようとした際、酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名を約13ないし14m先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり、これに反する証拠は存在しないところ、本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため、交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど、被告人車の進路前方右側は左側に比べて若干暗くなっているけれども、(証拠等)によれば、被告人が最初に被害者らを発見した段階では、すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており、しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから、前記見通し状況のもとで、被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。
そして、本件が発生したのは深夜であって、交通量も極めて少ない時間であったこと、本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし、本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること、その他前記本件道路状況等に徴すると、交通教育が相当社会に浸透しているとさいえ、未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく、したがって、本件において、被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし、また、車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。
東京高裁 昭和59年3月13日
判決理由として詳細が出てないので、詳しい内容はわからないのですが、ちょっと疑問。
「時速が84~92キロ」と主張したのは「検察」ですが、同時に被告人側は「事故鑑定の誤り」を主張している。
検察側は、「(男性に)注意義務違反があった」と訴えた。防犯カメラ映像をもとにした事故鑑定から、男性が運転していた車の時速が84~92キロだったなどと指摘し、「指定最高速度の時速50キロを守って、前方左右をよく見て運転すれば事故を回避できた」としていた。
「自殺企図」疑いの中学生が車にひかれ死亡 運転した男性に無罪判決(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース2022年7月、札幌市中央区の交差点で、横断歩道上にいた女子中学生(当時13)を車でひいて死なせたとして、過失運転致死の罪に問われていた男性(72)の判決公判が23日、札幌地裁(井下田英樹裁判長)
一方で弁護側は、「(男性が)女性が飛びだしてくることを予見することは不可能だった」として、男性に過失は認められないと訴えていた。男性が脇見運転などをせずに前方をよく見て運転していたと主張し、歩行者が赤信号を無視して青信号を進む車の前に飛びだしてきた場合に、「人の発見が遅れ、直ちに適切な回避措置をとることが難しくなるのは経験則上、明らかだ」などとした。
また、事故鑑定の方法に誤りがあると指摘したほか、女子中学生が亡くなったのは故意に自殺を試みたからだとし、仮に男性に過失があっても、それと中学生の死には因果関係がないと訴えていた。
「自殺企図」疑いの中学生が車にひかれ死亡 運転した男性に無罪判決(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース2022年7月、札幌市中央区の交差点で、横断歩道上にいた女子中学生(当時13)を車でひいて死なせたとして、過失運転致死の罪に問われていた男性(72)の判決公判が23日、札幌地裁(井下田英樹裁判長)
裁判で認定された速度はいったい何キロなのか、イマイチよくわからない。
けどこれをみると、裁判所の事実認定は「84キロ」なのかな?
判決によると、男性は22年7月7日、札幌市の時速50キロ制限の道路を84キロを超える速度で走行し、交差点に進入。対向車線から信号に従わず走って横断してきた女子中学生に衝突、死亡させた。
女子中学生死亡事故で無罪 札幌地裁「衝突予見できず」(共同通信) - Yahoo!ニュース札幌市の交差点で2022年7月、乗用車で女子中学生=当時(13)=をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われた札幌市西区の男性(72)に、札幌地裁は23日、自殺の疑いを
もう1つ。
「など」の中身のほうが重要なんじゃないかなと。
その上で、「女子中学生の飛び出しを予見、事故を回避できた可能性には合理的な疑いが残り、被告に過失を認めることはできない」などとして、男性に無罪を言い渡しました。
赤信号で飛び出した女子中学生をはね、死亡させた72歳に無罪判決…検察は前方不注意、90キロ前後で走行の過失主張も「自死のための飛び出しを予見、回避できない」(HBCニュース北海道) - Yahoo!ニュースおととし7月、札幌市中央区の交差点で、当時13歳の女子中学生を車ではね、死亡させた罪に問われた72歳の男性の裁判…札幌地裁は23日午前「女子中学生が自死のため、飛び出した可能性を否定できない」など
以前も別件で書いたけど、例えば「被害者が暗い色の服を着ていたことなどから予見不可能だった。無罪」と報道した事例。
確かにその文言は判決文に出てくるけど、それがメインの理由なのか?というとだいぶ疑問が残る。
対向車の陰になっていたことのほうがメインの理由なんじゃないのかなと…
判決理由はリンク先に載せてあります。
今回の報道にしても、裁判所が認定した被告人車のスピードは結局84キロなのか?制限速度を遵守していても回避不可能という判断なのか?など気になる点はありますが、そのうち判決文が出てくると思われます。
検察が控訴するのかもわかりませんが、単純に裁判所の判断として信頼の原則が適用された上に、制限速度を遵守していても回避不可能というだけなんじゃないかと思ってしまいました(詳しくはまた後日判決文を確認しますが…)。
若干不思議なのは、「被害者が赤信号の横断歩道上で立ち止まった後に飛び出した」という報道もある点。
位置関係次第ですが、赤信号の横断歩道上で立ち止まっている歩行者を見つけたら減速して警戒する注意義務があるともいえるので、立ち止まった時点で被告人車との距離なども気になる。
なお、無罪だから民事無過失になるわけではありません。
基本的に別問題。
ただし被害者が故意に起こした事故と認定されてしまうと、無過失もあり得ます。
自転車の事例ですが、赤信号無視した自転車と青信号車両の民事判例をいくつかピックアップしています↓
ちなみにですが、裁判所の認定が「時速84キロ」だとした場合、制限速度が50キロとあるので34キロの速度超過になります。
たぶん「制限速度で通行していても回避不可能」と判断されただけなんじゃないかと予想しますが、そのように判断された場合でも速度超過自体が容認されたわけではないことは付け加えておきます。
仮に「制限速度で通行していても回避不可能」という判断なら、速度超過と事故発生に因果関係がないので「過失運転致死罪」は無罪になりますが、道路交通法違反ではありますから…
報道だけみると、過失運転致死罪が無罪になった理由を正確には読み取れませんが、こういうのを詳しく報道してくれないと誤解を生むだけなんじゃないのかな。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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