電動キックボードのうち、特定小型原付以外なら免許が必要ですが、免許が必要な特定小型原付を無免許で乗り検挙された事案は不起訴が多い印象があります。
新潟区検は1月9日、運転免許を持たず電動キックボードを運転したなどとして、道交法違反(無免許運転)と自動車損害賠償保障法違反(無保険)の疑いで書類送検された新潟市西区の20代女性を不起訴処分とした。理由は明らかにしていない。
電動キックボード無免許運転疑いで新潟県内初摘発、新潟市西区の20代女性を不起訴処分・新潟区検 | 新潟日報デジタルプラス新潟区検は1月9日、運転免許を持たず電動キックボードを運転したなどとして、道交法違反(無免許運転)と自動車損害賠償保障法違反(無保険)の疑いで書類送検された新潟市西区の20代女性を不起訴処分とした。…
これらは得意の「不起訴理由は明らかにしていません」になりますが、ちょっと疑問がありまして。
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起訴猶予?嫌疑不十分?
単純に不起訴と言っても起訴猶予処分と嫌疑不十分では違うわけですが、あれですよ。
「無免許運転罪は故意犯しか成立しない」
無免許運転罪には過失犯の処罰規定がない。
ここで疑問なのは、「免許が必要とは知らなかった」であれば単なる法の不知とも言える。
第三十八条
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
以前も書いたけど、古い判例で「茨城県在住の運転者が、茨城県では禁止されていないサンダル履き運転を福島県内でした」ということについて、「ぼく、知らなかったもん!」は通用せずに有罪にしたものがあります。
違法の認識が犯意成立の要件でないことについては、従来大審院の判例としたところであつたが、新憲法施行後においても最高裁判所は、刑法第38条第3項の解釈として有毒飲食物等取締令違反被告事件につき、犯罪の構成に必要な事実の認識に欠けるところがなければ、その事実が法律上禁ぜられていることを知らなかつたとしても、犯意の成立を妨げるものではない旨の説示をして、従前の判例を維持し(昭和23年(れ)第203号、同年7月14日大法廷判決、刑集2巻8号889頁参照)、その後も同裁判所は、「自然犯たると法定犯たるとを問わず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。」とし(昭和24年(れ)第2276号同年11月28日第三小法廷判決、刑集4巻12号2463頁参照)「犯意があるとするためには、犯罪構成要件に該当する具体的事実を認識すれば足り、その行為の違法を認識することを要しないし、またその違法の認識を欠いたことにつき過失の有無を要しない。」として(昭和24年(れ)第1694号同26年11月15日第一小法廷判決刑集5巻12号2354頁参照)、右大法廷判例の趣旨に従つた判決をしており、当裁判所も、右各判例の見解に従うのが正当であると思料する。
本件において、昭和35年福島県公安委員会第14号福島県道路交通規則第11条第3号は、道路交通法第71条第7号の規定に基づき車輌等の運転者が守らなければならない事項として「運転の妨げとなるような服装をし、又は下駄、スリツパ、サンダルその他これらに類するものをはいて自動車又は原動機付自転車を運転しないこと」と規定しているところ、被告人の原審第1回公判調書中の供述記載、司法警察員作成の犯罪事実現認報告書および被告人の当審公判廷における供述によれば、被告人は、昭和37年9月13日午後4時40分頃福島県双葉郡富岡町大字本岡字前谷地内道路において、サンダルをはいて普通自動車を運転した事実を認識しており、ただ、右規則第11条第3号の規定を知らなかつたにすぎないものであることが認められるから、右各判例の趣旨に徴し被告人の本件所為は、刑法第38条第3項にいわゆる法の不知に該当し、その犯意を欠くものではないといわなければならない。
東京高裁 昭和38年12月11日
サンダルを履いて運転したことを認識していれば、法で禁止されていることを知らなくても故意の成立には影響しない。
ところがですよ?
「免許不要の特定小型原付だと信じきっていたけど、実は違った」という場合には故意が成立しないように思えるのですが、どうなんでしょう?
変な話、「これは塩だ!」と言われて預かった粉末が実はシ○ブだった場合、理屈の上ではシャ○だと認識しないまま所持していたわけだから故意が成立しない。
実際にはそんな下手な言い訳は通用しないでしょうけど。
「これは免許不要な特定小型原付だ」と思って購入した場合、どうするんだろ。
ちなみに違法電動アシスト自転車(つまりは原付)で危険運転致傷罪に問われた事例では、最高速度や出力が電動アシスト自転車の基準を大きく越えていた上に、被告人も電動アシスト自転車の範疇を超えていたことを認識していたとし、原付である確定的な認識がなくてもその危険性を認識していたということから弁護側の「危険運転致傷罪にはならない」という主張を一蹴。
そこそこスピードが出るタイプの電動キックボードなら、原付である可能性を認識していたみたいな話から持っていくのだろうか?
自賠責保険未加入(無保険運行)については、特定小型原付も自賠責保険必須なので、単なる法の不知として故意を認定できると思いますが。
不起訴乱発マシン化
たぶん実態としては起訴猶予処分にし、ちゃんとしろやと温情的な解決をしていそうな気がしますが、検察が起訴する基準ってイマイチ意味がわからない。
例えばこれ。
2022年の話になりますが、横浜地裁の入口に迷惑駐車した人の話が話題になっていたのを覚えていますでしょうか?
神奈川県横浜市の横浜地方裁判所(横浜地裁)の庁舎出口前に、少なくとも2022年1月31日頃から数日間にわたって、1台のクルマが放置されていたことが話題となっています。
各種報道などによると、放置された車両には裁判所へ対する抗議の文面が貼り付けられており、その矛先は私有地への無断駐車そのものが違法行為とされないといった過去の判例に対して向けられているようです。
公道の違法駐車であれば、道路交通法などにもとづいて警察が対処することができますが、個人宅や月極駐車場などの私有地への迷惑駐車に対しては、警察は公道と同じように対処することはできません。
これは、警察には「民事不介入」の原則があり、法に反する行為でない限りは積極的に介入することはできないためです。
したがって、今回の横浜地裁での迷惑駐車に関しても警察へ通報があったようですが、敷地内(私有地)であったことから強く関与することはできなかったとされています。
横浜地裁の「迷惑駐車問題」はなぜ起きた? 警察では解決出来ない理由は? 可能な対策とは - 記事詳細|Infoseekニュース2022年1月31日頃から数日間にわたって、横浜地方裁判所の庁舎出口前に1台のクルマが放置されていました。この事件
いつの間にか、検察が建造物侵入で起訴して有罪だそうな。
乗用車を置き去る目的で横浜地裁敷地内に車で侵入したとして、建造物侵入の罪に問われた海老名市、無職の男の被告(87)の判決公判が26日、同地裁であった。西野吾一裁判官は求刑通り罰金10万円を言い渡した。
判決によると、被告は2022年1月31日午後2時ごろ、民事訴訟に関する主張を記した紙を車内に貼り付けた車を置き去る目的で、同地裁の敷地内に車で侵入した。
判決理由で、西野裁判官は「入場行為は、管理権者の意思に反するものと合理的に判断される」として同罪が成立すると説明。表現の自由を保障した憲法21条などに違反するとした弁護人の主張も「表現の自由は、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するもの」と退けた。
横浜地裁敷地内に車で進入、放置した87歳被告に罰金10万円判決 | カナロコ by 神奈川新聞乗用車を置き去る目的で横浜地裁敷地内に車で侵入したとして、建造物侵入の罪に問われた海老名市、無職の男の被告(87)の判決公判が26日、同地裁であった。西野吾一裁判官は求刑通り罰金10万円を言い渡した。判決によると、被告は2022年1月31…
まあまあ微罪とも言えますが、無免許のほうが重大なような…
不起訴乱発マシン化するのがある種のお約束ですが、実際に電動キックボードの無免許で不起訴が乱発しているんじゃないかと思われます。
ちなみに昨年報道されたこれ、書類送検だそうな。
16歳未満の運転が禁止されている電動キックボードで走行した疑いで、当時15歳の少年らが書類送検されたことが分かりました。
捜査関係者によると、道交法違反の疑いで書類送検されたのは、当時15歳の少年ら4人です。
少年らは、2023年7月から9月の間に、電動キックボードシェアリングサービス『Luup』を利用して、16歳未満の運転が禁止されている電動キックボードで走行した疑いが持たれています。
2023年9月、『Luup』から警察に「16歳未満に貸し出していたことが分かった」などと申告があり、警察が捜査していました。
『Luup』は年齢確認などのため、利用者に、専用アプリで身分証明書の提示を求めていて、少年らはマイナンバーカードの登録は行っていたということです。
調べに対し、少年らは容疑を認めているということです。
【独自】15歳で電動キックボード運転か 少年4人を書類送検 16歳未満は禁止 「Luup」から申告で(関西テレビ) - Yahoo!ニュース16歳未満の運転が禁止されている電動キックボードで走行した疑いで、当時15歳の少年らが書類送検されたことが分かりました。捜査関係者によると、道交法違反の疑いで書類送検されたのは、当時15歳の少年
少年事件なので家裁行きでしょうけど。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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