自転車が歩道を通行する際に徐行義務(63条の4第2項)があることは以前から書いてますが、最近知った事実として警察は「自転車の歩道徐行速度」について
時速7.5キロ
とアナウンスしているそうな。
目安として時速6~8キロとしていたのは知ってましたが、まさか小数点以下の数値まで…
細かすぎて伝わらないし、そもそも自転車にそんな高度な速度調整を求めるのだろうか?
そもそも「徐行」とは何キロを指すのでしょうか?
「徐行」についての判例
道路交通法での徐行の定義はこれ。
直ちに停止できるような速度を徐行と定義している。
判例における徐行をいくつかピックアップしました。
徐行の判例はほとんどの場合「見通しが悪い交差点」(42条1号)についての判断です。
判例 | 実際の速度 | 徐行義務を果たしたか? |
名古屋高裁S41.12.20 | 20キロ | ✕ |
最高裁判所第二小法廷S44.7.11 | 10キロ | ○ |
大阪高裁S59.7.27 | 5キロ | ○ |
東京高裁S33.4.22 | 12、3キロ | ✕ |
本件において右徐行義務を尽くしたと言い得るためには、少くとも時速10キロ以下で進行することを要するものと認められる。しかるに、被告人は、右時速を約10キロも超える時速約20キロで本件交差点に進入したのであるから、被告人に右徐行義務違反の過失があったことは明白であるといわなければならない。
名古屋高裁 昭和41年12月20日
事故当時の被告人の農耕車の速度は時速約10キロメートルであつたと認められ、右速度は、道路交通法2条20号の「直ちに停止することができるような速度」と認められるから、被告人には同法42条の徐行義務違反の事実はない。
最高裁判所第二小法廷 昭和44年7月11日
道路交通法上徐行とは車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうと定義されている(道路交通法2条1項20号)が、具体的に時速何キロメートルをいうかは明らかではないとしても、前記認定の時速5キロメートル程度であれば勿論、時速10キロメートルであつても徐行にあたるものというべく、本件において業務上の注意義務としての徐行としても、時速5キロメートル程度のものであれば、これにあたると解するのが相当である。
大阪高裁 昭和59年7月27日
判例の立場としては時速10キロ以下を徐行としている。
なお、道路交通取締法時代の判例ですが、時速12、13キロは徐行ではないとしたものがあります(ただし法律に徐行の定義がなかった時代の判例)。
同条にいう徐行については、単に減速すれば足りるというものでないことは勿論であるが、それを如何なる程度に減速すれば徐行したことになるかは法は全く規定するところがない。法が一定の場所について徐行を要求する所以のものは、その場所が一般に交通の危険の予想される地点であり、かかる地点では、予め減速し、いわゆる急停車その他の緊急措置をなるべく有効ならしめ、停車する距離を可及的に短縮せしめ、以て交通の危険を防止しようとするにあるのであるから、この法意から見て、徐行とは、その交通危険の状況に応じ、危険発生を未然に防止するに十分な程度に速度を減じ、敏速に停車の措置をとり得るような速度で進行することを指すものというべく、その程度はその道路の広狭、見通しの難易、その他の地形、並びに当該交通機関の種類型状積載量その他諸般の状況を参酌して具体的に認定するより外はない。
前記検証の結果並びに原審並びに当審証人の供述によれば、本件の地点は、いわゆる佐久往還で、交通幅員は曲角近くで約5.5mから6m、曲角の地点で8m乃至10m、路面は平坦で未舗装であり、道路は右方(韮崎方面から見て)に約120度の角度で屈曲し、その曲角に添うて右側に生垣があるため曲角手前から先方への見透は極めて困難であり、かような、状況の下において、前記のとおり大型貨物車(但し積載荷物は殆んどない)を運転すれば、敏速に停車の措置をとり得る速度は尠くも時速10キロ以下であると認められる。
然らば、弁護人の主張するとおり被告人の当時運行した速度が時速約12、3キロとしても、法にいう徐行にあたらないことは明白であるから論旨は理由がない。
東京高裁 昭和33年4月22日
歩道通行自転車の「徐行」
交通の方法に関する教則では、歩道通行自転車の徐行はこれ。
(8) 歩道を通るときは、普通自転車は、歩行者優先で通行しなければなりません。この場合、次の方法により通行しなければなりません。
ア すぐ停止できるような速度で徐行すること。ただし、白線と自転車の標示(付表3(2)22)によつて指定された部分がある歩道において、その部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がいないときは、歩道の状況に応じた安全な速度(すぐ徐行に移ることができるような速度)と方法でその部分を通行することができます。
具体的な速度は示されてない。
判例からすれば時速10キロ以下なら徐行と言えますが、そもそもですよ。
なるべく低速を心掛ければ問題になることはないでしょう。
そもそも「時速7.5キロ説」を考案した人はバカなんじゃないかと思うのですが、達成しているかすらわからない小数点以下の数値を示す時点でセンスがない。
時速7.5キロかどうかを事実上検証できないのに、小数点以下まで刻むセンスときたら…
7.5キロも10キロ以下も、わからないのでは?
自転車に乗る人はスピードメーターがないのだから、7.5キロも10キロ以下もわからないのでは?という意味はその通り。
なので、
一般的な歩行速度は時速4キロなので、だいたい倍くらいまでと覚えておけばハズレはないかと。
特定小型原付の歩道通行モードはMAX6キロなので、特定小型原付に合わせた速度なら間違いはない…と言いたいところですが、歩道通行モードに切り替えないバカチンだらけなので参考にはなりません。
・一般的な歩行者の倍くらいまでと覚えておけばハズレはない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
サイコンがあるので歩道で乗る時は10km/hあたりを上限とするのを心掛けていますが、ママチャリとかに良く追い抜かれますね。正直、歩道を主に走る自転車はギア比を制限して、プロ選手のケイデンスでも15km/hあたりでおさまるようにして欲しいな、と歩道を歩きながらしばしば思います。
コメントありがとうございます。
人力なのでなかなか調整しにくいですが、少なくとも爆走するのはやめて欲しいですよね。
判例みてると「歩道で時速40キロ」とかあるのでドン引きします。