ちょっと前に名古屋で、一般原付扱いになる電動キックボードに乗り一方通行を逆走して横断歩行者に衝突した事件(しかもひき逃げ)がありましたが、
捜査関係者によりますと事故当時に松崎容疑者は時速約20kmで走っていたとみられることがわかりました。
歩行者に危険を及ぼす速度だったとみられ、警察は当時の詳しい状況を調べています。
電動キックボードによるひき逃げ事件 容疑者の男を現場に立ち会わせ実況見分 名古屋 (メ〜テレ(名古屋テレビ)) - Yahoo!ニュース名古屋市中区で男性が電動キックボードにひき逃げされけがをした事件で、容疑者の男を事故現場に立ち会わせて実況見分が行われました。 警察によりますと名古屋市中区の無職、松崎和則容疑者(44)は2月
名古屋市中区で3日夕方に起きた電動キックボードによるひき逃げ事故で、名古屋・中署は8日、自動車運転処罰法違反(無免許危険運転致傷)と道交法違反(救護義務違反、事故不申告)の疑いで、同区新栄1、無職松崎和則容疑者(44)を逮捕した。
電動キックボードでひき逃げ疑い、44歳男を逮捕「免許必要と知らなかった」:中日新聞Web名古屋市中区で3日夕方に起きた電動キックボードによるひき逃げ事故で、名古屋・中署は8日、自動車運転処罰法違反(無免許危険運転致傷)と道...
報道によると危険運転致傷罪を適用する方針になっている。
無免許でルールを分からず逆走してひき逃げした点については「悪」ですが、危険運転致傷罪の適用にはかなり疑問があります。
Contents
危険運転致傷罪を適用できるか?
危険運転致死傷罪は「危険な運転」なら成立するわけではなくて、危険な運転のうち自動車運転処罰法に規定された一部の類型のみが対象。
当てはまりそうなのは2条8号にある「通行禁止道路」になりますが、何回読んでも構成要件に該当してないんじゃないのか?と。
容疑者が逆走した道路にはこの標識がありますが、
この標識は自動車と一般原付の通行を禁止している一方、特定小型原付は逆走可能。
規制標識に車両の種類を記載するときは、次の表の上欄に掲げる車両について、それぞれ同表の下欄に掲げる略称を用いることができる。
車両の種類 | 略称 |
一般原動機付自転車 | 原付 |
補助標識の「原付」とは「一般原付」を指すと規定されているので、特定小型原付を含まない。
そして危険運転致死傷罪の通行禁止道路類型の定義はこちら。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
政令で定める通行禁止道路はこれ。
自動車運転処罰法施行令
第二条 法第二条第八号の政令で定める道路又はその部分は、次に掲げるものとする。
一 道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第八条第一項の道路標識等により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件(通行の日又は時間のみに係るものを除く。次号において同じ。)に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの及び次号に掲げるものを除く。)
二 道路交通法第八条第一項の道路標識等により自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているものを除く。)
「当該道路標識等により一定の条件に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているものを除く」とありますが、要は特定小型原付の通行は禁止されていない以上、政令で定める通行禁止道路に該当しないように思える。
仮にこの類型に当てはまるとしても、容疑者は乗っていた電動キックボードを免許不要な特定小型原付と誤解していたようだし、そうすると通行禁止道路だと認識していなかったのではない??
あれなのかな。
容疑者がこの標識を「特定小型原付も通行禁止」と勘違いしていたなら、巡り巡って「通行禁止道路と認識していた」という扱いになる…のでしょうか?
特定小型原付も通行禁止道路と勘違いしていた、乗っていたのが特定小型原付と勘違いしていた、という二重の勘違いしていた…みたいな話。
それ以外の危険運転致傷の類型だと妨害目的運転があります。
右側通行(逆走)していた起こした事故について、逆走すれば通行妨害になることを認識していたとして有罪にした判例もありますが…
被告人が,車体の半分を反対車線に進出させた状態で走行し,C車両を追い抜こうとしたのは,パトカーの追跡をかわすことが主たる目的であったが,その際,被告人は,反対車線を走行してきている車両が間近に接近していることを認識していたのであるから,上記の状態で走行を続ければ,対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置を取らせることになり,対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認識していたものと認めることができる。
ところで,刑法208条の2第2項前段にいう「人又は車の通行を妨害する目的」とは,人や車に衝突等を避けるため急な回避措置をとらせるなど,人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいうものと解される。しかし,運転の主たる目的が上記のような通行の妨害になくとも,本件のように,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識して,当該運転行為に及んだ場合には,自己の運転行為の危険性に関する認識は,上記のような通行の妨害を主たる目的にした場合と異なるところがない。そうすると,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識していた場合も,同条項にいう「人又は車の通行を妨害する目的」が肯定されるものと解するのが相当である。
東京高裁 平成25年2月22日
通行妨害目的とするのもちょっとムリがあるし、警察はどの類型を考えて捜査しているのだろう?
とはいえ
きちんとルールを確認せずに電動キックボードに乗っていたことや、ひき逃げした点など全く擁護できる点もないんですけどね。
電動キックボードやフル電動自転車の事故については警察も検察もなるべく重い刑罰を適用したいのかなと感じますが、危険運転致傷については該当するのか?について果てしなく疑問。
この件って以前も書いたように、ひき逃げしてなければ刑事責任は問われなかった案件じゃないかと思う。
歩行者の動きにしても横断する予兆がないまま直前横断しているので、過失運転致傷もやや怪しい。
電動キックボードのルールって、一部の道路交通法マニアがやたら詳しいだけで世間にはさほど浸透してない気がする。
そしてルールもまあまあ分かりにくい。
一般原付扱いと特定小型原付扱いに分かれている時点で失敗だったのかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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