以前から時々出てくる動画ですが、
車道を直進する自転車と横断歩道を降りずに子供連れて走るママチャリが衝突・・・
これは車道を直進した自転車が悪い?それとも横断歩道を走ったママチャリが悪い?
— 激バズ3rd (@gekibnews) February 29, 2024
元ネタはこちら。
これの事故現場はここ。
ちょっと考えてみましょう。
車道には信号機があるけど、歩行者用信号機はない。
そして横断歩道には横断歩道の標識があります。
さて、この横断歩道は信号があるでしょうか?
その横断歩道に信号機はあるのか?
これについては以前も似たような事例を取り上げました。
そもそもなんですがおさらい。
歩行者用信号機がない場合、三灯式信号機は歩行者への効力があります。
道路交通法施行令2条1項
信号の種類 | 信号の意味 |
青色の灯火 | 一 歩行者及び遠隔操作型小型車(遠隔操作により道路を通行しているものに限る。)(以下この条において「歩行者等」という。)は、進行することができること。 |
赤色の灯火 | 一 歩行者等は、道路を横断してはならないこと。 |
これについて管轄の赤坂警察署に確認をしたのですが、信号を管理する交通規制課にも確認してもらった回答です。
なので歩道を通行してきた歩行者も自転車も、横断歩道を通行する上では三灯式信号に従う義務があり、赤信号で横断すれば信号無視になります。
横断歩道の標識の規定(令1条の2第3項1号)によると、信号がある横断歩道は標識が不要です。
しかし標識がある。
第一条の二
3 法第四条第一項の規定により公安委員会が横断歩道又は自転車横断帯(以下「横断歩道等」という。)を設けるときは、道路標識及び道路標示を設置してするものとする。ただし、次の各号に掲げる場合にあつては、それぞれ当該各号に定めるところによることができる。
一 横断歩道等を設けようとする場所に信号機が設置されている場合 道路標示のみを設置すること。
これは以前読者様から指摘されたのですが、「標識及び標示」と規定し、「ただし…できる」としています。
要は基本が「標識及び標示」で、信号がある場合には「標示のみにすることができる」になっているため、信号がある横断歩道に標識を設置することが違法ではないことになる。
信号を管理する交通規制課としては、「横断歩道も信号に規制されている」としてますが、要は歩道を通行する歩行者や自転車からすると、「信号がない」と誤認するわけです。
そのため、管轄署としてもイチイチ注意してないけど、事故が起きた場合には横断歩道通行歩行者や自転車に信号無視があれば信号無視として処理するとのこと。
判例上は
そうするとこの交差点は「信号がある交差点」なのか、「信号がない交差点」なのか?という疑問が沸きます。
これ、判例上は「Aにとっては信号がない交差点」で「Bにとっては信号がある交差点」と見なしている。
判例を2つ挙げます。
まずは刑事事件の判例から。
○福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日
この判例は青信号で交差点に進入したB車と、対面信号機がついていなかったことから信号のスイッチがオフだと思い漠然進行したA車が衝突した事故です。
両者ともに業務上過失傷害罪に問われたもの。
この判例ですが、A車については「信号がない交差点」なのだから、見通しが悪い交差点での徐行義務違反があったと認定。
信号機が設置されていても信号の故障により正常に信号の表示がなされていない交差点は、その信号機に対面する運転者にとつてはいわゆる交通整理の行なわれていない交差点(道交法42条参照)になると解すべきである
福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日
一方のB車にとっては、信号がある交差点とみなし信頼の原則から無罪。
検察官は、「本件交差点のように、人家、板塀のため見とおしのきかない交差点においては、乗客多数を輸送する職務の特殊性を考慮のうえ、信号の如何にかかわらず、左右の交通の安全を確認することが必要である」と主張する。
しかしながら、以上認定のような情況の下において、本件交差点に進入しようとする自動車運転者に対しては、他に特別の事情のないかぎり、あえて交通法規に違反して高速度で同交差点に進入しようとする車両のありうることまでも予想し、徐行又は一時停止して左右の道路の安全を確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務はないと解するのが相当である(最高裁判所昭和43年12月17日第三小法廷判決、同12月24日第三小法廷判決 判例タイムス230号254頁参照)。
しかして、一方被告人Aは、前示認定のとおり対面信号機の信号が故障し、左右の見とおしのわるい交差点であるのにかかわらず、あえて本件交差点に時速約50キロメートルで進入したものであり、かかる以上被告人Bに対し前記注意義務違反を認めることはできない。
また検察官は、被告人Bが本件交差点内に進入直後の相手方車両の発見可能な地点をとらえ、その瞬間ハンドル、ブレーキ操作により急停車、避譲の措置に出て出会い頭の衝突事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があると主張するようであるが、前記の如く同被告人が交差点の手前において徐行または一時停止して左右に通ずる道路の安全を確認すべき義務がない以上、時速約25キロメートルで交差点に進入した同被告人としては、たとえ左斜前方約24.9mに時速約50キロメートルで南進してくる相手方車両を認めたとしても、発見可能な地点から衝突地点までの距離が約15.4mであるから、実験則上これとの衝突を回避することは不可能に近く、本件交差点の具体的状況を前提とするとき検察官主張の如き注意義務はない。
福岡地裁小倉支部 昭和45年1月16日
A | B | |
信号の有無 | なし | あり |
過失 | 徐行義務を怠り漠然進行した過失 | 無罪(信頼の原則) |
○東京地裁 昭和45年8月31日(民事)
事故のイメージです。
甲道路から交差点に進入しようとする原告車には対面信号がなく、乙道路を進行する被告車には信号がある。
原告は交差道路の信号が黄色になったことを確認し、被告車が信号に従って停止すると考え交差点に進入。
しかし被告車は停止しなかったため、衝突した事故です。
これについて裁判所は、以下の過失を認定。
原告 | 被告 | |
信号の有無 | 無し | あり |
過失 | 広路車妨害 | 信号確認義務違反 |
過失割合 | 70 | 30 |
被告の過失の有無について判断する。(証拠)を総合すると、被告は加害車を運転して本件交差点に向い東進し、同交差点の西側横断歩道の手前(西方)4、50mの地点で対面する信号機が青色の表示をしているのを確認したうえ、被害車が本件交差点の北側に停止しているのを発見したこと、しかし、被告は本件交差点にさしかかるまでの間に信号が変る可能性があつたにも拘らず、その後は慢然と信号を確認することなく、時速約50キロメートルで本件交差点に進入したため、折から右信号が黄色に変つたのをみて同交差点に入つて来た被害車に加害車を衝突させたことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は首尾一貫しないところもあり、前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。してみると被告に信号確認義務違反の過失があつたことは明らかである。
(中略)
原告は被害車を運転して南進し、本件交差点に採近したが、自車の進行する道路(以下「甲道路」という。)と交差する道路(以下「乙道路」という。)の信号機が青色を表示していたので同交差点の北側(手前)で暫時停止していたこと、乙道路には右信号機が設置されているのに甲道路には信号機が設置されていず、乙道路の幅員が13mであるのに対し甲道路のそれが7.1mであること、同原告はその頃加害車が乙道路を東進して本件交差点に接近して来るのを発見したが、前記信号が黄色に変つたので、加害車が同交差点の手前で停止するものと軽信し、そのまま加害車の動静を注視することなく発進して本件交差点に時速約30キロメートルで進入したため、折から同交差点に前記二のとおりほぼ同時に進入してきた加害車と衝突したことが認められ、右認定に反する被告の本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に対比して信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。してみると、原告の進行中の甲道路には信号機の設置がなく、同原告にとり本件交差点は交通整理が行われていないものというべきであるから、同原告としては明らかに広い乙道路を進行してきた被告の車の進行を妨げてはならない注意義務があるのにこれを怠つた過失があることは明らかである。以上認定の事実に、前記二の被告の過失の態様、程度、さらには前記の加害車と被害車との車種の相違、速度の相違などを総合勘案すると、原告と被告との間の過失の割合は、同原告につき7、同被告につき3と認めるのが相当である。
東京地裁 昭和45年8月31日
要は一方にとっては「信号がある交差点」とし、一方にとっては「信号がない交差点」と見なしている。
それらを踏まえて
これについてですが、
こうなる。
車道左折自転車 | 横断歩道通行自転車 | |
信号の有無 | なし | あり |
過失 | 安全不確認 | 信号無視 |
民事過失はある程度実態を踏まえて検討されるので、横断歩道通行自転車の赤信号無視はそこまで大要素にはならないと思う。
なぜなら、左折自転車は「青信号」ではなく「信号がない」なんですよね。
「青信号」vs「赤信号」ではなく、「信号がない」vs「赤信号」になります。
おそらくこういうのって現実的には50:50とかにされるのがオチですが、歩行者用信号がない=信号がないではないし、勘違いしやすい。
要は車道の信号機に規制されていることをほとんどの人は理解してないし、
警察的にも「分かりにくい」ことから注意する対象とは考えていない。
事故さえ起きなければ問題ないと考えているようです。
なお、道路交通法2条5号にいう道路の交わる部分とは、本件のように、車道と車道とが交わる十字路の四つかどに、いわゆるすみ切りがある場合には、各車道の両側のすみ切り部分の始端を結ぶ線によつて囲まれた部分――別紙図面斜線部分――をいうものと解するのが相当である。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
信号の種類 | 信号の意味 |
赤色の灯火 | 二 車両等は、停止位置を越えて進行してはならないこと。 |
備考 この表において「停止位置」とは、次に掲げる位置(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前)をいう。
一 交差点(交差点の直近に横断歩道等がある場合においては、その横断歩道等の外側までの道路の部分を含む。以下この表において同じ。)の手前の場所にあつては、交差点の直前
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
前に取り上げた外苑料金所への道路もこれと同じでしたね
なるほど横断歩道の標識は信号があっても設置できるし、進行方向によって交通整理が行われてるかいないか変えても支障がないと(外苑は一通ですが)
もうちょっと造りからどうにかできないのかと思います
コメントありがとうございます。
たぶん、構造的に事故が起きにくいから歩行者用信号を省略しているのだと思いますが、警察官が即答できない程度にまあまあどうでもいい問題なのかもしれません笑
本筋ではないですが、衝突直後に歩行者が後方から現れていたので、歩行者に対する妨害のようにも見えます(左折自転車からすると信号がないので信号のない横断歩道と見た場合)。このような、歩行者自身は赤信号違反ですが、車両からみると信号のない横断歩道を渡っているように見える場合、歩行者の違反にかかわらず38条に関する一時停止違反になるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
左折自転車からすると、横断歩道に信号がないと錯誤するので38条の義務があるかのような状態になりますが、赤信号無視する歩行者は38条の優先対象にはならないため、仮に一時停止しなかったとしても違反にはならないと思います。
要はこれって左折時の徐行があり、狭路から広路に進入する際の広路優先車妨害禁止、横断歩行者優先などがあると錯誤するので、事故が起きにくいのです。
いつも興味深い題材を取り上げていただきありがとうございます。
ストリートビューには撮影者側から見たこの交差点の狭路側の横断歩道標識のポールに(裏からですが)一旦停止標識がある気がしますけど、ストリートビューでも動画でも無いですね。こんなことがあったから追加されたのでしょうね。
それはどうでもいいのですが、子供乗せママチャリの渡った逆方向から来た歩行者や自転車には信号機が無いのですが、これは渡る向きで同じ横断歩道の信号が有ったり無かったりするので不自然な気がします。
わざわざ振り返って信号に従うべきでしょうか?
コメントありがとうございます。
以前取り上げたケースでも逆方向の信号がない扱いでしたし、なかなか困るんですよね。
だから警察的にも曖昧にせざるをえないのかもしれませんが、たまにある「二段階右折の信号がないT字路」と同じで、逆方向の場合もこの信号に従うしかないのかと。
交通規制情報オープンデータによると2022/10/21に一時停止規制が決定したそうです
コメントありがとうございます。
一時停止が追加…なるほど。
なるほど、信号や標識の不備があって曖昧な場合は、安全第一に周囲の動向を確認して進むか否かの判断をするべきですね。
昨年3/20の記事を見てなかったので重ねて質問した形になり、申しわけありませんでした。
コメントありがとうございます。
結果論としてみるとあまり意味がないので、目に見える範囲で義務を考えないとダメでしょうね。