まあまあどうでもいい話になりますが(どうでもいい理由は後述します)、国土交通省から「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン改定版(案)」なるもののパブコメが始まりました。
改正道路交通法では18条3項(追い抜き車安全速度義務)と18条4項(できる限り左側端寄り通行義務)が新設され、20条3項が改正されますが、
これと合わせて検討します。
「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン改定版(案)」
単なる一例なので突っ込む価値もありませんが、
再配分した後に「3m」の幅の中に駐車帯と自転車通行帯があり、駐車車両が自転車通行帯にはみ出ているとかアホなんですかね?
もちろん単なる一例なので4mで再配分したモデルケースはこうなる。
さて。
改正道路交通法の話。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
例えば、このような道路を考えてみます。
一応このような場合でも、「十分な間隔がないとき」であれば18条3項により追い抜き車は安全な速度として減速することになる。
ところでこの場合において18条4項をどう考えるか?
「できる限り」左側端寄り通行義務がありますが、こんな状況だと駐車車両の「ドア開放事故」の懸念があるわけで、
「できる限り左側端」がこっちになる場合もあります。
「できる限り」の意味を取り違える人がいたら大変なことになりますが、「できない状態を除外」する意味で「できる限り」としているわけで。
日本語の意味を取り違えると、いろいろ間違いそう。
なので結局、18条4項についてはほとんどの自転車には関係ないと思う。
ところが若干ややこしいのはこうもなりうる。
20条3項(専用通行帯通行義務の除外)により、18条4項のときには自転車通行帯の通行義務が除外されるわけなので。
第二十条
3 車両は、追越しをするとき、第十八条第四項、第二十五条第一項若しくは第二項、第三十四条第一項から第五項まで若しくは第三十五条の二の規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。
ただまあ、このようにしなければならないケースはおそらく皆無だと思う。
理由ですが、いわゆる追いつかれた車両の義務(27条)ってありますよね。
軽車両は対象外ですが。
追いつかれた車両の義務は結局、「追いつかれたこと」を認識して初めて義務が生じますが、古い捜査マニュアルによると、追いつかれてから走行した距離を必ず記せとある。
要は追いつかれてからある程度の距離を走行した事実が、「追いつかれたことの認識があった」とみなす客観的な根拠にするのでしょう。
しかしこのようにレーンが違う場合には、
自転車が後車の存在に気がついた時点では、既に後車が追い抜き途中となるかと。
なのでこのようなケースでは、追い抜き車両が減速する義務は免れないものの、自転車からすれば特に何かをする義務が生じる余地がない。
それこそ先日も書いた狭い自転車通行帯にしても、
自転車は通行帯の中を普通に走れば、あとは後車が第二通行帯から追い抜きする際に「十分な側方間隔がなければ安全な速度」で勝手に追い抜きするだけの話。
なのでよほどおかしな位置を走っている自転車以外は、18条4項を気にする必要がないでしょう。
以前もちょっと書きましたが、民事訴訟のバイブル「赤い本」(日弁連)の記述。
日弁連によると、自転車に27条の適用があるかは明言を避けてますが、「先行車が後続車を認識できるのは後続車が並走状態に入ってからであることが多いと考えられること」から自転車の過失修正要素と捉えないとしている。
四輪車同士の事故においては、道交法27条1項違反が修正要素とされている。
この点、自転車には道交法22条1項の規定に基づく「最高速度」の定めはなく、同法の適用があるかについては疑問があるところであり、同様の修正要素を定めることは妥当ではないと考えた。※37
道交法27条2項は、車両は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路の右側端。以下この項において同じ。)との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては、第18条1項の規定にかかわらず、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならないとし、最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
この点、自転車には最高速度の法定はないこと、先行車が後続車を認識できるのは後続車が並走状態に入ってからであることが多いと考えられることからは、避譲措置をとらないことをもって先行車の過失ととらえ、過失を加重することは妥当ではない。
日弁連交通事故センター東京支部編、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部、令和5年、下巻p198
これってその通りというか、自転車からすると気がついた時には既に後車が追い抜き途中なんてことはザラ。
よほどおかしな位置を通行してブロックしていたとか、そういう場合以外は18条4項の問題が生じることはないと思う。
国土交通省のガイドラインとは
ところで国土交通省のガイドラインについては、まあまあどうでもいいのですが、
一例として駐車帯と自転車通行帯の間にドア開放事故の抑止としてゼブラゾーンを設けるということもありうる。
なんでこうしないのか?については以前も書いた気がしますが、
第一通行帯(自転車通行帯)と第二通行帯の間にあるように見えるゼブラゾーンが、道路交通法上は「第一通行帯」なのか、「第二通行帯」なのか、イマイチ明らかではありません。
通行帯と通行帯を区切るのは白線ですが、ゼブラゾーンは道路交通法上はどっちの通行帯とも捉えうる。
その結果、仮に原付がゼブラゾーンをすり抜けて通行しても違反とは言えないことになり、
想定外の事故が起きた場合に解釈に困るという事情があります。
要は法律上の明確性がないからゼブラゾーンで干渉帯を作ることに乗り気ではないわけで、国土交通省のガイドラインの前に道路交通法、もしくは標識令を改正するなどしないと、いつまで経ってもなんだかよくわからないガイドラインが出てくるだけなのよ。
まあ、駐車帯から自転車通行帯にはみ出ているモデルケースを用意するくらいイマイチです。
なおこのように駐車帯から自転車通行帯にはみ出ている場合、18条4項でいう「できる限り左側端」は自転車通行帯の右側にもなり得ます。
「できる限り」の意味を取り違えると、なにがなんでも左側端寄りじゃないとダメなように勘違いしかねませんが、
「残さず食べなければならない」と「できる限り残さず食べなければならない」だと、前者は有無を言わさず完食する義務があり、後者は無理な場合なら仕方ないというスタンスですよね。
「確定申告は3月15日までにしなければならない」と「確定申告はできる限り3月15日までにしなければならない」では、後者のほうが条件を緩和してますよね。
「法定速度の60キロ以下で通行しなければならない」と「できる限り法定速度の60キロ以下で通行しなければならない」では、後者は場合によって60キロ以上になることがあってもかまわないことになりますよね。
なので自転車が18条4項の問題に問われるとしたら、わざとブロックしていたみたいな特殊な場合くらいしかないでしょう。
あまり気にする必要はないかと。
18条4項って、要はわざと「追い抜き妨害」するかのような自転車に対応するものなんだと思う。
追い抜き妨害するかのような位置を通行する自転車がいても、18条1項(左側端寄り通行義務)には罰則がない。
そのような場合に対応するだけの規定と考えた方がいいのかと思うので、ほとんどの自転車には関係ないでしょう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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