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「できる限り」と34条1項、18条4項などの話。

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こちらで書いた件なのですが、

「できる限り左側端」とは「できない場合」を除外する意味。
さてさて、例のこれ。 第十八条 3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い...

以前書いたように、「できる限り左側端に寄って」というのは、「左側端に寄って、ただし道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」(18条1項但し書き)という意味

 

何人かの方から質問を頂いたのは、34条1項にある「できる限り左側端に寄って」と新設18条4項の関係性。

(左折又は右折)
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。
第十八条
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない

たぶん「できる限り」の意味を混同している気がします。

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「できる限り」

昭和35年に道路交通法ができたとき、34条はこうでした。

 

◯昭和35年道路交通法

(左折又は右折)
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側に寄り、かつ、徐行しなければならない。

昭和46年までは「左側」、昭和46年以降は「左側端」ですが、これは当時まだ歩道が少なかったことや、路側帯という概念がなかったことも影響している。
そして「できる限り」の解釈ですよね。
まずは道路交通法を制定した警察庁の宮崎氏の解説から。

「できる限り道路の左側に寄る」というのは、本来は、道路の左側端に寄ることが望ましいわけであるが、その車両の左側にさらに左折しようとしている車両がある場合、道路の左側端に障害物がある場合等を考慮して、「できる限り左側に寄る」とこととした。

宮崎清文、条解道路交通法改訂増補版、立花書房、1963(昭和38年)

次に「左側端」に改正後の東京地検交通部の解説。

「できる限り道路の左側端に寄り」とは

(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。

東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974

「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」のほうがさらに左側と勘違いしている人が多いのですが、両者の位置は基本的に同じ
「できる限り」としないと交差点手前に違法駐車車両がいたら左折不可能に陥るのよ。
「左側端に寄って」としたら、左側端以外から左折した時点で違反が成立するし、大型車は左折不可能に陥る。

「できる限り」というのは「道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」という18条1項但し書きと同じ意味。
なので大型車はこっちになっても「できる限り左側端に寄って」を満たす。

駐車と停車の「できる限り」

これは何度も取り上げてますが、駐停車の規定。

(停車又は駐車の方法)
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときはできる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
停車 駐車
できる限り左側端 左側端

駐車は「左側端」、停車は「できる限り左側端」としてますが、なぜそのように規定したかについては当時警察庁で道路交通法を作った宮崎氏が解説してます。

 

停車の説明

なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。

 

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)

駐車の説明

本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる

 

宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)

駐車と停車では「駐車」のほうが長い時間に渡り止まっていることは明らかですが、「できる限り」とついていない駐車については問答無用に左側端になる。
一方、「できる限り」とついている停車については、「道路工事その他障害物のためやむを得ない場合」には左側端に寄れなくてもしょうがないよね?という意味になる。

 

18条1項には左側端寄り通行の除外規定がありますが、

(左側寄り通行等)
第十八条
(略)ただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない

左側端寄り通行の除外規定(18条1項但し書き)があるから、駐停車車両がいるときや、路面が荒れているとき、左側端が道路工事などで塞がっているときに左側端寄り通行を解除できますが、

「左側端に寄って」とする34条1項(左折方法)、27条2項(進路避譲義務)、駐停車(47条)など全てに除外規定を作ると分かりにくいので「できる限り」という表現で代用していると考えたほうが分かりやすいかも。

 

ほかにも27条2項(進路避譲義務)と緊急車両の優先の差。

27条2項(進路避譲義務) 40条2項(緊急車両の優先)
できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない 道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない

緊急車両の優先には「できる限り」とついてないので、問答無用に左側に寄らないといけない。
追いつかれた車両の義務(27条2項)は「できる限り」とついているので、左側端に寄れない客観的事情があるときにまで無理に寄る義務を課しているわけではない。

 

緊急車両のほうが優先度が高いことは誰でもわかりますよね。
ちなみに昭和39年までは27条も「左側端」ではなく「左側」でしたが、なぜ緊急車両のほうは「左側」のままにしたのかは謎。

 

「できる限り」とは、できない場合を除外する意味だし、それでいて無制限に除外することは避けたいから「できる限り」としているのかと。

 

18条4項が「できる限り左側端に寄って通行しなければならない」ではなく「左側端に寄って通行しなければならない」だった場合、左側端に穴があろうと、

通行には適さない側溝があろうと、

左側端寄り通行の除外規定がないので穴や側溝上を通行しないと違反になってしまいますが、「できる限り」としているので安全な範囲で穴や側溝を避けて左側端に寄ればいいことになります。

 

ねぇ。
「給食は残さず食べなければならない」と「給食はできる限り残さず食べなければならない」の差ですよ。
「停止線で一時停止しなければならない」が「できる限り停止線で一時停止しなければならない」になっていたら大変なことになりますわな。
「法定速度を守らなければならない」が「できる限り法定速度を守らなければならない」になったらメチャクチャになるけど、左側端寄り通行の除外として「できる限り」としたことは各種解説からも明らか。

じゃあ「左側端に寄って」とは

じゃあ「左側端に寄って」とはどの範囲なのか?になりますが、

そもそもなぜ、18条1項(左側端寄り通行)に罰則がないかという話ですよ。
道路状況や属性などによって一律には論じ得ないから罰則がない。

 

例えばですが、同じ自転車でも

 

・健康な成人、ロードバイクで時速35キロ
・健康な成人、ママチャリで時速20キロ
・ふらふらした高齢者、時速12キロ
・高齢者、不安定な三輪自転車
・子供、時速10キロ

 

左側端には歩道の縁石があるし、スピードや属性により左側端に近づきすぎれば接触リスクがある。
だから一律にどこまでとは論じ得ないので罰則がない。

 

34条1項の「左折前の左側端寄せ」にしても、徐行速度をベースに警察が出している基準があるわけで、徐行速度ではない18条4項の解釈にはなり得ない。

なぜ左折前に「できる限り左側端」に寄せるのか?
だいぶマニアックな質問を頂いたのですが。 左折時に左側端に寄せる目的として一般的に、 1.後続車(直進・右折)の円滑を促す 2.左折であることが(合図以外にも挙動で)わかりやすいように 3.巻き込み防止 の3本立てが多いですが、道が狭い場合...

それらを踏まえて、新設18条4項でいうできる限り左側端に寄ってと、

4 前項に規定する場合においては当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない

18条1項でいう「道路の左側端に寄つて、ただし道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」は意味が同じ。

(左側寄り通行等)
第十八条 車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車及び一般原動機付自転車(原動機付自転車のうち第二条第一項第十号イに該当するものをいう。以下同じ。)にあつては道路の左側に寄つて、特定小型原動機付自転車及び軽車両(以下「特定小型原動機付自転車等」という。)にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならないただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない

なので18条1項に違反しない範囲なら18条4項に違反する要素がない。
「できる限り」なので道路の陥没があれば避けて安全な範囲で左側端に寄っていればいいし、

「できる限り」なのでスリップリスクがあるマンホールは避けた上で左側端に寄っていればよい。

そしてキープレフトの趣旨は、速い車両を右側から通過させることにより秩序を形成するもの。
その趣旨からすれば、さらに左側から自転車が追い抜きできない程度に左側端に寄っていれば「左側端寄り通行」の範囲になります。

 

さらに左側から自転車が追い抜き可能なスペースを開けた自転車なんてめったに見かけませんが、ガチガチに左側端に寄れという意味でもないし、左折前の左側端寄せは「徐行」をベースにした基準なので必ずしも自転車が当てはまる基準でもない。
要は普通に走っていれば何ら問題はないけど、わざと追い抜き妨害する自転車を取り締まる趣旨でしかないと思いますよ。

 

それこそ以前書いたように、このような自転車通行帯がある道路でも追い抜き車両には18条3項(十分な側方間隔がないときは安全な速度)、自転車には18条4項(できる限り左側端に寄って通行)があります。

しかし自転車は「できる限り」なので、ドアパンチリスクを考えればむしろ右寄りなることすらありうる。

けどこれも「できる限り左側端に寄って通行」なのよ。
何のために「できる限り」と付けているのか考え方を間違えると、「何がなんでも左側端にガチガチに寄れ」という全く違う意味に捉えて意味不明になります。

 

ちなみにですが、「できる限り」ではなく「安全な範囲で」と規定した場合、刑罰法規としてはかなりややこしくなり無意味になりかねない。
あくまでも建て付けとして、法の条文はプロ用、一般向けには「交通の方法に関する教則」や市販の簡単な解説書という扱いなので、一般向けに分かりやすく規定するという発想ではない。

例えばこちらの解説書なんてかなり噛み砕いて記述しているし、教習所の資料なんかもそうだけど、結局、条文は刑法として成り立たせるためでしかないのでしょうね。

 

なのでトータルでいえば、ほとんどの自転車には改正18条4項は関係ないし、わざとブロックしておかしな位置を通行する自転車のみが違反になるでしょう。

 

「できる限り」とは、道路や交通の状況等に鑑み支障のない範囲における可能な限度を意味する。

木宮高彦、詳解道路交通法、有斐閣ブックス、1977、p90

できる限りとは道路や交通の状況等をかんがみ支障のない範囲における可能な限度を意味すると解され、単に運転者の主観において可能な限度を持って足りると解すべきではない

名古屋簡裁 昭和46年9月14日

けど「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」のほうがさらに左側なんだと信じる人もいるのでややこしい。
日本語の問題な気がしますが「給食は残さず食べなければならない」よりも「給食はできる限り残さず食べなければならない」のほうが強いと思う日本語力なら、ちょっと厳しい。

 

けど、いまだに自転車が横断歩道を通行していいのかすら揉める日本ですから、他人に期待しないほうがいいんでしょうね。
他人が道路交通法を理解していると信頼することはムリがある。

なぜ?「自転車は横断歩道を乗ったまま横断しちゃダメ」という説が定着した理由。
いまだに「自転車は横断歩道を横断するときに、乗ったままではダメ」と理解している人がいます。 これは誤りでして、 同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せない 平成30年1月18日 福岡高裁 このように、自転車に乗...

気になる方は「古い解説書」や判例などを引っ張り出して「できる限り」の趣旨を検討してみてください。
立法経緯は古い解説書のほうが詳しい。

「できる限り道路の左側端に寄り」とは

(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。

東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974


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