こちらについて質問を頂いたのですが、
これ、自転車対自転車だと「揉めます」。
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自転車対自転車だと揉める
要はこれ。
こんなん回避するのむずすぎやろ pic.twitter.com/aYdeDBzR0m
— cool cars (@coolcars_kirei) March 6, 2024
クルマ対自転車の事故のケースですが、民事の考え方って、この場合「広路車」対「狭路車」の交差点事故の類型をベースにし、横断歩道通行分として「-5%」にするのが通例。
クルマ | 自転車 | |
基本過失割合 | 70 | 30 |
自転車の横断歩道通行 | +5 | -5 |
自転車の直前横断・イヤホン | -10 | +10 |
計 | 65% | 35% |
もうちょい自転車不利に捉えても60:40が相場かなと。
じゃあ自転車同士だとどうなるかというと、自転車同士の場合あまり定型化されてないので、ぶっちゃけビミョーです。
基本的には横断自転車のほうが過失割合は大きくなりますが、自転車同士の事故って基本的なマインドはこれ。
個人的には横断自転車:直進自転車=75:25くらいになれば万々歳、60:40くらいでも御の字な気もしますが、なぜか自転車同士の事故は裁判所もバグるので…
事案は異なりますが、このような判例があります。
被害自転車は交差点を信号を遵守して進入。
しかし交差点が広かったために(自転車横断帯~自転車横断帯が37.6m)、被害自転車が交差点の出口を通過する際に交差する横断歩道&自転車横断帯が青信号になった。
加害自転車は歩道の死角からノールック斜め横断し、自転車同士が衝突した事故です。
・被告(自転車)は歩道を通行していた。
・歩道には配電ボックスがあり、被告の身長よりも高かった。
・現場は6叉路交差点近く(片側2車線の幹線道路)。
・被告自転車は、自転車横断帯よりも12.4m以上手前で歩道から車道に降りて斜め横断を開始した。
これ、裁判所の認定は50:50なんですよ(東京地裁 平成20年6月5日)。
<被告(歩道自転車)の責任>
自転車は、交差点を通行しようとする場合において、当該交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは、当該自転車横断帯を利用しなければならないところ(道路交通法63条の7第1項)、被告は、進路前方に自転車横断帯があったにもかかわらず、これを利用することなく、本件道路を横断しようとしたのであって、被告が当該自転車横断帯を利用しなかったことを正当化することができるような合理的な理由は特に認められない。その上で、被告が本件道路を横断しようとした地点と直近の自転車横断帯又は本件横断歩道との距離に照らし、被告運転の自転車が自転車横断帯又は横断歩道上を通行していたのと同視し得るとまで評価することはできない。
そして、被告は、自転車横断帯を利用することなく本件道路を横断しようとするのならば、自車を歩道から車道に進入させるのに先立ち、少なくとも右方から走行してくる車両の有無、動静を十分に注視、確認した上で、車道に進入させるべきであったところ、対面する歩行者用信号の表示は赤信号であり、歩行者用信号Bの表示が青信号だったことから、右方から車両が走行してくることはないものと軽信して、上記のような注視、確認をすることなく、自車を車道に進入させて本件道路を横断しようとしたことから、原告運転の自転車と衝突するに至った。(中略)
以上によれば、被告は、車道に自車を進入させるに際し、上記の注視、確認義務を怠ったものといわざるを得ない。
東京地裁 平成20年6月5日
<原告(車道通行のロードバイク)の責任>
道路交通法36条4項は、「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と規定し、また同法38条1項は、「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。」と規定している。
自転車は、車両であるから、「道路を横断する歩行者」と同視することはできず、また、被告は、本件横断歩道から約9.35m離れた地点から車道を横断しようとしたのであるから、「横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等」と同視することもできないのは、原告らが主張する通りである。
しかしながら、被告が横断しようとした地点は、本件横断歩道からさほど離れていたわけではなく、また、歩道との段差がなく、歩道からの車両の進入が予定されていた箇所であったことに加え、原告運転の自転車が本件横断歩道を通過する際、車道信号A1の表示は赤信号であり、歩行者信号Bの表示は青信号であったのであるから、本件横断歩道上のみならず、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点からも、本件道路を横断すべく車道に進入してくる歩行者や自転車があることは想定される状況にあったというべきである。そして被告にとってと同様に、原告にとっても、配電ボックス等の存在により、必ずしも見通しがよくなく、上記の箇所から車道への進入者等の存在は十分確認できない状況にあった。
したがって、原告は、自転車を運転して本件横断歩道を通過させるに際し、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点から横断しようとする者がいることを予想して、減速して走行するなど、衝突することを回避する措置を講ずるべきだった義務があったところ、原告がこのような回避措置を講じたことは認められないから、本件事故の発生については原告にも一定の落ち度を認めるのが相当である。
東京地裁 平成20年6月5日
この判例って、要は車道通行自転車が交差点の出口辺りで信号が変わった点から「横断自転車が予見可能」という話。
まあ、普通の感覚からすればこれが50:50で納得する人は少ないかと…
判例は信号交差点、動画は無信号交差点と違うけど、自転車同士の事故ってまあまあバグるので…
それこそ逆走自転車と衝突しても、基本は五分五分だと何度か書いた通り。
自転車同士の事故の場合、ちょっとの違いで過失割合が大きく変わるので何とも言えませんが、だから単なる結果論にとらわれずに義務を遵守することを求めるしかないし、他人に期待するとろくなことがない。
直進自転車 | 横断自転車 |
徐行(38条1項前段、42条1号) | 安全不確認の横断は禁止(25条の2第1項) |
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
自転車同士のほうが深刻
要はこの自転車って右後方を確認しないまま横断してますが、
こんなん回避するのむずすぎやろ pic.twitter.com/aYdeDBzR0m
— cool cars (@coolcars_kirei) March 6, 2024
確認しないまま横断したのだから、たまたま何も起きなかったかもしれないし、たまたまクルマと衝突して被害者になったかもしれないし、たまたま自転車と衝突して加害者になったかもしれない。
仮に直進自転車が減速していてもノールック横断されたら回避不可能に陥る可能性は普通にあるわけで、だから「ノールック横断すんな」と。
たまたまクルマと衝突したことを捉えてもそれは単なる結果論。
そして車道を通行する自転車としても、ノールック横断する自転車は普通にいるので注意して関わらないようにするしかないのよね。
ちなみに上で挙げた東京地裁 平成20年6月5日判決の被害者は、歩道からノールックアタックされて頭を打ち、言語障害と片半身の麻痺が残った重傷事故です。
被害者はまだ20代の方ですが…加害者は過失相殺50%で約9200万の支払い。
動画の件は「横断歩道があるから前にいる自転車が横断することは予見可能」となるけど、道路交通法上は車両が横断する際にノールック横断することは禁止されているし(25条の2第1項)、自転車同士だと過失割合はバグることがしばしば。
なので他人に期待せず、自転車なんてトリッキーなプレイをする前提でナマ温かく見ながらも、ノールック横断されたら一喝することも時には必要。
けど、ノールック横断する自転車ってまあまあいますよね。
予見可能なことは回避する注意義務があるのですが、自転車同士の事故のほうがややこしいし揉めると思う。
それこそ、逆走自転車と順走自転車が衝突した事故で、順走自転車の過失を100%にした判例なんてものもあるし、サドルが高く地面に足がつかなかったことを過失にすることすらあるし…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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