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自転車イヤホンは過失になる?事故の考え方。

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そういえばこれ、「イヤホン」が過失になるか?という点が話題になってますが、

自転車はノールックで横断してはならない。
先日もちょっと触れましたが これ。 自転車はイヤホンをつけてノールック横断した様子。 ところで前回記事でも書きましたが、この件は両者の過失が競合しているのは明らか。 クルマは減速接近義務(38条1項前段)と徐行義務(42条1号)、自転車は横...

自転車イヤホンが事故に関係するなら過失になるし、事故に関係しないなら過失にはならない。
ただし歩行者でもイヤホンを過失にした事例はあります。

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歩行者でもイヤホンが過失になった事例

これは以前取り上げてますが、さいたま地裁 平成30年9月14日判決。

車が自転車を追い越すときに、クラクション(警音器)を鳴らすのは違反なのか?
先日書いた記事で紹介した判例。 自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左...

事故の態様です。

 

片側1車線道路の路側帯を走っているランナーが、路側帯の電柱を避けるために車道に飛び出したところ、後続車と衝突した事故。

 

ランナーは両耳にイヤホンを付けていました。
後続車はランナーの後方約36m地点でランナーの動きに違和感を覚えて、ランナーの後方約18.4m地点で数回クラクションを鳴らして注意喚起した。
けどランナーが気づいていない様子だったので減速しつつ側方を通過しようとしたところ、ランナーが突如車道側に飛び出してきてセンターライン付近で後続車と接触。

被告は、歩行者である原告の動静に違和感を覚え、また、クラクションに気付いていない様子であることも認識しながら、十分に徐行することもなく、その側方を通過しようとし、結果、車道内に進入した原告を回避することが出来ず、被告車両を原告に衝突させたものであるから、この点に過失があると認めることができる。
もっとも、本件事故の態様は、通行するに十分な幅員を有する路側帯をランニングしていた原告が、両耳にイヤホンを装着して音楽を聴いていたため、被告車両のクラクションによる注意喚起に気付かず、被告車両が直近に至った時点で、後方確認することもなく車道内に大きく進入し、センターライン付近に至って被告車両と衝突したというものであって、原告にも相当な落度があり、被告の回避可能性が減退していたこともまた明らかではないほかない。

 

さいたま地裁 平成30年9月14日(控訴後和解)

要は歩行者が横断する際には直前横断禁止なわけで、左右を確認せずに横断することは許されない
歩行者の後方にいたクルマは、歩行者の挙動に違和感を感じてクラクションを鳴らしたわけで、イヤホンを使ってなければクラクションを察知していた点を過失にしている。
なお、歩行者過失は40%としています。
もちろん歩行者がイヤホンを使うことは禁止されていませんが、違反割合ではなく過失割合なのでこうなる。

 

そしてクルマについては、クラクションを鳴らした以上は歩行者がクラクションを察知したとみられるまでは追い抜きしないほうがいいのよ。
せっかく歩行者の挙動に違和感を感じて鳴らしたのだから。

 

ちなみに歩行者の挙動に違和感を感じながら漠然進行した件について、警音器を吹鳴すべき注意義務違反として有罪にした東京高裁S39.3.18判決があります。
時速40キロで進行中、対面歩行してくる8歳(下を向いて歩行)を発見。
被告人車の約4.6m手前で横断して起きた事故ですが、下を向いていた時点で警音器を吹鳴して危険を防止すべきだったとし、54条2項但し書き「危険を防止するためやむを得ない場合」に該当するとしてます。

自転車イヤホンは過失になるか?

一応、自転車イヤホンが事故発生に寄与した場合には「自転車過失10%」上乗せすることが通常なんですが、これの根拠としては、ミラーもない自転車が後方確認などをする際には音を頼りにすることを理由としているようです。
いくつか判例を挙げます。

 

まずはイヤホン装着を過失とは見なさなかった事例。
追い越し自転車と被追い越し自転車の事故です。

原告は、被告に、イヤホンを装着して音楽を聴きつつ被告自転車を運転していたこと等、重大な過失があったことを基礎付ける事情が認められるから、被告の過失割合は9割とするのが相当である旨主張する。

しかし、前記認定事実のとおり、被告は、イヤホンを右耳のみに装着しており、両耳に装着していたわけではなく、原告が警音器の音を十分に鳴らしていれば原告自転車の存在を確認することができる状態にはあったといい得ること等に照らすと、被告がイヤホンを装着して音楽を聴いていたことから直ちに、被告に重大な過失があったものとは評価し難いから、原告の前記主張は採用することができない。

大阪地裁 平成31年3月22日

要はイヤホン装着していたとしても、それが必ず過失になるわけではありません。

次にイヤホンを過失とした判例。
交差点を双方直進した事故ですが、自転車側のイヤホンを過失として10%考慮して70:30。

前項で認定した事実によれば、Aも、見通しの悪い交差点に進入するに当たり、交差道路を走行する車両等の有無及びその安全の確認(道路交通法36条4項参照)を怠った過失があるといえる。そして、Aが、イヤフォンを装着していたことにより周囲の音が聞こえにくい状態にあったこと、他方、被告も左方ばかり見ていたものの、Aも左方を見ていなかったことなどを考慮すると、Aについて3割の過失相殺をするのが相当である。

大阪地裁 平成29年3月29日

個人的な感想としては

イヤホン装着を過失又は重過失とみなす理由を考えると、イヤホンで音楽を聴いていたことが注意散漫にして安全確認を「より怠った」みたいなイメージなんだと思う。
冒頭の件はノールック横断なので論外ですが、同じような事故でもいくつかパターンがありますわな。

 

①無確認で横断して事故
②確認したけど確認不十分で事故
③確認したけど相手方が異常な高速度過ぎて事故

 

民事の過失は公平的な見地から過失相殺するので、それぞれ意味が違うわけですよ。
例えばこんな事例。

自転車が横断するときに左右を確認した。
だいぶ遠くにクルマが見えたから横断開始したら、120キロで突っ込んできた。

このような事故なら、イヤホン装着は関係ないと見なされる可能性はありそう。

 

ノールック横断することがダメで、ノールック横断にイヤホンが寄与したなら重過失となるイメージでしょうか。
ただまあ勘違いしやすいのは、イヤホンの有無に関係なく横断する自転車は左右を確認してから横断する義務があるし(25条の2第1項)、クルマは横断歩道に接近するにあたり減速接近義務がある(38条1項前段)。

これらは過失割合がどうであろうと、義務自体は何も変わらないのよね。
たまたま被害者が当たり屋だったときに賠償責任から逃れる判決になることはあるけど、当たる以前に当たり屋だとわかるわけもないし、相手が当たり屋だったことが義務を帳消しにするわけではない。

 

例えば自転車横断帯を青信号で横断した自転車と、左折車の事故について、自転車が故意に起こした事故だとして請求棄却にした判例がありますが、

横断歩道・自転車横断帯を青信号で横断して事故に遭っても、損害賠償請求が認められないケース。
道路交通法の義務の問題と民事の過失割合は必ずしも関係しませんが、一般的には自転車に乗って横断歩道・自転車横断帯がある場所を青信号で渡る場合、横断歩道上を進行しても自転車横断帯を進行したものと同視されます(民事の場合)。 自転車横断帯を青信号...

「損害賠償責任」から逃れるけど、遡って義務を帳消しにするわけではありません。

 

民事の過失相殺も面白いといえば面白いけど、たまにおかしな争いになるのよ。

 

被害者「お前がクラクションを鳴らしていたら、オレは直前横断しなかったはずだ!つまりクルマには警音器吹鳴すべき注意義務を怠った過失があります!クラクションを鳴らさなかったお前に全面的な過失あり!」

 

加害者「えっ!?あんたイヤホンつけて音楽に夢中だったんだし、クラクション鳴らしても聞こえないよね?」

 

被害者「いや、音量も小さくクラクションは聞こえたはずだ!お前がクラクション鳴らしていたら、オレは直前横断しなかった!」

 

加害者「それはノールック直前横断したお前の問題で、クラクションを鳴らす義務なんてなかったし責任転嫁じゃね?」

 

裁判長「…(お前らは何を言っているんだ)」

 

民事の過失相殺も面白いんだけど、義務ベースでそれぞれやるべきことを確認しないと違う事故に繋がるだけ。
民事は「平等に」ではなく「公平に」過失相殺するから自転車過失が相対的に小さくなりますが、個人的に不思議に思うのは、この自転車の後ろにいたのが自転車だったなら、横断自転車が加害者になることを理解しているのかな?

 

そして賠償責任は「平等」ではなく「公平」。

民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎない

最高裁判所大法廷 昭和39年6月24日

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