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38条3項横断歩道手前の追い抜き禁止)と解釈。屁理屈の戦い。

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38条3項には横断歩道手前30mでの「追い抜き禁止」がありますが、このルールは昭和42年改正で新設されたもの。

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条
3 車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(特定小型原動機付自転車等を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

車両が横断歩道を通過する際のルールは、以前書いたように屁理屈との戦いです。
穴が見つかっては埋めての繰り返し。

「横断歩行者妨害」という名前が悪いのか?横断歩行者妨害の改正史を読み解く。
こちらに書いた内容ですが、 38条1項は減速接近義務のほか、一時停止「かつ」妨害禁止。 妨害してなくても減速接近義務違反は成立するし、一時停止義務違反も成立します。 横断歩行者妨害という名前が悪いのか?と考えてしまいます。 38条1項の改正...

38条3項についても、穴が見つかっては埋めての結果です。

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昭和39年改正

現在の「追い越し禁止場所」(30条)については「追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない」としています。
昭和39年時点ではこうなってました。

 

○昭和39年

第三十条 車両は、次に掲げる道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越してはならない。
三 横断歩道の手前の側端から前に三十メートル以内の部分
昭和39年 現在
追い越してはならない 追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない

昭和39年に横断歩道手前30mが追い越し禁止になったのは、横断歩行者の見逃しを防ぐためです。
しかしこのルールには穴がありました。

 

↓が違反にはならないのです。

さて、なぜでしょうか?
理由は追い越しの定義にあります。

二十一 追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。

①追い付く②進路を変える③側方通過④前方に出るの4点を満たすことが追い越し。
なので横断歩道手前30m以内で①~④が行われた場合のみが30条3号の違反でした。

下記だと進路を変えたのが30m以上手前なので、追い越し違反にならない。

なのでほとんどの場合、30条3号の違反にならない欠陥があったわけです。
これを昭和42年に改めます。

昭和42年改正

そこで昭和42年に38条2項と3項を新設。

横断歩道における歩行者の保護を図るため従来からも横断歩道の手前の側端から前に30メートル以内の道路の部分は、第30条第3号の規定によって追越し禁止場所とされていたが、この規定によって禁止されていたのは、横断歩道の手前の側端から前に30メートル以内の部分において、進路を変更し、かつ、前車の前方に出る行為であって、進路を変更しないで前方に出るいわゆる追抜きや、この部分よりさらに手前の部分で進路を変更してこの部分で前車の前方に出る追越しは、第30条第3号の規定による禁止の対象となっていなかった。しかしながら、これらの行為も、横断歩道を通行する歩行者の発見を遅れさせることになる危険な行為であると考えられたので、今回の改正において禁止されたのである。

 

警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

これにより、やっとこのように「30m以上手前で進路を変えた追い越し」を38条3項の違反にできることになりました。

ところがまだ穴が残っていました。
追い越しのために進路を変えたけど、前方に出てない行為は「追い越し未遂」なので、当時の30条3号では違反にならない。

これも横断歩行者の発見を遅らせるので、30条3号は昭和46年に今と同じ形に改正されました。

昭和39年~46年 昭和46年~
追い越してはならない 追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない

38条2項についても

38条2項は横断歩道直前で停止車両がある場合に一時停止としています。
「追い越し」とは走行中の前車に対する規定なので、停止車両の前に出ることは追い越しではありません。

 

昭和42年に38条2項を新設した理由は、「追い越し禁止」だと停止車両の前に出ることを禁止できない上、追い抜き禁止でも同様。
しかも横断歩道手前に止まっている車両は、ほとんどの場合「横断歩行者を優先する目的で停止している」ことを考えれば、一律停止させるほうがいいとの判断だったのでしょうね。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

 

まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。

 

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

 

警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

解釈上、横断歩道の手前で停止している車両が駐停車だろうと関係なく一時停止義務がありますが、国会でもそのように答弁されてます。

第55回国会 参議院 地方行政委員会 第24号 昭和42年7月18日

○原田立君 今度は車を運転する者のほうの側で一応いろいろ考えるわけですけれども、いまお聞きしているのは、具体的な問題になるとどういうことになるのですか。ちょっとこれは愚問かと思いますけれども、横断歩道の直前で、しかも、歩行者もなくて、故障のために停止している車両があると、当然、常識上三十メートル以内であってものけていってもいいんじゃないか、こう思うんですがね。実際問題どうなりますか。

○政府委員(鈴木光一君) 今度新たにこの規定を設けましたのは、横断歩道の直前で停止している車の陰に隠れて歩行者が見えないということがありまして、そのために事故が起こるというケースが非常に多うございましたので、横断歩道の直前でとまっている車があった場合には、一時停止して、歩行者の有無を確認するという意味で一時停止しなさいということになっておるのでございまして、したがいまして、かりに横断歩道の直前で故障している場合でも、やはりとまることを期待しております。

○原田立君 そうなると、そこいら辺が、たとえば後続車がずっと続いているような場合ですね、たいへん混乱するんじゃないですか、交通関係で。

○説明員(片岡誠君) 故障車の場合は、私そうケースが多いとも思いませんし、いま局長が申しましたように、故障車でありましても、やはり横断歩道を歩行者が渡っているかどうか、故障車の陰になって、ちょうど死角になりましてわからない。危険性においては全く同じではないだろうか。したがいまして、故障車であろうと、横断歩道の手前に車がとまっておった場合には、とりあえず一時とまって、歩行者が横断しているかどうかを確認していくというやり方が合理性があるんではなかろうか。先生おっしゃいましたように、故障車が非常にたくさん横断歩道の手前にある場合には、若干円滑を阻害する問題もあろうかと思いますが、実態として故障車が横断歩道の手前にとまっているということはそう多くないのではなかろうか、そのように思っております

横断歩道に関するルールって、穴が見つかっては埋めての繰り返しなんですよね。
本来は1項があれば2項と3項は無くても成り立つのですが、あまりに空気を読めない方々が横行したので2項と3項を追加したのが立法経緯です。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

 

警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

ところで、2項は対向車の停止車を含むか?という話をしてくる方が時々いますが、対向車を含まないのは立法経緯や判例(刑事)から明らか。

道路交通法38条2項と判例の話。
以前の続き。 道路交通法38条2項は横断歩道手前に停止車両があるときには、前に出る前に一時停止するルール。 Aに対して Bに対して Cに対して 38条2項(一時停止) 38条1項前段(最徐行) 特になし 対向車(B)も含むのでは?と疑問が晴...

しかし、民事判例だと対向車の停止車両の場合にも38条2項としたものがいくつか見つかります。
民事って要は、事故が起きなければ訴訟になるわけもないし、対向車の場合に「停止してはダメ」でもない。

 

現実的には対向車の渋滞停止については「最徐行」(東京高裁 昭和42年2月10日判決)で十分だと思いますが、停止して確認することは違反ではありません。

本件交通事故現場は前記のとおり交通整理の行われていない交差点で左右の見通しのきかないところであるから、道路交通法42条により徐行すべきことももとよりであるが、この点は公訴事実に鑑み論外とするも、この交差点の東側に接して横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し、更に対向自動車が連続して渋滞停車しその一部が横断歩道にもかかっていたという特殊な状況に加えて、それらの車両の間に完全に姿を没する程小柄な児童が、車両の間から小走りで突如現われたという状況のもとにおいても、一方において、道路交通法13条1項は歩行者に対し、車両等の直前又は直後で横断するという極めて危険発生の虞が多い横断歩道すら、横断歩道による限りは容認しているのに対し、他方において、運転者には道路交通法71条3号により、右歩行者のために横断歩道の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにすべきことになっているのであるから、たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず、もとより右の如き渋滞車両の間隙から突然に飛び出すような歩行者の横断方法が不注意として咎められることのあるのはいうまでもないが、歩行者に責められるべき過失があることを故に、運転者に右注意義務が免ぜられるものでないことは勿論である。
しからば、被告人は本件横断歩道を通過する際に、右側に渋滞して停車していた自動車の間から横断歩道によって突然にでも被告人の進路前方に現われるやもはかり難い歩行者のありうることを思に致して前方左右を注視すると共に、かかる場合に備えて横断歩道の直前において一時停止することができる程度に減速徐行すべき注意義務があることは多言を要しないところであって、原判決がこのような最徐行を義務付けることは過当であるとしたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな根本的且つ重大な事実誤認であって、この点において既に論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

 

東京高裁 昭和42年2月10日

 

ところで、東京高裁 昭和42年2月10日判決って「最徐行」まで踏み込んで説示しているのでまあまあ重要な判例ですが、なぜか執務資料等では重視されてない。
なぜなんだろう。
なお、警察学論集に書いてあるこれ。

横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから

昭和39~46年は、「横断歩道の前後5m」ではなく、「手前から前に5m」です。
昭和46年に「前後」に改正されますが、要は対向車の駐停車による横断歩道右側の見通しが悪いことを解消する目的。

横断歩道の先方5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所とした(第44条第3号等の改正)

現行規定においては、横断歩道の手前の側端から5メートル以内の部分が停車および駐車を禁止する場所とされているが、横断歩道の先方5メートル以内の部分に車両が駐停車している場合であっても、対向の車両の運転者が、その横断歩道により道路を横断している歩行者の発見が困難になり、歩行者に危険を生じさせるおそれがあるので、今回の改正により、横断歩道の手前だけでなく先方についても、横断歩道の側端から5メートル以内の部分を停車および駐車を禁止する場所としたのである。

道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、道路交通法研究会、東京法令出版、昭和46年8月

つまりこう。

駐停車禁止(44条) 38条2・3項 追い越し禁止(30条)
昭和39年 横断歩道の手前5m駐停車禁止 30m以内は追い越し禁止
昭和42年 新設
昭和46年 横断歩道の前後5m駐停車禁止 30m以内は追い越し目的での進路変更と側方通過禁止

「対向車の停止でも38条2項の義務がある」という人もいますが、そうであれば昭和46年に駐停車禁止場所を「前後」に広げなくても一時停止して確認すれば済むし、昭和42年に警察庁が説明した立法趣旨とも合わないのよね。


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