以前から逆走自転車問題については何度も書いてますが、逆走自転車との距離があるときには、左端に寄せて停止して待ったほうがいいよと書いてきました。
今回の判例は逆走自転車と順走自転車の衝突です。
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順走自転車が犯罪?
判例は東京地裁 令和3年7月2日。
原告は自転車(順走)。
3つの事案に分けることができます。
<1>
原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が道路交通法70条違反(安全運転義務違反)の容疑で書類送検。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
<2>
1ヶ月半後、原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が重過失傷害の容疑で書類送検。
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
<3>
東京都公安委員会が原告に対し、自転車違反者講習の通知を送付。
この判例ですが、民事訴訟でも刑事訴訟でもありません。
行政訴訟です。
1及び2の事故について順走していた何ら過失がない自転車を書類送検したことが違法だという訴えと、3についても違法だとして国家賠償請求をした事件。
なので被告は逆走自転車ではなく、東京都になります。
なお1と2については、刑事事件としては以下のようになっています。
<1>
原告 | 逆走自転車 | |
書類送検容疑 | 70条違反(安全運転義務違反) | 17条4項違反(左側通行義務違反) |
処分 | 不起訴(起訴猶予) |
<2>
原告 | 逆走自転車 | |
書類送検容疑 | 刑法211条後段(重過失傷害) | 刑法211条後段(重過失傷害) |
処分 | 罪名を過失傷害(刑法209条)に変更の上、不起訴(親告罪の告訴欠如) | 不起訴(起訴猶予) |
※重過失傷害罪は非親告罪ですが過失傷害罪は親告罪のため、相手方から刑事告訴がないと公訴提起できません。
原告は1及び2の事故について、書類送検したことが違法だとして国家賠償請求し、さらに自転車違反者講習の通知を送付したことも違法だとして国家賠償請求。
判決では、原告の訴えを棄却しています。
国賠の違法になるかどうかは置いといて、原告の自転車運転方法がどうだったのか検討されてます。
原告は、本件交差点を自転車に乗車して左折進行するに際し、進行方向前方の状況を確認すべき義務を負っていたにもかかわらず、本件交差点を左折進行するに際し、前方の状況の確認を怠り、速度を保ったまま左折進行した結果、対向して進行してきた訴外Bが運転する自転車と正面衝突したことが認められ、その際、衝突回避措置も取られていなかったことが認められる。
そうすると、第1事故について、警察官が原告について安全運転義務違反(道路交通法70条)の嫌疑があるとして事件を検察官に送致した判断に誤りがあるとは認められない。
東京地裁 令和3年7月2日
とりあえず第1事故の分だけを引用しますが、逆走自転車に対し何ら回避措置を取ってないことが安全運転義務違反(道路交通法70条)の嫌疑ありと認定。
第2事故についても同様の判定で、回避措置を取らずに逆走自転車に傷害を負わせたことについて、重過失傷害の嫌疑ありと認定しています。
違反者講習については、講習の受講命令ではなく、原告の防御権の保障のために弁明する機会を与えただけなので、違法ではないという認定です。
安全運転義務違反
道路交通法70条では安全運転義務を定めています。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
以前どこかで書いたように逆走自転車に対しても事故回避措置をとらないと、安全運転義務違反になりうると書いた記憶がありますが、実際に書類送検されてる事例があるとは知りませんでした。
初犯ならまず間違いなく不起訴。
・「道路、交通及び当該車両等の状況に応じ」→逆走自転車が迫ってきた
・「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」→ブレーキやハンドル操作など状況に応じて衝突回避措置をする義務
もちろん、避けようがない場面(急に逆走自転車が登場など)では安全運転義務違反にはなりませんが、そこそこ距離があるときなどには、回避措置を取らないと犯罪になりうる。
なので、刑事責任も民事責任も回避するとしたら、左端に寄せて停止してやり過ごすのが一番。
民事でも、逆走自転車との衝突は生活道路では50:50ですし。
逆走自転車と距離があるときには、左に寄せて停止することをお勧めしてます。
だいたいはこんな感じでお見合いになりますが。
お互いに停止していたら事故になる可能性は消えたので、逆走自転車にはキッチリ歩道に上がって頂きます。
ここについては基本譲りません。
左端に寄せて停止すると、逆走自転車が車道中央寄りにいき、後続車と衝突するリスクがあるという人もたまにいますが、むしろこっちにいこうとすれば、逆走自転車の動向と後続車の動向を両方ケアしながらじゃないと危険。
逆走自転車が相手でも、事故回避義務を怠れば安全運転義務違反になりうる。
実際に書類送検されてる事例があるとは知りませんでした。
自転車の違反については、検察は99%を不起訴にしているくらい。
たまに、逆走自転車を懲らしめる目的で、わざとぶつかりに行くとか、高輝度ライトをハイビーム照射するような奴もいますが、どちらも道路交通法違反なんですよ。
そもそも、そういう行動自体が、心が貧しいと思う。
安全運転義務違反は故意犯だけでなく過失犯も処罰する規定です。
逆走自転車を懲らしめるために、自転車の少額違反金制度には期待していたのですが、アホ警察が見送りですもんね。
自転車の違反は、赤切符でも99%が不起訴。
違反金制度には期待してましたが、違反金制度の対象についても、逆走、無灯火、信号無視、一時停止違反の4つくらいに絞ってやればいいのにと思う。
自転車道があれば誰も逆走しないとか寝惚けたことをいう奴もいますが、自転車道の中で逆走した衝突事故も起きてるくらいなので、
誇張し過ぎ。
「逆走が減る」くらいならまだわかるけど、「誰も逆走しなくなる」なんてアホ過ぎ。
ちなみに民事の判例ですが、逆走自転車との衝突事故で、順走自転車に過失100%をつけた判例もあります。
民事は道路交通法違反ではなく、事故回避義務違反を争うので、逆走自転車が先に停止していたら逆走自転車に分がある。
これもおかしな話ですが、法律ってそんなもんです。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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