車道を通行する自転車にとっては、「自転車横断帯の通行義務」(63条の6、7)がしばしば問題になりますが、
こんなアホな通行方法はもちろん危険。
左折巻き込み誘発兵器になってしまいます。
自転車横断帯を「通行しなくてよい」法律上の根拠
要は63条の7で「交差点の付近」となっている点が問題になります。
第六十三条の七 自転車は、前条に規定するもののほか、交差点を通行しようとする場合において、当該交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは、第十七条第四項、第三十四条第一項及び第三項並びに第三十五条の二の規定にかかわらず、当該自転車横断帯を進行しなければならない。
で。
いまだに下記を根拠に「自転車横断帯を通行する義務がない」と考える人もいるんだなあ…と驚いたのですが、
交差点の外側にある自転車横断帯の設置位置は、法(道路交通法第63条の7第1項)でいうところの「付近」に当たらないため、通行義務がない。[S55東京高裁]
https://law.jablaw.org/rw_cross1
これ、この団体が創作したエア判例です。
エア判例だと断言する根拠は4つ。
②この団体に判決年月日や掲載書籍など情報を求めたら、拒否された(しかも理由が支離滅裂)
③そもそも条文に反した判示になっているので無意味
④警察庁や著名な道路交通法解説書に掲載されてない
なんでわざわざエア判例を創作したのかは知りませんが、そもそもの話。
「容易に視認できない標識や標示は無効」です。
道路標識は、ただ見えさえすればよいというものではなく、歩行者、車両等の運転者が、いかなる通行を規制するのか容易に判別できる方法で設置すべきものであることはいうまでもない。
最高裁判所第二小法廷 昭和41年4月15日
交差点内に進入しないと視認できない道路標示に従う義務はない。
逆にいえば、交差点より手前で容易に視認できる自転車横断帯は通行義務があります。
なんでエア判例を創作したのかは本当に謎。
しかもそのあたりの経緯について質問したらサイトごと滅亡してしまいましたが…
そこまで理不尽な法律ではない
容易に視認できない標識や標示に従う義務を否定した判例はまあまあ多いですが、例えば速度標識が視認不可能として指定最高速度遵守違反を否定したものがあります。
判例は大阪高裁 昭和50年5月30日。
道路交通法違反(速度超過)被告事件です。
検察官は「指定最高速度遵守義務違反の過失犯」(つまり標識を見落として速度超過した)として起訴しましたが、標識が無効であると裁判所が指摘。
本件現場において被告人に対し最高速度を規制すべき道路標識としては本件道路標識が存していたのであるが、本件道路標識は次に述べる理由により被告人のように市道から本件交差点に進入して左折し府道を東行しようとする車両の運転者に対する関係では適法有効なものであるとはいえない。すなわち、道路標識を設置して交通の規制をするときには、車両がその前方から見やすいように設置しなければ適法有効なものであるとはいえないところ(道路交通法4条1項、同法施行令1条の2第1項)、本件道路標識については、車両の運転者が市道から本件交差点に進入して左折するに際し、本件道路標識の方を注視しているかぎり、北東すみ切りの半ば付近に至れば左約45度斜め前方約10数メートルの距離にこれを見ることができ、さらにその後約10メートル進行する間も左前方にこれを見ることができるのであるが、前記認定の道路状況のもとにおいては、運転者は進路前方の交通の安全確認だけでなく府道を直進東行してくる車両に対する安全確認をもしなければならず、そのためには左折体勢に入りながら右後方を注視しなければならないことにかんがみると、左折にあたつての徐行義務を尽していても、左折しているときには本件道路標識を容易に認識することができないというべきであり、そして左折を終つて直進の体勢になつたときにはすでに本件道路標識は左前方の上方にあつてこれを見ることができないのであるから、結局本件道路標識は左折進行の運転者に対する関係では見やすいように設置されているものということができないのである(本来、交差点における左折車両に対する道路標識は、左折が終了して直進状態になつたときにおいて見やすいように設置すべきものであろう)。してみると、被告人は本件道路標識により最高速度の規制を受けるに由なかつたものであり、これを見落して本件現場において40キロメートル毎時をこえる速度で自動車を運転しても、なんら過失による指定最高速度遵守義務違反の罪責を負うことはないというべきである(なお、検察官は当審において、大阪府内においては、その全域につき普通自動車等の最高速度を40キロメートル毎時とする原則的規制がなされ、この規制が道路標識によるなされていることは公知の事実であるから、本件道路標識の無効は本件現場の指定最高速度が40キロメートル毎時に規制されていることに消長を来たさないとして最高裁昭和48年2月12日第二小法廷決定・刑集27巻1号8頁を引用するが、右判例は区域を指定してする速度規制の効力に関するものであるところ、本件は右判例と事案を異にし、道路の区間を指定して速度規制が行われている場合であるから、本件道路標識が無効であるかぎり、被告人に対してはその規制の効力が及ばないというほかないものである)。
大阪高裁 昭和50年5月30日
見えない標識に従えと言われても、見えないものは見えない。
自転車横断帯についても、交差点より手前で容易に視認できるならともかくとして、容易に視認できないなら車道通行自転車が自転車横断帯を通行する義務まではないでしょう。
まあ、63条の7は罰則がなく、警察官から「自転車横断帯を通りなさい」と言われても従わなかった場合のみ罰則(63条の8)。
「容易に視認できない標識等は無効」で済むのに、なんでエア判例を創作したのかは本当に謎です。
念のため昭和55年以外の判例や、東京高裁以外まで検索範囲を拡大してもそれらしきものは全くないのですが、なぜ滅亡したのかも謎です。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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