時々、自転車レーン(普通自転車専用通行帯)に違法駐車がいて邪魔だ!という話を聞きますが、これはある種の社会問題であると同時になかなかややこしい面があるのも事実。
そもそも、駐車なのか停車なのか?という問題もありますが、ちょっと掘り下げてみます。
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自転車レーンは駐車、停車禁止なのか?
自転車レーンは駐車、停車どちらも禁止なのか?という問題がありますが、
駐車禁止の標識はこれ。
駐停車禁止の標識はこれ。
自転車レーンがある場合、基本的には「駐車禁止」になっているはずなので、停車は問題ない。
駐車と停車の定義は2条1項18号と19号にあります。
それぞれの詳しい話は後述しますが、47条1項後段に「他の交通の妨害とならないようにしなければならない」とあることから、自転車レーンを塞いで停車している状態がこれに該当すると考える人もいるみたい。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
残念ながら停車のために自転車レーンを塞いでいる状態は「他の交通の妨害」には「当てはまらない」。
理由はシンプルで、20条3項に
とあるため、停車車両を追い抜きするために第二通行帯を通行することが許されているからです。
なので「駐停車禁止」になっていない限りは、停車自体は問題ないという解釈になります。
駐車か停車かは画像ではわからん
ぶっちゃけた話、静止画像を見せられて
と言われましても、駐車なのか停車なのか判別することが困難でして。
違法に駐車しているなら非難すべきことですが、適法に停車している車両を非難することはできません。
というのも、中には駐車と停車を区別せずに非難する人もいるのですが、適法な停車を非難することは、やっていることは下記と同じなんですよね。
適法に停車している車両を非難することは、「邪魔だから歩道でも走ってろ」というドライバーと変わらない行為になってしまうので厳に慎むべきかと。
同じレベルになってはいけない。
結局のところ、自転車レーンを塞いで駐停車するのをやめてもらいたいのであれば、下記の方法が考えられます。
①自転車レーンと第二通行帯の間に駐車帯を設ける
→白山通りの自転車レーンが良くも悪くも有名ですが、ドア開けリスクを考慮してない作りなので評判は芳しくない。
②自転車レーンと第二通行帯の間に構造物を作り物理的に遮断する。
→国立市の大学通りの自転車レーンやボラードで区切りなど。
③自転車道(2条1項3号の3)にする
→それなりの敷地面積が必要になる。
やたら狭い自転車道にされて離合が困難になってしまったり、法律上の問題から「歩道接続方式」にされがち。
どの方式が有効なのかはそれぞれの道路によって違うので一概には言えませんし、自転車レーンと第二通行帯を構造物で分離することに難色を示す場合も多い。
自転車の通行台数がさほど多くない&クルマの通行台数が多い場合、クルマの通行を優先して自転車レーンへの停車をむしろ許容している場合もあるので。
どちらにせよ、自転車レーンへの駐車は禁止されていても停車は禁止されていないことが多いので、適法停車&違法駐車による「自転車レーン塞ぎ」を防ぐのであれば、何らかの構造分離以外にはムリと考えてよいでしょう。
とりあえず言えるのは、適法に停車している車両であれば非難するわけにはいかない。
法律か道路構造を非難するならわかりますが、適法なドライバーに「ドケ」等と言うのはやめましょう。
「自転車は邪魔だから歩道でも走ってろ」という人と同じレベルになってしまいます。
駐車なのか?停車なのか?
さて。
ここからはテキトーに判例を挙げておきます。
タクシーの客待ちや友達を待つための停止は駐車です。
荷卸しのために5分以内の停止は駐車ではなく停車。
貨物の積卸し
引越荷物の積卸しや出前持ちの配達もこれにあたる。また貨物の積卸しとは、貨物の積卸しそれ自体に限らず、貨物の積卸しに通常付随して行われるもの、たとえば、数量等の点検や伝票記入、受領書の作成交付や送り状の受領印もらい等の行為を包括すると解する。
墨田簡裁 昭和38年5月26日
「継続的に停止すること」の意義
被告人は停車はしたが駐車したのではない。その場所で客を降ろし料金の支払を受けて、つり銭を渡し、運輸日報をつけて退去しようとしたときに、警察係員から駐車違反なりと告げられたものであると強くその犯意を否認するものである。
(中略)
客観的には右2分20秒程度停車したことが認められるとしても、この一事をもつては未だ被告人が故意に駐車となる、客待ち荷待ち、故障等のため車を停止させていたという事実を認定することは証拠上困難である。
小倉簡裁 昭和34年10月26日
その車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあること
「その車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあること」については以下の判例があります。
なお、原判示の、被告人は第一審判決判示の日時、場所(歩車道の区別のない道路)において、電話をかける用件が生じたので自己の運転していた普通乗用自動車のエンジンを止めた上、その傍から離れ、7メートル離れた、たばこ屋の赤電話のところに行き、まず電話帳をくつて先方の番号を調べ、次いで電話をかけようとしたものである、との事実は、記録により優に肯認することができ、原審が本件をもつて道路交通法2条18号後段にいわゆる「運転者がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態」にあつたものと認めた上、被告人の右所為が同法45条2項本文120条1項5号に該当するとした第一審判決を是認したのは相当である。
最高裁判所第二小法廷 昭和39年3月11日
47条1項「できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない」
所論は要するに、原判決は、被告人が原判示の日時、場所において「法定の除外理由がないのに出来る限り、その左側端に沿つて停車しなかつた」と判示して道路交通法(以下単に法と略称)第47条、第120条第1項第1号を適用したが、同法第47条の停車違反は「出来る限り道路の左側端に沿つて停車しない」ことと同時に「他の交通の妨害となる」事実を要件とし、右要件は前者が具備されれば後者がただちに充足される関係にあるのではなく、双方同価値において並列的に必要な要件であつて、単に「出来るだけ左側端に沿つて停車しなかつた」だけでは足らず、その上に、少くとも抽象的に「他の交通を妨害した」事実がなければならない、と言うのである。然しながら車両は、その停車により、一時的にせよ、その車両の幅だけ道路の幅を狭めることによつて、少くとも抽象的には常に他の交通の妨害となるものである。従つて停車を認めるについても、できる限り道路の左側端に沿つて停車させることによつて、他の交通に対する妨害を最小限に止めようとするのが法第47条の法意であるから、できる限り道路の左側端に沿つて停車しないことによつて同条本文の違反になり、その外に抽象的にせよ他の交通の妨害になることを要しないと共に、たとい、できる限り左側端に沿つて停車しても、その停車の仕方が、前記の停車自体による最小限の交通妨害を超えて、更に他の交通の妨害となるようなものであるときには、やはり同条本文の違反になると解するのが、文理上も実質上も相当である。
(中略)
所論は、被告人は本件当時、出来る限り道路の左側端に沿つて停車させたし、その停車によつて他の交通の妨害になる事実はなかつたと主張する。
然しながら、所論の如く、被告人が、原判示の卸売市場前の道路に直角に、他の車の駐車を許さない状態で、何台も駐車していた車の内の一台の側に約50センチの巾をおいて停車し、右駐車中の車との関係では、それ以上左に寄つて停車できない場合であつたとしても、道路の左側端に沿つてすでに他の車両が停車又は駐車しているのであるから、之に沿つて停車することは、法第47条にいう「できる限り道路の左側端に沿い」停車したことにはならない。
更に被告人の停車か所論の如く、他の交通の妨害にならなかつたとしても、法第47条の違反が、このことを要件とするものでないことは前述の通りであるから、論旨はいづれも理由がない。
名古屋高裁 昭和38年5月16日
駐車禁止場所に30分駐車したことについて無罪とした判例
緊急避難を適用して無罪にした判例があります。
入院患者の緊急状態は単に同病院に到着したことによつて失はれるものではなく、その目的である医療に現実に着手するまでは存続するものと解せられ、この間どんな病状の急変が起るかも知れず、都合よく直ちに手術に着手する場合でも、現今の盲腸切除手術は比較的短時間で終了するから、手術を終えた絶対安静の患者を収容する病室え、少くとも手術終了までには寝具の運搬などの看護を済ませて置く必要があり、これが間に合なかつた場合の医療上の蹉跌などの憂慮もあつて、かかる場合、厚生病院に残した通院係を呼び迎える暇もなく、さりとて無関係な通行人にまで委嘱するにしのびなかつた当時の差し迫つた事情が推認され、又一般の病院においては手術前の入院に要する看護等をする人員の配置もなく病院側では特に前もつて頼んで置かない限り、このような看護につき配慮はして呉れないのが通常で、午前9時50分頃は病院でも最も多忙な時に当るから本件の場合も斯うゆう人手を得られなかつたのはむしろ当然で、被告人の外にかかる看護をする者がいなかつた状況下において、この緊急状態を救うため止むを得ずなされた行為に因り、駐車状態継続の結果を発生させたものであつて、他面本件の場合のように病院附近道路を駐車禁止区域と指定した法意を考えて見ても、勿論その地域環境などから他の理由もあるであらうが、病院は患者その他の人の出入が頻繁であり、これ等の交通安全の見地から駐車を禁止する意味もあると解せられるところ、病院に医療を求め入院する患者を輸送するための駐車をも禁止するのは、むしろ思はざる結果と云うべきで運用に柔軟性を与えられる余地の存するものと解せられるから被告人の右所為は盲腸炎のため一刻も早く入院治療を要する状態にあつたAのため、同人の生命、身体に対する危難を避けようとして止むを得ずなされた行為として、その程度を超えないものということができるので、刑法第37条第1項の緊急避難に該当し違法性が阻却されるものということができる。
又仮りに本件が緊急避難に当らないとしても、被告人の勤務する自衛隊においては現在では旧軍隊のような命令服従の関係は存しないであらうが、その勤務の性質から多少一般とは違つた命令服従関係によつて規律せられていることは否定できないところであつて、被告人が上官の命令を受けて患者輸送の任を担当する以上、この上官の命令が違反を犯してもよいから遂行せよという意まで含めたものではないとしても、手術することが判つていた患者に対し他に看護する者のない場合においては単なる輸送に止まらず、本件の程度の看護をなす責任を感じていたものと認められ、しかも被告人と患者との関係は単なる入院患者と自動車運転者との関係に止まらず配置こそ違つても同部隊の同僚であつて、このような立場にあつた被告人が前述のような諸般の事情下にあつて、その緊急状態を放置するに忍びず、真に止むを得ずなされた行為と認められ、一般通常人でもこのような場合に直面すれば他の適法行為に出ることは期待し得られない事情にあつたものということができるから、社会一般の道義上非難のできない、真に止むを得なかつた行為としてその刑事責任のないものと云うことができる。
帯広簡裁 昭和33年1月31日
話が逸れましたが
ぶっちゃけた話、自転車レーン上に停止車両がいる画像をみても、それが違法駐車なのか適法停車なのかはわからないので、非難の対象なのかはわかりません。
適法ならば非難するわけにはいかないし、ましてや適法停車に対し「ドケ」なんて軽々しく言った日には、「自転車は邪魔だから歩道走ってろ」と同じ発想でしかない。
適法者を非難すると同じように返ってくるだけなので。
結局、違法か適法かは一見してわからない以上、常に自転車レーンを開けてほしいなら上で書いたような構造分離するしかないし、もしくはルールを変えるしかないです。
けど、構造分離にしてもおかしな構造を作られたらむしろ危険になるわけで、ちょっと根が深い話。
自転車レーンにクルマがいたときに、それが適法なのか違法なのかは一見してわからない以上は非難するわけにはいかないので、結局は法律もしくは構造の問題にしかならんでしょう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
はじめてコメント差し上げます。
いつも興味深く拝見をしております。
いま自分はコラテックのドロミテに乗っているのですが
クロスからロードに乗り換えを検討しているときに
こちらの書き込みにコラテック押しが載っており丁度
Y’sさんで在庫アリになっていたので購入に至った経緯があります。
1年半ほど前です。主に通勤で使用していて満足高しです。
本題ですが、
今回話題になっている自転車レーンですが
個人的には都心ではまともに走れるレーンは存在しないと感じています。
上記の白山通りやちょっと前に話題になっていたドーム裏の壱岐坂通りなども
たまに通ることがありますが
自転車レーンを通行することは怖く、
なるべく避けるルートを検索してしまいます。
インバウンド復活で観光客が増えた影響と思われるのですが
こんな無法地帯となっているところもあります。
※そもそも横断歩道の上に駐車(多分停車)しているので
自転車レーンがどうのこうのという前に違反と思われるのですが・・・
郊外に出ればちゃっとは走れるところもあるとは思うのですが、
都心では無理なんでしょうね。
先日都庁の前を走っとき自転車レーンです
ちょっと愚痴モードなのですが・・・
FB見づらいようでしたが画像データお送りできます。
SNS用にナンバーや顔はぼかし入れています。
では、これからも楽しみにしております。
いつも勉強させていただいております。
失礼いたします。
コメントありがとうございます。
結局、自転車レーンが途切れたところでは塞がれてしまうオチですかね。
なかなか難しい問題になりますが…
駐車車両だろうが、路上に転がったゴミ袋だろうが後方をしっかり確認して追い越すしかないような気がします。もちろん駐停車禁止エリアで止まってる車両は緊急以外では違反と言う前提で。