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付加点数の「専ら当該違反行為をした者の不注意」とは何か?

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クルマの運転者が交通事故を起こしたときに、道路交通法違反があれば違反に応じた点数が付き、さらに付加点数が付きます。

 

付加点数は二種類。

①交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によつて発生したものである場合
②それ以外

 

「①専ら当該違反行為をした者の不注意」の解釈がどうなっているのかについて。

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専ら当該違反行為をした者の不注意

「専ら当該違反行為をした者の不注意」(施行令別表第2の3)についてはこのような解釈。

「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」の解釈

施行令別表第2の3の表における「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」とは,当該違反行為をした者の不注意以外に交通事故の原因となるべき事由がないとき,又は他に交通事故の原因となるべき事由がある場合において,その原因が当該交通事故の未然防止及び被害の拡大に影響を与える程度のものでないときをいうものと解するのが相当である。

東京地裁 平成27年9月29日

結構勘違いしやすいのは、民事の過失割合は何の関係もありません
民事の過失割合は被害者の金銭賠償上の概念(民722)ですが、施行令でいう「専ら」はあくまでも要許可行為である運転免許をコントロールするためにあるので、民事で被害者に過失がつくことと、施行令の概念は何ら関係がない。

 

いくつか実例をみていきます。

実例からみる違反点数と付加点数

交差点安全進行義務違反と「専ら以外」の付加点数

判例は東京地裁 平成28年12月9日。
事案の概要です。

 

運転者(原告)は優先道路を進行中に、非優先道路から進行してきた自転車と衝突した死亡事故。
公安委員会は「交差点安全進行義務違反」(36条4項、2点)と「専ら以外の付加点数」(13点)とし点数が15点になったとして免許取消に。

 

原告が交差点安全進行義務違反の不成立を主張したもの。

 

この場合は非優先道路から交差点に進行した被害者にも落ち度(36条2項、優先道路の進行妨害)があるので付加点数は「専ら以外」となります。
なお、交差点安全進行義務違反については、原告が普通に前方注視していれば余裕で衝突を回避できたとして違反があったことを肯定。

本件視認可能地点から本件衝突地点までは50mという十分な距離があったことからすれば,本件事故当時に小雨が降っていたことを考慮しても(証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば,摩擦係数を濡れたア
スファルトの0.45で計算した場合,本件車両の停止距離は約44mとなることが認められる。),原告は,本件車両が本件視認可能地点に到達した時点以降,本件自転車の動静に応じて,必ずしも急ブレーキによらずとも適切な減速の措置を執っていれば,本件車両が本件衝突地点に到達する前に本件自転車が本件衝突地点を通過するなどして,本件車両と本件自転車との衝突を回避することが可能になったものといえる。

東京地裁 平成28年12月9日

通常このような事故の民事過失割合は50:50ですが、民事過失割合と施行令の「専ら」は何の関係もない。
交差点安全進行義務違反についても、予見不可能/回避不可能なら点数はつかないけど、この事例は容易に回避可能だったので違反が成立する。

被害者の信号無視

こちらの事例です。

被害オートバイが信号無視して直進し、右折車と衝突。
直進オートバイ、右折車ともに過失運転致傷の容疑で書類送検されてますが、民事過失割合は右折車20%で示談したそうな。

 

相手が赤信号無視なら100%になるだろ!と思う人がいるでしょうけど、信号無視することが容易に予見可能であれば右折車にも過失がつくことはあるし、そういう判例もあります。
書類送検にしても犯罪嫌疑があれば書類送検されますが、検察官が起訴するかどうか、裁判所が有罪にするかは別問題。

 

で、右折車の行政処分。
何ら違反点数はついてなく、ゴールド免許だそうな。
まあ、事故加害者でも何ら点数がつかないことはあります。

被害者の過失

判例は最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日。
まずは事案の概要から。
交差点安全進行義務違反(36条4項)と「専ら運転者の不注意」(付加点数)として免許を取消にした公安委員会の処分について、「専ら運転者の不注意ではない」と主張した判例です。

1 本件は,第1種運転免許(普通自動車免許及び大型自動二輪車免許)を受けていた被上告人が,交差点安全進行義務違反(道路交通法36条4項の規定の違反となるような行為)により自転車運転者を負傷させる交通事故を起こしたところ,上告人から,同事故が専ら被上告人の不注意によって発生したものであり違反行為に係る累積点数が15点に達したとして上記免許を取り消す処分(以下「本件処分」という。)を受けたので,その取消し等を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人(当時78歳)は,平成15年1月15日午後2時25分ころ,普通乗用自動車(以下「被上告人車」という。)を運転して,a町b町線・a町c町線(以下「被上告人側道路」という。)を北進し,和歌山県新宮市cd番e号先の信号機等により交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)内に少し入った地点でいったん停止し,被上告人側道路とほぼ垂直に交差する丹鶴町中央通り線(以下「交差道路」という。)に自動車の通行がないことを確認して再発進し,本件交差点を直進して通過しようとした。折から交差道路の北側歩道上を時速約8ないし15㎞で西進して本件交差点を直進しようとしていた女性(当時62歳。以下「被害者」という。)の運転する自転車(道路交通法63条の3にいう普通自転車。以下「被害自転車」という。)があり,これに被上告人が気付いた時には,被上告人車の時速が約15㎞に達していたため,被上告人は,急制動の措置を講じたが間に合わず,本件交差点の北側出口付近で被害自転車に被上告人車の右前部を衝突させて転倒させ,被害者に対し3か月の安静加療を要する第3腰椎圧迫骨折,左腓骨骨折の傷害を負わせた(以下,この交通事故を「本件事故」という。)。
(2) 交差道路は,幅員約3.6mの車道が2車線あり,その両側に自転車通行が許可された幅員2.3ないし2.5mの歩道が設置されている。被上告人側道路は,車線の区分のない幅員6m,有効幅員4.9ないし5.4mの道路であり,その本件交差点手前において,道路標識等により一時停止すべきことが指定されている。
本件交差点の北側出口付近には,交差点中心に近い側に幅員1.5mの自転車横断帯が,遠い側に自転車横断帯に接して幅員2.3mの横断歩道が設けられてい
る。本件事故における被上告人車と被害自転車との衝突地点は,自転車横断帯の北側標示線の中心から約0.8m離れた横断歩道上である。なお,本件交差点の四方には,いずれも同様に自転車横断帯及び横断歩道が設けられている。
(3) 本件事故の際,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車の進行してくる方向への見通しを妨げるものや,被害自転車が進行してきた方向から被上告人車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは,特になかった。被害者は,死角となっている進路右方の安全に気を取られ,被上告人車の進行してくる方向を注視することなく本件交差点に進入した。

この件、なぜ横断歩行者等妨害違反(38条1項)ではなく交差点安全進行義務違反として処理されているかというと、理屈の上では自転車横断帯から外れた位置を通行する自転車は38条1項の保護対象ではない。
民事責任上は自転車横断帯から1~2m程度なら自転車横断帯を通行したものと同視しますが、道路交通法上は自転車横断帯を通行していないのだから38条1項違反にはならないわけ。

大阪高裁は「専ら運転者の不注意ではない」として運転免許取消処分を取消にしている。

被害者は,被上告人車の進行してくる方向を注視していれば,被上告人車が本件交差点を進行して被害自転車の進路前方を通過することを予見し,本件交差点の手前で停止するなどして本件事故の発生を避けることが可能であった上,本件交差点内において被上告人車は比較的低速度となっており,被害者において衝突回避措置を執ることができる余裕が十分にあった。そうすると,被上告人の不注意以外に本件事故の原因となるべき事由があり,その事由がその有無によって本件事故の未然防止及び被害拡大に影響がないほど軽微である場合であるとはいえない。このことは,被上告人車より被害自転車の方が通行の優先度が高く,横断歩道等の安全を確保する義務や交差点内における安全進行義務が自動車運転者の基本的な義務であることによって,左右されるものではない。したがって,本件事故が専ら被上告人の不注意によって発生したとはいえない。
(3) よって,被上告人の違反行為に係る累積点数は運転免許取消しの基準となる15点に達しないから,本件処分は違法である。

しかし最高裁は「専ら運転者の不注意」とすべきとする。

しかしながら,原審の上記3(2),(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば,本件事故の際,被害自転車が進行してきた方向から被上告人車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特にないのに,被害者は,死角となっている進路右方の安全に気を取られて,被上告人車の進行してくる方向を注視することなく本件交差点に進入したというのである。
(2) しかし,前記事実関係によれば,本件交差点においては信号機等による交通整理が行われていなかったところ,被上告人側道路に一時停止の規制があったのであるから,被上告人側道路の車両の通行よりも交差道路の車両の通行が優先する関係にあったということができる。
さらに,車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がないことが明らかな場合を除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,この場合において,自転車横断帯によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)。前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではないというべきである。
また,被上告人は,本件交差点に入ろうとし,及び本件交差点内を通行するときは,本件交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法36条4項)。
これらの自転車横断帯等における自転車の安全を確保する義務や交差点安全進行義務は,自動車運転者にとって交通事故を防止する上で基本的なものであるということができるから,被害者としては,被上告人がこれらの義務を遵守することを十分に信頼することができる立場にあったというべきである。
そして,前記事実関係によれば,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特になかったというのであるから,被上告人は,被害自転車を発見し,衝突を回避することが十分可能であったにもかかわらず,上記義務を怠り,本件事故を発生させたというべきである。
(3) そうすると,令別表第1の2の表の適用に関し,被害者が被上告人車に気が付かず,その動静に注意しないまま横断歩道上を横断しようとしたことをもって,被害者の不注意と評価すべきものではなく,本件事故は,専ら被上告人の上記不注意によって発生したものというべきである。

最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日

①運転者側に一時停止規制があり、交差する被害者が優先だった
②自転車横断帯から0.8m外れた横断歩道上でも、38条1項により被害者優先とみるべき
③交差点安全進行義務(36条4項)
④見通しは良好

 

この4つの観点からすると、被害者の不注意とみるべきではなく「専ら運転者の不注意」(施行令)とみなすべきと判断。

 

あくまでも争点は施行令における「専ら」の解釈なので、民事過失割合とは何の関係もありません。
この判例を理由に「最高裁が専ら運転者の不注意だと判断したから、民事被害者過失は0%だ!」と主張しても何の意味もない。

分かりにくいけど

事故については刑事・行政・民事がそれぞれ別の概念で判断されるので、刑事は無罪、民事は加害者過失80%なんてこともありますが、刑事・行政・民事は目的を別にするから当たり前なのよね。
国家が刑罰を下す刑事、要許可行為をコントロールする行政、被害者の利益回復を目的とした民事で判断基準が違うのは当然。

 

ただまあ、これらは「事故った後の問題」でしかないので、事故らないように運転するという大原則は変わらないわけよ。

 

事故を起こさなければ付加点数はないし、本気で予見不可能/回避不可能なら点数もつかない。

コメント

  1. jukka より:

    信号無視することが容易に予見可能であれば右折車にも過失がつくことはあるし、
    ってのがちょっと理解出来ないんですがどんな場合でしょうか?

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      例えばですが、対向車が明らかに止まらないような速度で交差点に向かっていることを視認した場合などです。
      通常、対向車が赤信号なら赤信号に従って停止すると期待できますが、「ちょ!お前そのスピードで止まれないだろ!」という様子が見てとれる場合、そのまま右折したら衝突します。
      そういう場合には右折車にも過失がつくことがあり、そういう判例もあります。

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