道路交通法42条1号では左右の見通しがきかない交差点に入ろうとするときに徐行義務を定めてますが、優先道路/交通整理がある場合には除外されてます。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
道路交通法で「交通整理」とは、信号/警察官等の手信号を意味し、点滅信号は含まれません。
一時停止標識も「交通整理」ではない。
何が問題ですか?
自動車?自転車? pic.twitter.com/lCyYf4oAbq— ぴろん🇯🇵 (@pirooooon3) August 7, 2024
わりとビックリするのですが、一時停止標識も「交通整理」だと思っている人もいるらしい。
交差道路に一時停止標識があれば、「交通整理」だから徐行義務がないという間違った解釈に陥る人も。
標識が交通整理に含まれない根拠
標識が「交通整理」に含まれない根拠は、シンプルに法律に書いてあるから。
十五 道路標識 道路の交通に関し、規制又は指示を表示する標示板をいう。
十六 道路標示 道路の交通に関し、規制又は指示を表示する標示で、路面に描かれた道路鋲びよう、ペイント、石等による線、記号又は文字をいう。
信号は「交通整理等」、標識/標示は「規制又は指示」と定義しているので、標識は「交通整理」には当たらない。
なお、警察官等の手信号は6条にあります。
第六条 警察官又は第百十四条の四第一項に規定する交通巡視員(以下「警察官等」という。)は、手信号その他の信号(以下「手信号等」という。)により交通整理を行なうことができる。
2条15号では信号を「交通整理等」と濁してますが、点滅信号は信号ですが交通整理に含まれないので曖昧さ回避のために「等」なんですかね。
なお、道路交通法三六条二項、三項にいう「交通整理の行なわれていない交差点」とは、信号機の表示する信号または警察官の手信号等により、「進め」「注意」「止まれ」等の表示による交通規制の行なわれていない交差点をいい、本件交差点のように、一方の道路からの入口に黄色の燈火による点滅信号が作動しており、他方の道路からの入口に赤色の燈火による点滅信号が作動している交差点も、これにあたるものと解するのが相当である。
最高裁判所第一小法廷 昭和44年5月22日
ただし点滅信号は含まれない。
そもそも、一時停止標識を「交通整理」と捉えたら43条は支離滅裂になりますが、
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
定義上も標識が「交通整理」になれる根拠はないし、仮に一時停止標識を交通整理とみなしたら支離滅裂になる。
なお4条1項にこのような文言がありますが、
定義上、「信号=交通整理等」、「標識等=規制又は指示」としているので、それぞれに対応した意味で読むのが正解。
間違っても「道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理をすることができる」とは読めないので、標識等については「道路標識等を設置し、及び管理して、歩行者若しくは遠隔操作型小型車又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる」と定義に対応した形で解釈する。
私人の誘導は「交通整理」?
交通整理は信号/警察官等の手信号に限定されているので、私人の合図は交通整理とはならない。
しかし、私人の合図に他人が従うことを信頼して通行することが許されるとした判例があります。
被告人は自動車運転の業務に従事している者であるが、昭和44年9月29日午後3時30分ごろ、土砂を積載した大型貨物自動車を運転して名濃バイパス方面(東方)から江南市a方面へ向け時速約50キロメートルで進行し、愛知県丹羽郡b町大字c字de番地先の交通整理の行なわれていない右方(北方)道路への見とおしのきかない交差点の手前にさしかかり直進しようとしたが、徐行および右側道路に対する安全確認の各義務を怠り同一速度で同交差点に進入しようとした過失により、同交差点の手前約4.7mの地点において、おりから右側道路の北方にあるA組作業現場から、土砂を積載するため同交差点左方(南方)道路方面へ向け、A組作業員Bの赤旗による停止の合図を無視して時速約25キロメートルで同交差点に進入してきたC(当時55才)の運転する大型貨物自動車を右前方約19.3mの距離に発見し、急停車の措置をとるとともにハンドルを左に切つたが間に合わず、同車の前部に自車の右前部を衝突させ、右Cを路上に転落させ、よつて同人に全治8ケ月18日間の頭蓋骨々折、頭蓋内出血の各傷害を負わせた。
最高裁判所第一小法廷 昭和48年3月22日
信号がなく見通しが悪い交差点を通行する際に、交差道路に私人が赤旗(停止)の合図を出しているのをみてそのまま通行したところ、私人の交通整理を無視して突っ込んできた車両と衝突。
信号がなく見通しが悪い交差点なので、原判決は「徐行義務違反(42条)による過失」として有罪。
私人による交通整理は道路交通法上は効力がなく、交通規制とは認められない。
しかし最高裁は「私人の交通整理を信頼してよい」として無罪にしています。
しかしながら、右Bによる交通規制が、道路交通法42条にいう交通整理にあたらないことは、原判決の判示するとおりであるが、右Bが北方から本件交差点に進入する車輛に対し赤旗により停止の合図をしていたものである以上、東方から同交差点に進入する車輛の運転者としては、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図に従うことを信頼してよいのであつて、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図を無視し同交差点に進入してくることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。
本件記録によると、被告人は本件事故当日大型貨物自動車を運転してたびたび東西道路を往復し、本件交差点の西北角で右Bらが北方から同交差点に進入してくる車輛に対し赤旗と白旗で交通規制をしているのを知つていたものであるが、本件事故の際、被告人は東西道路の東方から前記自動車を運転して時速約50キロメートルで進行し、同交差点の約15m手前の地点(南方道路の入口を規準とする。Cの進行してきた北方道路の入口からは20m以上手前であると認められる。)において、同交差点の西北角でBが赤旗を上げ北方からの車輛を停止させようとしているのを認め、北方からの車輛は右Bの停止の合図に従つて同交差点の手前で停止するものと考え、アクセルペダルから足を離しただけでそのまま進行したところ、同交差点の手前約4.7mの地点において、北方道路からCの運転する大型貨物自動車が、右Bの停止の合図を無視し時速約25キロメートルで同交差点に進入してくるのを約19.3mの距離に発見し、急停車の措置をとるとともにハンドルを左に切つたが間に合わず、同車の前部に自車の右前部を衝突させたものであることが認められる。
そうすると、被告人が、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図に従い本件交差点の手前で停止するであろうと信頼したことは相当であつて、同交差点で徐行しなかつたことを被告人の過失とすることはできないものというべきである。
最高裁判所第一小法廷 昭和48年3月22日
私人による交通規制に他の車両が従うことを信頼して進行してもよい、という判例です。
なお、似たような事例では、
私人による交通規制が行われている場合に、自動車運転者が右規制に従つていさえすれば必ず過失が否定されるということにならないのは当然である。しかし、私人による交通規制であつても、これを信頼して進行したため過失が否定される場合があることは、最高裁判所の判例(昭和48年3月22日第一小法廷判決・刑集27巻2号240頁)も認めるところであつて、結局、当該私人による交通規制の趣旨・目的、同人に課せられた任務・役割、同人が現実に行つていた規制の方法及びこれを前提とした当該場所における現実の交通状況等にかんがみ、これが自動車運転者にとつて信頼に値するものであると認められるときは、右規制に従つて進行する自動車運転者にとつて、本来同人に課せられている注意義務が軽減又は免除されることがあると解すべき
大阪高裁 昭和62年5月1日
共通理解がないので
ちょっと前に挙げたこちらにしても、

徐行義務に言及している人が必ずしも多くはないし、ましてや一時停止標識を「交通整理」と思っている人すらいるので、そりゃ事故るわな。
ワケわからん解釈をする人がいるように、共通理解がない以上、他人が法規に従って通行することを期待するなんてやめたほうがいいでしょうね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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