こちらの記事にご意見を頂いたのですが、
広島県では県施行細則(公安委員会遵守事項、道路交通法71条6号)の改正により、自転車走行中にサイクルボトルからドリンクを飲む行為が禁止になるそうな。
ちょっとこれについて掘り下げようと思う。
公安委員会遵守事項の改正
公安委員会遵守事項は道路交通法71条6号に規定され、各都道府県の公安委員会が定めた事項を遵守しないときには道路交通法違反となる。
広島県道路交通法施行細則が改正されるそうです。
https://plus.sugumail.com/file/upload/hiroshima-police/2024/kFwKQVDu4V2g3oEt2dujjIp9vgDxs6e2BqvIj7LV.pdf
確かに、主な禁止行為として走行中にペットボトルからドリンクを飲む行為が書いてある。
読者様が県警本部に確認したところ、以下の回答だったそうな。
サイクルボトルでも水分補給しながら走るのは駄目だそうです
・片手運転は不安定な状況を作り出すので停止して水分補給してください
・元々交通量の多い道路では禁止しておりましたがこの度全ての道路に規制を拡大します
・見つけ次第即刻罰金には成らないと思いますが声を掛けさせて頂くとは思います
・本行為で事故を起こした場合は検挙する可能性はあります
・レース等で交通整理されている場合はこの限りではありません
とのことでした。
県警がいう意味はわかるし、停止して飲むほうが安全なのは間違いない。
このように県警がアナウンスする趣旨は理解しますが、ペットボトルとサイクルボトルはちょっと意味合いが違うと思うのよ。
まあ、検挙ではなく注意指導の話なので、やや拡大解釈して注意指導する方が合理的なのも理解しますし、停止して飲むほうが安全なのは確実。
なお、旧規定と新規定の差はこれ。
旧規定では交通の頻繁な道路に限定してましたが、改正後はその限定を撤廃。
なお、おそらく全ての都道府県に同様のルールがありますが、「交通の頻繁な道路」に限定しているほうがマレです。
東京都なんかはこう。
第8条 法第71条第6号の規定により、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
(3) 傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で、大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。
広島県の新規定と同じです。
公安委員会遵守事項の解釈
広島県警が一律で「走行中のドリンク」を禁止にするようなアナウンスをする理由は理解しますし、停止して飲むほうが安全なのは言うまでもないのですが、公安委員会遵守事項の解釈としてはサイクルボトルまで禁止とするのはちょっとムリがある気がします。
条文はこうですよね。
解釈としてはこうなる。
あくまでも禁止しているのは「視野を妨げ又は安定を失うおそれがある運転方法」。
視野を妨げ又は安定を失うおそれがある運転方法の例示として「傘を差す」「物を持つ」が挙げられてますが、物を持つ行為全てが「安定を失うおそれがある運転方法」とは言えないわけで、物を持つ行為全てを禁止しているとは解釈し難い。
だから県警も「即検挙ではなく注意指導。事故と因果関係があれば重過失致死傷罪の適用」とアナウンスするのでしょう。
ペットボトルから飲む行為は蓋を開けて…というアクションが入りますが、サイクルボトルはそのまま直飲みして数秒後にはボトルケージに戻すわけで、状況によっては安定を失うおそれがある方法になることもあれば、安定を失うおそれがあるとまでは認められない場合もあるわけよ。
例えば、峠の下りでカーブが連続している中でサイクルボトルからドリンクを飲むのは危険だし安定を失うおそれがある方法。
見通しがよく交通量が少なく舗装状況も良好な道路で、たいしてスピードも出てない状況でサイクルボトルからドリンクを飲む行為が「安定を失うおそれがある方法」なのかと聞かれたらかなり疑問だし、サイクルボトル以前にフラフラしているおじいちゃんと、熟練のサイクリストで「安定を失うおそれ」の範疇は違う。
「おそれ」を拡張するのはムリがある。
結局、「この場合はOK」「この場合はNG」みたいな話をしだすとキリがないから、一律禁止であるようにアナウンスするしかないのよね。
というのも、全く同じ公安委員会遵守事項を持つ都道府県に以前確認したことがありまして、「ロードバイクに乗る人が常識的な範囲でドリンクを飲む行為まで禁止しているわけではないけど、歩行者がたくさんいる歩車道の区別がない道路でドリンクを飲んだり、下り坂でスピードが出た状況で飲むわけじゃないでしょ?常識的な範囲でドリンクを飲む行為まで規制したものではない」と言われまして。
けど、具体的事例を挙げて「この場合はOK」「この場合はNG」と示すのは穴が出るなど不合理なので、個別に判断するしかないわけよ。
まあ、広島県警が公安委員会遵守事項の改正に踏み切った理由はなんとなく想像つくし、時速9キロ、片手にスマホ、片手にドリンクで歩行者に衝突した死亡事故も起きているし(重過失致死罪で有罪)、結局のところ停止してから飲むべきという結論は変わらないけど違反の成立は別かなと。
違反になるかならないかという観点だけでなく、危険性があるならすべきではないのも事実です。
公安委員会遵守事項の役目
そもそもなぜ広島県が「交通の頻繁な道路」に限定していたのか不思議ですが、公安委員会遵守事項としてこのルールを定めているのには理由がある。
物を持つ二輪車の運転について、安全運転義務違反(道路交通法70条)として起訴した2つの事例があります。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
ちょっとややこしい話になりますが、以下が判例。
森簡裁 S42.12.23 | 遠軽簡裁 S40.11.27 | |
事案の概要 | 自動二輪車で出前の岡持ち、片手運転 | 原付で左官用こておよび手板を持ち片手運転 |
嫌疑 | 右手でハンドルを操作し、左手に出前箱一個(長さ47センチメートル、高さ30センチメートル、巾26センチメートルのステンレス製、総重量約6キログラム)をさげ、あるいはこれを胸部前面に吊るように持ち、危急の場合には警笛吹鳴も、正確なハンドル操作も、又安全に急停止もできない状態で、20キロメートルの速度で同車を運転進行し、もつて道路及び交通の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で当該車両を運転しなかつた70条違反 | 人車の往来が頻繁な交差点道路を右折するに際し、ハンドルから左手を離しこれに左官用こておよび手板を持ち、このためハンドルを確実に操作できない状態で時速約20キロで進行し、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した70条違反 |
判決 | 無罪 | 有罪 |
これって片手運転について判断が割れたわけではなくて、2つの判例は一貫している。
理由はこれ。
法70条は現実の具体的な状況が一つの構成要件要素となつていることを考えなければならない。すくなくとも、右70条にいういわゆる安全運転義務に反したというためには、道路交通及び当該車両等の具体的な状況からみて、他人の生命、身体に危害を及ぼすような虞れが、現に存在した場合でなければならない。従つて、まつたく人車の往来のない道路で、いかに乱暴な危険な運転をしたとしても、それだけでは本条違反とはならないのであり、他人に危害を及ぼす虞れのある客観的な状況を必要とするのである。もつとも本条は、現実に他人に危害を及ぼしたことも、具体的な危険が発生したことも必要としない。このような意味で本条は抽象的危険犯ということができる。
本件犯罪事実を認定した各証拠によれば、被告人が運転した原動機付自転車の左ハンドルには、ライトの切替スイツチとその下方にホーンボタンの装置のみがほどこされている。いわゆるノークラツチのもので、当時の状況としては、これらの装置を使用する必要はなかつたと考えられる。そうであれば、被告人には右装置の操作懈怠はなく、この点に義務違反はない。そこで被告人の左手離し運転の状態をみると平衡を失したり、ぐらつき、ジグザクな走行になつたわけではなく、免許証取得の年数からみてもとくに運転技術が拙劣であることもなく、また左手に下げた左官用の手板、こても1キロ程度の重量しかなく、道路も比較的平坦な、また狭隘という程でもなく、本件交差点附近をのぞきかなりまつすぐな状態にあり、すくなくとも判示交差点にさしかかるまでは人車の往来もさして頻繁でなかつたのであるから、かかる状況のもとでは、被告人の右行為をもつて他人に危害を及ぼす虞れがあつたとすることはできない。
ところが被告人はそのまま走行を続け、遠軽町大通り南四丁目附近の交差点を右折して、ここで当時交通違反者公開取締中の警察官の指示をうけ停止したのであるが、この交差点は、北見方面と紋別方面を結ぶ幹線と岩見通りと西町とを接続する道路とが変則的に交差する四叉路で、車の往来も頻繁であり、またこの交差点の附近には、信号機の設置されていない横断歩道が設けられていて、人の往来も頻繁である。被告人はこの交差点を判示のような状態で、約20キロの速度をもつて通過したのであるが、かような交通繁雑な路上では、同一方向の車両等、対向車両等および横断中の歩行者との近接の度合も一段と高くなるから、これら人車との接触回避を要する事態も容易に生じうべき状況にある。このような場合被告人としては、いつでも両ハンドルを把握できるような体勢をもつて進行しなければならない安全運転上の義務があつたのに、判示のような状態で原動機付自転車を運転したところに法70条の違反があつた。
遠軽簡裁 昭和40年11月27日
遠軽簡裁判決は、交差点に至るまでの過程には「人車の往来もさして頻繁でなかったから他人に危害を及ぼすおそれがあったとは言えない」として安全運転義務違反の成立を否定。
しかし交差点付近では、交通頻繁で人車との接触回避行動が求められる場面だとし、他人に危害を及ぼすおそれがあったと認定。
森簡裁判決が無罪になった理由も、具体的状況からみて他人に危害を及ぼすおそれがあったとは言えないことが理由。
安全運転義務違反は成立基準が実は厳しいので、安全運転義務違反にならなくても禁止にしたい行為を公安委員会遵守事項として制限していると考えられます。
しかし一般的レベルのサイクリストが、状況を確認した上で、サイクルボトルからドリンクを飲む行為が「安定を失うおそれがある方法」と言えるのかは疑問。
ベテランはOK、初心者はNGなんてアナウンスをしたら余計混乱するし、両者を分ける線引き議論になってメチャクチャになってしまう。
だから具体的状況や実際に安定性を失っているかなどから判断するしかないけど、アナウンスする上では分ける理由がない。
とはいえ、広島県警がこのようにアナウンスする理由や趣旨は理解できるので、結論としては「停止して飲むべき」であることには変わりないのですが。
公安委員会遵守事項がややこしいのは、全く同じ条文なのに都道府県により説明内容が変わる点。
まともなサイクリストは他人に危害を及ぼす危険性がある場面で走行中にドリンクを飲むなんてしないだろうし、事故の可能性がある場面でドリンクを飲む行為もしない。
ガタガタ道でドリンクを飲むアホもいないだろうし、見通しが悪い交差点の手前でドリンクを飲むアホもいないだろうけど、世の中には一定のアホがいるから規制するしかないわけよ。
違反が成立するかしないかはさておき、広島県警がそのようにアナウンスする以上は趣旨を尊重するほうがいいですが、たぶんサイクリストによって考え方は割れると思う。
上級者からすれば、安全確認した上でドリンクを飲む行為のどこに「安定を失うおそれがある方法」と言えるのかは疑問だろうし、実際のところドリンクを飲む行為で落車した人はたぶん少ない。
一方、そもそもロードバイクに慣れてない人からすれば走行中にドリンクを飲むなんて危ないと考えるかもしれない。
「安定を失うおそれがある方法」なのか?については、その人の能力次第でも変わるように思えるけど、わりと曖昧な規定なのよね。
自分なりの考え方を書いておきましたが、たぶん異論がある人もいるでしょう。
そこはそれぞれの意見を尊重しますが、個人的見解としては「県警がアナウンスする趣旨や理由は理解するが、違反の成立は別。とはいえ、趣旨は趣旨として理解すべき」でしょうか。
携帯電話にしても、運転中に手で保持し通話することは禁止ですがハンズフリー通話は禁止されていない。
しかし集中力を欠くという点では同じとも言えるし、ハンズフリー通話が禁止になってないから「ジャンジャンすべき」とも言えないわけで…
どこぞのアホが、走行中にドリンク飲みながら歩行者に衝突したりするから問題になるし、歩道通行しながらフラフラとコンビニコーヒーを飲む自転車とかみると大丈夫なのか心配になる。
まともなサイクリストが安全確認してドリンクを飲む行為まで規制したとは思わないけど、何をもってまともか非まともかを区別するのはムリだから、一律禁止アナウンスするしかないのよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
ポスター?によれば、物を持って片手運転になるのが禁止ということのようなので、ボトルを持ちつつハンドルを両手で持って飲めば…無理か。
コメントありがとうございます。
全く同じ規定がある他県では、ロードバイクの人が常識的範囲でドリンクを飲むことを禁止したものではないと言うんですよね。
同じ規定…
オートバイ、自動車で普通に走ってる時に飲み物飲む事は無いな
信号待ちでは飲むけど
コメントありがとうございます。
ロードバイクではわりと普通にみかけますが、それをするかしないかは人それぞれですから…
この写真で見ると、傘の固定器具(傘スタンド)で、両手で運転してても、「司会を妨げるおそれ」でアウトなんですね。合羽を着て、顔がずぶぬれになるよりは、視界は良いと思うのですが。
これを禁止するなら、子供2人乗せなども危険なので、禁止してほしいところです。
コメントありがとうございます。
要は違法と認定できるラインと、注意指導するラインに差が出るだけの話なので何も変わらない気がします。
別に罰則を強化すること自体は構わないのですが、
それについて、「改正」という言葉を使うのはやめましょう、と広島県警に言いたいです。
いくら警察相手だからといって、「俺の言っていることが正しいんだ!」と威張り散らすのは自分勝手極まりません。
そんなに正しいと威張り散らすなら、それが「正しい」論文とデータ持ってこい、と言いたいです。
そしてそのゴミ言葉である「改正」をそのまま使うのもどうかと思います。
コメントありがとうございます。
何か勘違いされているように思うのですが、条例なので改正したのは県議会のはずですよ。
情報ありがとうございます。
では、県議会にチクチク言ってきますね。
繰り返しますが、「改正」なんて言葉は悪の言葉なので、折角ブログに載せているのですから、検閲して言葉変えても良いのではないでしょうか?
コメントありがとうございます。
こちらの勘違いで、県議会の議決が必要な条例ではなく、県議会の議決が不要な規則になるようです。
それと「チクチクいう」という子供みたいな行動をする必要性がよくわかりませんね。
「改正」は「改正」ですから、検閲も何もないと思いますが、法解釈についてご意見があるならお伺いします。
それ以外の文句でしたら私に言われましても。
時と場合によっては危なくないみたいな書き方されていますが、片手では充分な制動がかけられないのですから、公道において走行中の水分補給は危険だと思いますよ。
コメントありがとうございます。
きちんと読んで意味を理解して頂きたいのですが…