頻繁に煽り運転の報道が出てくる日本。
これをみてあーだこーだというのは簡単な話だけど、そもそもの話。
妨害運転罪の創設って、要は煽り運転に対する罰則を強化して煽り運転を抑制したいわけですよね。
「これだけ重い罰則ですよ」と啓蒙することで、煽り運転を抑制することが本来の目的のはず。
本当に減っているのかについては、やや疑問が残ります。
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煽り運転は減ったのか?
一応、一つの指標になるのは「車間距離保持義務違反(前後の車間距離)」の検挙件数です。
車間距離保持義務違反も煽り運転の類型に含まれますが、煽り運転の代表格とも言える。
妨害運転罪の創設により車間距離保持義務違反の検挙件数が変わったのでしょうか?
検挙件数 | 備考 | |
2016年(平成28) | 6690 | |
2017年(平成29) | 6139 | |
2018年(平成30) | 11793 | |
2019年(平成31/令和元年) | 13787 | |
2020年(令和2) | 11523 | 妨害運転罪施行 |
2021年(令和3) | 7422 | |
2022年(令和4) | 5213 | |
2023年(令和5) | 5527 |
なお、車間距離違反のほとんどは高速道路や自動車専用道路。
2018年に一気に検挙数が増えたのは、車間距離保持義務違反の集中取締りの影響です。
横断歩行者妨害にしても集中取締りをしたから検挙数が増えたわけで、検挙されてなかった「潜在的違反者」がいただけでしょう。
数字を見ると妨害運転罪の創設は煽り運転を減らした可能性がありますが、どうも肌感覚として減ったようなイメージはない。
報道が大々的だからそう感じるのか?
ドラレコの普及によりバカが可視化されやすくなったのはわかるし、妨害運転罪の創設で罰則強化された分煽り運転が減る可能性は当然ある。
けど、煽り運転する人ってそもそも「逆上」「激オコ」「勝手な被害妄想」などが背景にあるように思えるので、まともな精神状態にない人に罰則強化は効果的なのかやや疑問に思ってまして。
なにせ、煽り運転をした人のうち56.5%が「煽り運転したことは後悔してない」と回答している。
この層に対し「罰則強化」が抑止力になっているのか疑問。
まあ、ゼロヒャク論(煽り運転がなくなる/存在する)ではなく、あくまでも減ったのかどうかが問題。
煽り運転をしたことを後悔している人もいるので、そういう人には罰則強化は効果的なのだろうか。
覚醒剤の所持や使用を死刑にしたとしても、所持や使用がなくなるわけではないから、一応は妨害運転罪の創設が多少なりとも効果ありとみなしていいのかな。
2つの妨害運転罪
妨害運転罪には2つの規定がある。
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者
イ 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為
ロ 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為
ハ 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為
ニ 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為
ホ 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為
ヘ 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為
ト 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為
チ 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
リ 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為
ヌ 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者
117条の2第1項4号は、117条の2の2第1項8号の結果加重とみることができますが、後者は「通行妨害目的」+「交通の危険を生じさせるおそれのある方法」。
前者は117条の2の2第1項8号に加えて「道路における著しい交通の危険を生じさせた者」。
117条の2の2第1項8号 | 117条の2第1項4号 | |
罰則 | 三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金 | 五年以下の懲役又は百万円以下の罰金 |
要件 | イ~ヌの違反が成立し、それが通行妨害目的で、交通の危険を生じさせるおそれがある方法 | イ~ヌの違反が成立し、通行妨害目的で、著しい交通の危険を生じさせた場合 |
ところでこれ。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者
いきなりですが、質問です。
この規定は「高速自動車国道等」でしか成立しないのでしょうか?
①「高速自動車国道等」でしか成立しない
②「高速自動車国道等」以外でも成立する
では答えを。
答えは②で「高速自動車国道等」以外でも成立する。
なんか「高速自動車国道等」でしか適用されないかのような解説をする人もいてびっくりしますが、
この条文の要件は、2つ。
②道路における著しい交通の危険を生じさせた
「道路における著しい交通の危険を生じさせた」の例示として、「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」と「その他」を挙げているので、「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」が要件ではないのよね。
○中島委員
まず、基本的なことをお尋ねいたしますが、本法案の罰則の対象、通行妨害目的で交通の危険のおそれのある方法により一定の違反、著しい交通の危険を生じさせた場合とされておりますが、適用は高速道路に限定されるのでしょうか、一般道路にも適用されるのか。端的に一言でいいです。○北村政府参考人 高速道路につきましては例示でございますので、高速道路に限定されるものではございません。
第201回国会 内閣委員会 第15号(令和2年5月29日(金曜日))
おそらく、東名事故の影響もあり「道路における著しい交通の危険を生じさせ」に該当する一例を挙げているのかと推測します。
罰則強化は犯罪抑止力に多少なりともなるので、高速自動車国道等のみでしか加重規定が適用されないかのような解説を広めたら社会的にはよろしくないのですが…
罰則強化は凄く効果的とは思ってないけど、一部の人の良心に響いたり、社会的な風潮として「ダメ絶対」みたいなムード作りにはなるのかな。
煽り運転は「嫌がらせされた」という勘違いから始まるとも言えますが、勘違いから始まる恋と勘違いから始まる煽り運転は危険なのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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