「弁護士に聞く、自転車のルールの素朴な疑問」という記事にて、幅寄せされて転落した場合の責任について解説してますが、これは一部の人が発狂しそうな悪寒がする。
そもそも、追越しをする車両は、追い越される車両をできる限り安全な速度と方法で追い越さなければなりません(道交法28条4項)。具体的には、前車の自転車との間に安全な間隔を空けたり、徐行したりする必要があります。他方で、追い越される車両は、速度を上げず、狭い場所の場合には左端に寄らなければなりません(道交法27条1項2項)。
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ところで自転車に進路避譲義務(27条)が適用されるかについてですが、一応はこう。
とは言え、この「聞いてきました」では他人が検証できない。
日弁連の赤い本(民事訴訟のバイブル)ではこのような見解を示している。
四輪車同士の事故においては、道交法27条1項違反が修正要素とされている。
この点、自転車には道交法22条1項の規定に基づく「最高速度」の定めはなく、同法の適用があるかについては疑問があるところであり、同様の修正要素を定めることは妥当ではないと考えた。※37
道交法27条2項は、車両は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路の右側端。以下この項において同じ。)との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては、第18条1項の規定にかかわらず、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならないとし、最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
この点、自転車には最高速度の法定はないこと、先行車が後続車を認識できるのは後続車が並走状態に入ってからであることが多いと考えられることからは、避譲措置をとらないことをもって先行車の過失ととらえ、過失を加重することは妥当ではない。
日弁連交通事故センター東京支部編、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部、令和5年、下巻p198
一方、大阪高裁昭和43年4月26日判決(業務上過失致死)では、自転車にも進路避譲義務がある前提で説示している。
ちなみに昭和39年改正以前は「明らかに」自転車も進路避譲義務の対象でしたが、大阪高裁昭和43年4月26日判決は判決文を見る限り改正法施行後なのかなと。
ただし確実にそうなのか?までは裏取りしてない。
けど、自転車が進路避譲義務の対象か否かについては、一部の人が過剰に発狂する。
日弁連の見解にしても、明言は避けつつも「先行車が後続車を認識できるのは後続車が並走状態に入ってからであることが多いと考えられる」として過失加重要素にしないとしてますが、この見解はわりと納得しやすい。
そもそも、なぜ昭和39年改正時に進路避譲義務の優劣を「政令最高速度」にしたか、なぜ昭和39年改正時に軽車両の並進禁止にしたかというと、道路交通取締法時代の解釈からも推測されるけど、昭和39年以前ってこう。
昭和39年改正以降は、軽車両の並進が禁止され(19条)、軽車両は左側端寄り通行義務があり(18条1項)、19条と18条1項で規制したなら進路避譲義務(27条)を加重する必要がないからなんだと読み取れる。
これは特定小型原付のルールをみても推測されることで、特定小型原付は並進禁止規定がないけど、進路避譲義務の対象。
一応ややこしいけど、特定小型原付の政令最高速度は30キロなのよね。
軽車両 | 特定小型原付 | |
並進禁止規定 | 19条 | なし |
進路避譲規定 | なし | 27条 |
昭和39年改正、特定小型原付のルール、道路交通取締法時代の解釈などを踏まえると並進禁止と進路避譲義務は択一的な存在なんだろうなと理解できますが、この関係性に気づくとなぜ昭和39年に軽車両が27条から除外されたかわかるかと。
しかし、一部の人が発狂しそうな悪寒。
大丈夫なのか心配になる。
進路避譲義務にしても、道路交通取締法から順を追って改正史を見ると、なかなか興味深いのよね。
昔は追い越しする後車がクラクションを鳴らすことは「義務」だったという黒歴史みたいなのに気づく。
しかもクラクション以外に「掛け声」も許されていた時代。
今の時代に謎の掛け声を発すると、不審者扱いされそう…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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