いきなりですがこちら。
左ウインカーが出ているバスの追い抜きは危険 pic.twitter.com/1as2uZshUn
— 動画紹介 (@douga1975) June 15, 2024
この状況で左側からすり抜けする人がいるんだ…という驚きしかない。
ところで、狭い部分をすり抜け中に先行車が動いた場合、接触するリスクがあるのは言うまでもありません。
民事判例をちょっと考えてみます。
Contents
すり抜け中に発進して接触
判例は大阪高裁 平成12年6月22日。
まずは事故の態様から。
赤信号で停止している青車両と縁石の間には85センチの隙間があり、原付(赤車両)が渋滞している隙間をぬって進行。
信号が青に変わり青車両が進行したところ、接触。
双方の車体はこう。
控訴人(青) | 被控訴人(赤) | |
種類 | 大型貨物 | 原付 |
車体長 | 12.0m | 1.67m |
車体幅 | 2.5m | 0.63m |
車高 | 3.77m | 1.15m |
たった85センチの隙間を63センチの原付がすり抜けるのはリスクと思うけど、冒頭のように現実に存在する。
さて、これをどうみるか?
右に認定の事実によれば、控訴人は加害車両を発進させるに当たり、その右側やや前方に被害車両があることに気がつかず、その動静を確認しなかったことにより本件事故を発生させたものであるから、前方左右の注視義務に違反した過失がある。控訴人は、発進時点において、前方を目視し、アンダミラーで加害車両フロント付近を確認したけれども被害車両を発見できなかったのであるから、被害車両は死角に入っていたと主張し、控訴人本人尋問の結果(原審)中にもこれに沿うかのような部分がある。しかし、右の供述部分は、前記3で認定したとおり、被害車両の停止位置が加害車両の運転席右横からやや前方付近であったこと及び甲第2号証中の死角検査見取図に照らしてにわかに採用できず、他に、被害車両が死角に入っていたことを認めるに足りる証拠はない。
他方、被控訴人は、被害車両を運転し、著しい渋滞状態にあった第二車線上の車両の右側を、車両と右側縁石との間をぬうようにして、先頭で信号待ちのため停止中の加害車両の運転席右横からやや前方付近に進出し、対面信号が青色に変わったのを見て被害車両を発進させようとしたか、あるいは発進させた瞬間、同時かあるいは若干早く停止状態からそのまま真っすぐ発進した加害車両と被害車両とが接触し、本件事故に遭ったものである。
ところで、原動機付自転車については、道路交通法上は、同法34条5項など特定の場合を除き、原動機付自転車であるが故に他の車両・自動車と異なる走行方法をとらなければならないとする具体的規制はないにしても、そもそも原動機付自転車を含む車両は、本件道路のような車両通行帯の設けられた道路においては、原則として、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならないものであるだけでなく(道路交通法20条1項参照)、原動機付自転車は、車両とはいっても二輪車であり、発進時には安定を失い易く、走行上の危険性の度合いにおいても、構造上・機能上、四輪車とは自ずと異なる面のある特性を帯びていることはいうまでもなく、国家公安委員会の告示である「交通の方法に関する教則」や、原動機付自転車の運転免許取得のための参考書などにおいても、それを当然の前提として各種の説明・指導がなされている(乙2ないし4)。例えば、右の「交通の方法に関する教則」では、原動機付自転車を含む二輪車の運転の方法に関し、「二輪車の運転者の心得」として、「自動二輪車や原動機付自転車は、体で安定を保ちながら走り、停止すれば安定を失うという構造上の特性を持っているため、四輪車とは違った運転技術を必要とします。また、二輪車の動きが四輪車からは見えないことがあるので、周りの交通の動きについて一層の注意が必要となります。手軽な乗り物であると気を許さないで、常に慎重に運転しましょう。」、「安全な運転の方法」として、「二輪車は機動性に富んでいますが、車の間を縫って走ったり、ジグザグ運転をしたりしてはいけません。そのような運転方法は極めて危険であるばかりでなく、周囲の運転者にも不安を与えます。交通渋滞のときなどには、前の車に乗っている人が急にドアを開けたり、歩行者が車の間から飛び出したりすることがあるので注意しましょう。」などとしている(乙4)。そして、原動機付自転車の運転者において、原動機付自転車の前記のような構造上・機能上の特性に十分な注意を払い、それを踏まえて安全な運転を行うべきことは、運転者自身の身を守るためであることはもとよりであるが、それに止まるものではなく、同時に、道路交通法70条所定の安全運転の義務として、他人に危害を及ぼさないためにも要請されているものと解するのが相当である。
右に述べたところを本件について見るに、事故直前の被害車両の走行形態・被控訴人の運転方法等は前記のとおりであって、被控訴人は、渋滞した車両の間をぬって、はるか見上げるような大型貨物自動車である加害車両が先頭で信号待ちをしており、その右側面と右側縁石との間には僅か約85センチメートルという隙間しかない所へ、車幅63センチメートルの被害車両を加害車両にほとんど触れんばかりにして進出させ、信号が青色に変わると同時に被害車両の発進を図ったものである。それは、自車の発進時にはそれ自体とかく安定を失うことがあり得るだけでなく、自車を右のような位置関係におくにおいては、大型貨物自動車発進時の風圧や威圧感・圧迫感による影響も当然に予見し得べき原動機付自転車の運転者としては、道路交通法70条の求める安全運転義務の趣旨に著しく悖る危険な走行方法・運転方法であったというべきである。
以上認定説示したところに加えて、控訴人には、前記認定の過失はあるにしても、控訴人は、要するに、先頭で信号待ちをして停止させていた加害車両を信号が青色信号に変わったのでそのまま真っすぐ発進させただけのことで、進路変更等のハンドル操作も全くうかがえないこと等の事情を総合勘案するならば、本件事故の発生については、控訴人・被控訴人、いずれも責められてしかるべきであり、その過失割合は、控訴人6割、被控訴人4割と認めるのが相当である。
なお、被控訴人は、本件事故は、実質的には、控訴人が加害車両右前角を被害車両左後部に追突させたものであると主張するが、前記3及び4で認定したように、被害車両の停止位置が加害車両運転席右横からやや前方付近であったことと、加害車両は、要するに、青色信号に従って真っすぐ発進したにすぎないことに照らすならば、右主張のように評するのは相当とはいえない。大阪高裁 平成12年6月22日
青車両の言い分としては、「確認したが死角だから見えなかった」。
しかし衝突部位と死角検査見取図から、死角で見えなかったとする控訴人の主張は認めず。
一方、すり抜けした原付については「道路交通法70条の求める安全運転義務の趣旨に著しく悖る危険な走行方法・運転方法」としています。
そりゃそうだとしか言いようがないですが。
過失割合の考え方
この事故は大型貨物車対原付なので強者対弱者の関係になりますが、よく巷でいう「どっちが悪いか?」という話と、過失割合は一致しません。
民事は「平等に過失相殺」ではなく「公平に過失相殺」なのでそこは仕方ない。

過失割合がどうのこうのよりも、事故の可能性が高まるプレイを控えるのは当たり前の話でしかなくて、85センチの隙間をすり抜けていいことなんてないのよね。
大型貨物車が発進する際に左右確認すべきなのは当然ですが、仮に死角だったと判断されたなら過失割合も変わる。
ちなみに冒頭の動画は、シンプルに信号無視ですね。
対面信号が赤なので、赤信号で停止線を越えて横断開始したのがおかしい。
わりと不思議なのは、事故る可能性が高度に予見可能なのになぜ前に行きたがるのか…
こういう事故にしても、それぞれやることをきちんとやるしかないのよね。
いくら注意していても防げない事故もあるけど。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
すり抜けるスペースがあれば前に出ますので、あまり人の事は言えない所はありますが、少なくとも左折車であれば、後ろについて先に行かせますね。偶に、左への寄せが足りない車が先に行かせようと譲ってはくれる事がありますが、それでも先に行かせますね(と同時に右から追い越す)。
コメントありがとうございます。
状況次第なので必ずしもダメとは言いませんが、状況判断つかない人には勧められません。
こんなに大きいバスを抜かすのだと、
抜かしている間に信号が変わったら、大惨事になりそう。
私は、バスの右側の状況を見て、右から抜かせるようなら、右から抜かします。
コメントありがとうございます。
右からだと割り込み違反になりうるのでして…
左折のウインカーを出してるバスの、右側通行でも割り込み違反になるのでしょうか。
バスの前に出た時点で、割り込み認定されてしまうのか。
コメントありがとうございます。
要は赤信号であり、必然的に前に出る際に先行車の前を横切るので…
返信ありがとうございます。
確かに、横切る形になりますね。
そうなんですよ。
だからなかなか難しい。