先日のこちらについて質問を頂いたのですが、
同一車両通行帯の中で追い越しすると違反なので、自転車専用通行帯内で自転車が自転車を追い越ししても違反が成立する。
同一通行帯内での追越しの可否については冒頭のあにすさんのツイートと全く同じ解釈/考えでいたので、結構衝撃を受けています。
「しなくていい」と言われたことをしたら怒られが発生した(「不必要」かと思ったら「禁止」の意味だった)ときと似た気分…
「よらないことができる」と「しなければならない」という文言の組合せは、
A「□□しなければならない。」
B「Aの規定にかかわらず、△△しなければならない。」
という書き方をする代わりに
A.1「□□しなければならない。」
A.2「Bの規定により△△するときは、前項によらないことができる。」
B「△△しなければならない。」
という書き方をしているだけで、両者の意味は同じということでしょうか?
すなわち、第20条第3項のうち追越しをするときの例外規定を抜き出すと、「前2項の規定にかかわらず、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。」という意味になるのでしょうか?
ちょっと整理しますね。
追い越しに関わるところのみを抜粋。
第二十条 車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。
2 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。
1項は第一通行帯の通行義務、2項は専用通行帯の通行義務。
そして3項。
要はこの人の解釈だと、「追い越しする際」には1項と2項の義務がある前提の下、義務に従うか従わないかは任意と解釈した。
「できる。この場合において」
の言い回しが多数あるのを見ていくに
「この場合」
が指すのは
「できる」故に「する」or「しない」が任意であるところの「する」場合だよね。— あにす / 100🚲🔋🛴⚡🛵 (@anis0755) November 16, 2024
けどさ、1項2項は「しなければならない」(Must)なんだから、マストなのに任意と解釈すると既に日本語として成り立ってないのよ。
義務だけどご自由にどうぞというなら、それは既に義務ではないでしょと…
なので3項にある「追越しをするときは、前二項の規定によらないことができる」というのは、追い越しする際には1項と2項の義務が「ない」(除外)という解釈になる。
そして「この場合において(1項と2項の義務がない前提において)」は「追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない」として新たに義務付けしているので、結局のところ追い越しする際には直近の右側の通行帯を通行「しなければならない」ことになり、同一通行帯内で追い越しすると3項に違反することになる。
このポストをした人は「1項2項の義務がある前提で従うか従わないか任意」と解釈しているけど、それが既に日本語として崩壊しているわけ。
「義務があるけど任意」というのは、義務がないんでしょと…
なので3項にある「追越しをするときは、前二項の規定によらないことができる」というのは、追い越しする際には1項と2項の義務がないと宣言する意味にしか取れないわけよ。
同じ条文から実例を。
「よらないことができるだからする、しないは任意」という前提で「前二項によらないことができるけどしない」という選択(つまり1項に従う)と仮定して以下を解釈してみましょう。
道路外に出るために右折する場合。
第二十条 車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。
第二十五条
2 車両(特定小型原動機付自転車等及びトロリーバスを除く。)は、道路外に出るため右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路の右側端)に寄り、かつ、徐行しなければならない。
「前二項によらないことができる」だからする・しないは任意と解釈し、「しない」ことを選択して1項に従うと仮定する。
そうすると1項は第一通行帯の通行義務なので、1項に従うことを選択した以上は第二通行帯を通行できる根拠がなく、その前提で「できる限り道路中央に寄る」とこうなってしまう。
第一通行帯の通行義務(1項)に縛られながら「できる限り道路中央に寄る」と、第一通行帯内で中央に寄ることと解釈することになってしまいますが、25条2項の目的からしてもおかしいよね。
正解はこう。
「よらないことができる」というのは、「しなければならない」という作為から除外するため。
18条1項は「ただし、…この限りでない」として除外を設けてますが、本来なら20条1項も2項も「ただし、…この限りでない」とすべきところ、1項と2項の除外規定が同一だから3項にまとめただけなのよ。
なので18条1項の「ただし、この限りではない」と同じ効果をもたらす目的で、かつ1項と2項の除外が同じだから別項に除外をまとめただけ。
そしてこれ。
例えばこれ。
「許可することができる。この場合において、警察官は、許可証を交付しなければならない。」
許可することができるけど許可してない場合に許可証を公布しなければならないなんて解釈は無理だよね。https://t.co/zUSIB1lahn— あにす / 100🚲🔋🛴⚡🛵 (@anis0755) November 16, 2024
挙げているのは63条のようですが、前項で「禁止」を規定したことに対し、その例外として「許可することができる」としている。
「しなければならない」→「よらないことができる」と、「禁止」→「許可することができる」はどちらも前項の除外を意味するわけ。
何の意味合いで63条を挙げているのかさっぱりわかりませんが(すみませんが支離滅裂過ぎて私には理解不能)、そもそもの話。
「同一通行帯内で追い越ししたら違反」は執務資料、注解道路交通法、法総研、東京地検交通部、警察庁など同じ見解でして、異論は見たことがない。
「通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない」とは
車両が本来通行しなければならないとされている車両通行帯の中で追い越した場合、その通行帯とその直近の右側の通行帯とにまたがって通行しながら追い越した場合、直近の右側の通行帯のさらに右側の通行帯で追い越した場合には、いずれも本項違反となる<同旨 法総研81ページ>
東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974
専門家の異論を見たことがなく、条文からも専門家の見解が妥当としか言いようがない気がしますが、「しなければならない」に対し「追い越し時はよらないことができる」なので、「するもしないも任意」じゃなくて義務から除外したことになる。
むしろそんなに難しく考える理由がよくわかりませんが、疑問があるときは複数の解説書を漁り調べたほうが早いような。
ただまあ、追い越しの定義は「追い付いた場合」なので追い付く前に進路を変えて側方通過するプレイは「追い越し風の追い抜き」でしかなく、自転車専用通行帯内で「追い越し風の追い抜き」をすることは違反にならないわけで…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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