先日取り上げたこちら。
読者様から質問を頂いたのですが、これ。
自転車が赤信号の場合の基本過失割合は自転車80%、クルマ20%です。
なお、児童修正(-10%)は児童が被害者の場合に適用するものなので、このケースでは自転車が加害者なので通常は適用しません。10歳が乗る自転車が赤信号無視し、過失割合は自転車が100%。なかなか興味深い記事が出ています。10歳児童が運転する自転車と乗用車の衝突事故で、過失割合は自転車が100%-。修理費用を巡る訴訟で、こんな判決が下された。幼児からお年寄りまで、幅広い年齢層に利用される自転車だが、道路交通法上はれっきとした...
これってそうなの?と質問を頂いたのですが、事案次第ですが、あまり知られていないのかも。
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児童が加害者の場合
実はこの解釈、私も数年前まで勘違いしてました。
この件のときに読者様が少額訴訟するために自力で調べてまして、
専門書をしっかり読んで勉強されたようでして気になって私も調べたのですが、児童高齢者修正として児童や高齢者に有利に修正するのは、児童高齢者が「被害者」の場合であって「加害者」の場合には適用しないのが通常。
読者様から頂いた資料がこちら。
(1)児童等・高齢者修正
過失相殺を考える上で、児童及び幼児(以下「児童等」という。)並びに高齢者に関しては、要保護者修正という観点、すなわち社会生活上、通常人よりも事故の安全を確保する能力が低い者については社会的にこれを保護すべきという観点から、これらの者の過失を減算する方向での修正がなされていることが多い。
自転車同士の事故においても、被害者(事故により損害を被った者)が児童等・高齢者の場合には、この修正を検討してもよいようにも思われる。
しかし、他方、児童等・高齢者が加害者側(損害賠償義務を負担すべき側)である場合には、要保護者修正という観点を考慮する必要はなく、修正の必要はない。日弁連交通事故センター東京支部編、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」下巻
要は児童高齢者修正の本質は、注意能力が劣る者を「要保護者」として、被害を受けた者に有利に修正するもの。
あくまでも被害を受けた人の損害回復のために考慮するもので、加害者の責任を減ずる要素じゃないのよね。
あくまで被害者の立場に適用する話で、児童高齢者が加害者の場合には適用する理由も必要もないんですね。
画期的判決なのか?
この事件、根本的な構造を見逃している人が多いけど、不法行為によりクルマを破壊した自転車側が加害者。
典型的事例とは逆なのよ。
通常、クルマと自転車が衝突したら自転車側がケガするけど、クルマが青信号にもかかわらず徐行していたことから、自転車側はケガに至らなかった。
根本的な対立構造を理解してないと意味不明になりますが、請求根拠が民法なので、自転車側が過失相殺や免責を主張するなら自転車側がクルマの過失や免責理由を立証するしかなく、青信号で徐行して注意していたクルマに過失を見いだすのは困難。
なので画期的判決というよりも、判決自体は妥当だけど「加害者と被害者が通常とは逆転しているから事例が少ないレアケース」なわけ。
そして上告審は「憲法解釈その他若干」しか上告理由が認められてないことや、上告審で原判決破棄になるのは0~2%程度しかないこと、そもそもの紛争金額からして上告提起費用との兼ね合いでわりに合わないことを考えると、上告は権利とはいえ誰か止めてあげれば良かったのに…と思うわけ。
日本の裁判は事実上二審制でしかないのよね。
私が裁判していたときも、行政側が最高裁に上告してきてびっくりしましたが、あの人たちが上告した理由は議会が「なぜ上告しなかった!」と発狂されたら面倒だからなんだろうなと。
やるだけやったけどダメでした、のほうがマシ。
被害者と加害者が逆転したレアケースなだけで、画期的判決とは思わないし、これだけ注意を払いケガさせなかったクルマのドライバーを誉めるべき事例と思いますが…
ちなみにこの件。
保険会社の主張は30:70だったそうですが、10:90で和解勧告があり10:90でフィニッシュ。
相手は子供ですが、子供が「加害者」の事例です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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