「ワープ左折」という言葉がありますが、ワープ左折って要は赤信号停止を避けて進むために「ワープ」すること。
青信号や信号がない交差点で「ワープ」する理由はどこにもないわけですが、ちょっとビックリしたことがありまして。
某所から発信されていた内容ですが、
「自転車のワープ左折は違反」というネット記事を引用しながら、
一方では「クルマの合法的ワープ左折なんて普通にあるだろ」と主張し、論調としては自転車の合法左折ワープも作るべきとしている。
ここまで支離滅裂な主張をできる人も凄いなと思うけど、後者についてはクルマのみならず自転車も左折可能なのであって、持論に繋げるためには謎の印象操作すら使うのか…と。
そもそも後者はワープ左折ですらないのですが。
ところで「ワープ左折」に潜むリスクとはなんなのでしょうか?
ワープ左折に潜むリスク
まず「ワープ左折」を定義しておきます。
わざわざ「ワープ」という言葉を使っているように、主に赤信号待ち停止を避けるために歩道や路外を使って信号規制をかいくぐること。
○歩道通行ワープ左折
○路外施設を使ったワープ左折
まず、歩道通行型のワープ左折。
これの場合、停止線を越えるので信号無視になる。
ではこれの具体的リスクは何なのでしょうか?
一般的に交差点付近では歩道の切り下げは横断歩道部分だけになりますが(必然的に切り下げ部分を使ってワープすることになる)、
青信号で横断歩道を渡ろうとする歩行者や自転車と干渉する事故リスクがあるので、信号によって規制している。
さらにいえば、歩道を使って「ワープ」し車道に合流する際に、どうせ車道の様子も確認せずノールック合流するのがオチなので(法25条の2第1項に抵触する)、車道を通行するクルマや自転車と干渉するリスクがある。
なお、クルマは歩道通過型ワープ左折をした場合、問答無用に通行区分違反になる。
一方、路外施設通過型のワープ左折の場合。
こちらについては停止線を越えてない以上「信号無視」には当たりませんが、ほとんどの場合17条2項の違反になる。
第十七条 車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
理屈の上では、停止線以前の切り下げから歩道に進入する前に一時停止し(17条2項)、路外施設を通過して歩道を横切る前に一時停止し(17条2項)、車道に合流する際は「正常な交通を妨害するおそれがあるときは合流禁止」(25条の2第1項)。
私有地を買い物目的でもないのに通過していいのか?という問題はありますが、歩道を横切る前に一時停止を求める理由は「歩道の安全確保」にある。
しかし「路外施設通過型ワープ左折」の場合、ワープして早く進行したいのだからこのような「ダブル一時停止義務」を履行する車両(自転車も含む)はまずいない。
むしろダブル一時停止義務(17条2項)と25条の2第1項をきちんと履行したならば、普通に信号待ちした方が早い可能性すらありますが、歩道通過型ワープ左折にしても路外施設通過型ワープ左折にしても、ほとんどの場合は違反になるかと。
歩道通行する歩行者や自転車との干渉リスクがあるので法が規制しているとも言えますが、ワープ左折に近い形で事故った実例は当然ある。

まあ、青信号で横断する自転車に過失をつける意味はわかりませんが、これはどちらかというと「ハズレの回」と捉えたほうがよい。
裁判官もアタリハズレはありますから…
これをワープ左折と捉えるセンスがわからない
冒頭の件に戻りますが
これを「ワープ左折」とみなすセンスがわからないし、ましてやいわゆる「ワープ左折」と比較するのは支離滅裂過ぎて笑えない。
これはクルマに限らず自転車も左折可能ですが、常時左折可の表示があるのは、要は横断歩行者との干渉リスクがなく、しかも道路構造的に交差道路を青信号で通行する車両と干渉しないから。
警察庁「交通規制基準」によると「左折可」についてはこうなっている。
対象道路
信号機により交通整理が行われている交差点で、原則として次のいずれにも該当する道路
1 左折開始場所(以下「流入部」という。)、左折終了場所(以下「流出部」という。)とも片側2車線以上ある道路
2 流出部が交通規制又は道路構造により、交差道路の直進車と交差しない道路
3 流入部に横断歩道が設置されていない道路
「常時左折可」は青信号と同じ意味になりますが、交差点入口に横断歩道があれば青信号で横断する歩行者や自転車と干渉するリスクがあり、
交差道路を青信号で通行する車両とも干渉するリスクがあるので、そのいずれの条件もクリアした場合のみ「常時左折可」を使ってもよいというのが警察庁の方針。
いわゆるワープ左折がダメな理由は常時左折可の設置基準そのまんまとも言えますが、どちらにせよワープ左折のリスクを理解せず、しかも「常時左折可」を「クルマのみの話」であるかのように誤認させて主張するのもどうかと思う。
わりと不思議なのは、なぜ法が規制しているのか?という理由を考えないまま謎主張を展開するバカが絶えないこと。
それこそ「常時左折可」の設置基準をみても、ワープ左折がダメな理由を考えるヒントになるわけですが、海外では常時左折可(右側通行なら常時右折可)に近いルールを持っている国もある。
それらの国のルールや実情と比較しないまま雑な主張を展開する人もいるけど、表面的にしか理解しないまま雑な主張を展開するのもどうなんですかね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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