この人が判例を語りだすと間違いが多いけど、
非常上告事件について、検察官と被告人が争ったような内容にして解説している。
これは完全な誤りで、そもそも非常上告とは何なのか?なのよ。
◯刑事訴訟法
一 原判決が法令に違反したときは、その違反した部分を破棄する。但し、原判決が被告人のため不利益であるときは、これを破棄して、被告事件について更に判決をする。
二 訴訟手続が法令に違反したときは、その違反した手続を破棄する。
非常上告というのは検事総長(検察)が「判決が間違っていたから破棄してくれ」とお願いする制度。
だから「判決が確定した後その事件の審判が法令に違反したことを発見したときは」としていて、主語が検事総長になっているように検察官の誤りにより確定した判決を破棄してくれというのが非常上告の趣旨。
なので非常上告できるのは検事総長のみになっていて、非常上告審においては被告人と検察官が争う構図にはなり得ないのね。
だって、検察官自体が「判決に法令違反があり誤りがあるから破棄してくれ」と申立するのが非常上告なのに、被告人と論争になる余地がない。
この人が解説しているのは非常上告ではなく再審の場合で、再審の場合には被告人と検察官が争う構図になることはありうる。
それこそ袴田さんの事件なんかは再審ですが、再審においても検察官は有罪の立証をし被告人は無罪の主張をして「対立」した。
非常上告は検察官が「判決が間違いだから破棄してくれ」とお願いする制度なので、検察官が非常上告審においても「原略式命令は正当だ!」なんて主張をするはずもない。
運転レベル向上委員会より引用
さて、この事件は過去にも取り上げてますが、事案の概要はこう。
・原付で普通自転車専用通行帯を通行した違反に対し、警察官は「通行帯違反(20条2項)」を適用しなければならないのに、「自転車道を通行したから通行区分違反(17条3項)」を適用し反則告知(青切符)。
↓
・「何らかの理由」により反則金の納付がなく、反則制度から刑事事件に移行
↓
・保土ヶ谷簡裁に略式起訴され、反則告知されていた「通行区分違反」として略式命令(罰金の有罪判決)
↓
・詳しい経緯は不明ながらも、警察又は検察が当該事案について「通行帯違反(20条3項)」を適用しなければならないのに「通行区分違反(17条3項)」を適用したミスを認識。
↓
・検事総長は「法令適用を誤って起訴し有罪判決が確定したから判決を破棄してくれ」として非常上告の申立をした。
↓
・最高裁は検察官の主張通り、法令適用を誤っていたことを認めて原命令を破棄し無罪に。
略式起訴は被告人が「略式起訴で構わない(争わない)」と意思表示しないとできないので、被告人が争っていたとは考えにくい。
どのような経緯で検察又は警察がミスに気づいたかは不明。
なおこの部分。
なお,所論は,本件公訴提起に先立ち被告人に対して行われた通告は,被告人が実際にした反則行為と種別を異にする反則行為についてなされたものであるから無効であって,本件公訴提起は,適法な通告に係る手続を経ないままなされたことになり,原略式命令の手続が法令に違反するとも主張している。
しかし,反則行為に係る刑事裁判手続では,起訴状に記載された訴因を基準として訴訟条件である通告が具備されていれば手続を適法に進められるところ,本件においては,起訴状に記載された訴因は自転車道通行という通行区分違反であったのであり,被告人に対しては通行区分違反に係る通告がなされていたのであるから,通行区分違反の訴因に対応する訴訟条件に欠けるところはなく,原略式命令の手続自体に法令違反はないというべきである。最高裁判所第二小法廷 平成27年4月20日
あくまで検事総長が「間違っていたから破棄してくれ」とお願いするのが非常上告。
ここでいう「所論」とは検察官の主張なのよ。
一 原判決が法令に違反したときは、その違反した部分を破棄する。但し、原判決が被告人のため不利益であるときは、これを破棄して、被告事件について更に判決をする。
二 訴訟手続が法令に違反したときは、その違反した手続を破棄する。
訴訟手続きに違法はなく、訴訟において法令適用を誤っていたことのみを認定。
要は検察官の主張として「法令適用の誤り」(刑訴法458条1号)だけでなく、「訴訟手続も違法」(刑訴法458条2号)と主張したのですが、最高裁は通行区分違反として反則告知したものを通行区分違反として略式起訴したことは訴訟手続きの違法ではないと判断。
なお刑訴法458条2号は「訴訟手続が法令に違反したときは、その違反した手続を破棄する」としていることに注意。
刑訴法458条2号に該当する場合、無罪の言い渡しではなく「公訴棄却」(裁判の打ち切り)になる。
彼が判例を語ると全く違う事案にすり替えられてしまいますが、彼の説明は再審の話。
非常上告という仕組みを理解して判決文を読めばこのような解説にはなり得ないけど、検察官自身が「判決に誤りがあるから破棄してくれ」とお願いする制度が非常上告なのに、なぜ非常上告審で検察官と被告人が争ったような解説をするのか意味がわからないのよね。
彼はわかってないことを想像で語るから間違えるわけで、何度も明らかな間違いを披露しながら訂正すらしないから厄介。
ちなみに非常上告はほとんどが道路交通法違反になってますが、様々な報道を見る限り、警察内部で誤りを発見→検察に相談→非常上告発動という流れが主流なのかと。
例えばこんなケース。
益田簡易裁判所は、令和5年6月9日、「被告人は、令和5年5月13日午前11時50分頃、島根県益田市内の道路において、指定最高速度(50㎞毎時)を34㎞毎時超える84㎞毎時の速度で普通乗用自動車(軽四)を運転して進行した。」旨の事実を認定した上、道路交通法22条1項、4条1項、118条1項1号、同法施行令1条の2、刑法18条、刑訴法348条を適用して、被告人を罰金6万円に処する旨の略式命令を発付し、同略式命令は、同年6月27日確定した。
しかしながら、一件記録によると、本件違反場所は、最高速度について何らの指定もされておらず、道路交通法22条1項、同法施行令11条に規定する法定最高速度(60㎞毎時)が適用される道路であったから、被告人の速度超過は正しくは24㎞毎時となり、同法125条1項により反則行為となると認められる。したがって、被告人に対しては、同法130条により、同法127条の通告をし、同法128条の納付期間が経過した後でなければ公訴を提起することができない。しかるに、益田区検察庁検察官事務取扱検察事務官が上記の反則行為に関する処理手続を経由しないまま公訴を提起したのであるから、益田簡易裁判所としては、刑訴法463条1項、338条4号により公訴棄却の判決をすべきであったにもかかわらず、公訴事実どおり前記事実につき有罪を認定して略式命令を発付したものであって、原略式命令は、法令に違反し、かつ、被告人のため不利益であることが明らかである。最高裁判所第一小法廷 令和6年3月7日
この事案は速度標識を設置して「50キロ」としたつもりが、公安委員会の意思決定漏れにより標識が無効になっていたのを看過したもの。
次。
小浜簡易裁判所は、同裁判所令和4年(い)第2032号道路交通法違反被告事件において、同年11月9日、被告人を罰金10万円に処する旨の略式命令を発付し、同命令は、同月26日に確定した。
しかしながら、一件記録によると、原略式命令は、同年10月31日付け起訴状による略式命令の請求に対して発付されたものであるところ、その請求に係る起訴を行った検察事務官は検察官事務取扱の職務命令の発令を受けていなかったことが認められ、公訴提起が権限のある者によって行われていなかったことが明らかである。したがって、本件略式命令の請求は、公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であり、同裁判所としては、刑訴法463条1項、338条4号により公訴棄却の判決をすべきであった。そうすると、同裁判所が原略式命令を発付したことは、同法454条の「事件の審判が法令に違反したこと」に当たると解するのが相当である。
よって、本件非常上告は理由があり、原略式命令は、法令に違反し、かつ、被告人のため不利益であるから、刑訴法458条1号により原略式命令を破棄し、同法338条4号により本件公訴を棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。最高裁判所第二小法廷 令和5年9月22日
権限がない人が起訴したからアウト。
要は非常上告というのは検察の自浄作用みたいな存在で、検察の誤りにより確定した判決を取消するもの。
罪にならないものを有罪のまま放置したら憲法違反だけど、検察官の一存で有罪判決を破棄できないから非常上告という制度を設けている。
再審ではないから検事総長にしか権限がないし、再審ではないからいきなり最高裁になるわけで(再審は一審からやり直し)、わからないことをわかったかのように解説すると事実無根な内容になるのよ。
想像と憶測により裁判内容が全然違う内容にすり替えられてますが、刑訴法を理解しないまま刑事判例を解説する人がいるのが今のYouTube。
マスコミの間違いを指摘するのが好きなようですが、自身の間違いを訂正しないのはなかなか不思議で、点数計算やら道路交通法解釈やら間違いが多いけど、こうならないようにと反面教師として捉えるしかないわな。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント