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なぜ「右折方法違反」は過失ではないと判断されたか?

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こちらについて質問を頂いたのですが、

なぜ判決内容を改竄するのだろうか。
この人が判例を扱うと、なぜか内容が改竄されてしまう問題がありますが、今度は最高裁が示した信頼の原則(最高裁判所第二小法廷  昭和42年10月13日)の解説をしている。被告人は交通法規に則り適切な右折方法を採ったのだと繰り返し解説してますが、...
読者様
読者様
原付が二段階右折しなかったことと注意義務は関係ないと最高裁が判断してますが、このくだりがよくわかりません。

要は相当因果関係の話なのかと。

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なぜ最高裁は「右折方法違反」は注意義務と関係ないとしたか?

事案の概要です。

原付が右折するときに、後続2輪車が対向車線にはみ出して無謀な追い越しをしてきた。
後続2輪車が死亡したことについて、原付運転者が業務上過失致死罪に問われたもの。

 

最高裁は信頼の原則を採用し無罪とした。

 被告人は、進路右側にある小路にはいるため、原判示のように、センターラインより若干左側を、右折の合図をしながら時速約20キロメートルで南進し、右折を始めたというのであるから、その後方にある車両は、被告人の自転車の進路を妨げてはならないのである(本件当時の道路交通法34条4項参照)。また、このような状態にある被告人の自転車を追越し、もしくは追抜こうとする車両は、被告人の自転車の速度および進路に応じて、できるだけ安全な速度と方法で進行しなければならない(同28条3項参照)のみらず、本件現場は、センターラインの左側の部分が約5メートルあるのであるから、センターラインの右側にはみ出して進行することは許されないわけである(同17条4項参照)。ところで、被害者Aは、被告人が右折を始めた当時、その十数メートル後方にいたのであるから、被告人の動向、ことに被告人が右折しようとしているものであることを十分認識しえたはずである。
したがつて、Aとしては、右法規に従い、速度をおとして被告人の自転車の右折を待つて進行する等、安全な速度と方法で進行しなければならなかつたものといわなければならない。しかも、右距離は、このような行動に出るために十分なものと認められる。しかるに、Aは、時速約60キロメートルないし70キロメートルの高速度で、右折しようとしている被告人の右側から、被告人の自転車を追越そうとして、すでにセンターラインを越えて約2メートルも斜め右に進行している被告人の自転車の右側に進出し、これと接触したというのであるから、Aの右追越し(原判決は、Aは、被告人を追抜こうとしたものであつて、追越しをしようとしたものではないとしているが、Aは、右のとおり、センターラインを越えた被告人の右側に進出し、その前方に出ようとしていたのであるから、むしろ追越しに当るものとみるのが相当である。)は、交通法規を無視した暴挙というほかはなく、これが本件衝突事故の主たる原因になつていることは、原判決も認めるところである。
ところで、車両の運転者は、互に他の運転者が交通法規に従つて適切な行動に出るであろうことを信頼して運転すべきものであり、そのような信頼がなければ、一時といえども安心して運転をすることはできないものである。そして、すべての運転者が、交通法規に従つて適切な行動に出るとともに、そのことを互に信頼し合つて運転することになれば、事故の発生が未然に防止され、車両等の高速度交通機関の効用が十分に発揮されるに至るものと考えられる。したがつて、車両の運転者の注意義務を考えるに当つては、この点を十分配慮しなければならないわけである。
このようにみてくると、本件被告人のように、センターラインの若干左側から、右折の合図をしながら、右折を始めようとする原動機付自転車の運転者としては、後方からくる他の車両の運転者が、交通法規を守り、速度をおとして自車の右折を待つて進行する等、安全な速度と方法で進行するであろうことを信頼して運転すれば足り、本件Aのように、あえて交通法規に違反して、高速度で、センターラインの右側にはみ出してまで自車を追越そうとする車両のありうることまでも予想して、右後方に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である

 

最高裁判所第二小法廷  昭和42年10月13日

しかし疑問なのは、当時のルールでは原付が右折する際は二段階右折。
つまり被告人は右折方法違反があったことになる。

最高裁は右折方法違反と注意義務違反(過失)は関係ないとした。

なお、本件当時の道路交通法34条3項によると、第一種原動機付自転車は、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左端に寄り、かつ、交差点の側端に沿つて徐行しなければならなかつたのにかかわらず、被告人は、第一種原動機付自転車を運転して、センターラインの若干左側からそのまま右折を始めたのであるから、これが同条項に違反し、同121条1項5号の罪を構成するものであることはいうまでもないが、このことは、右注意義務の存否とは関係のないことである。

最高裁判所第二小法廷  昭和42年10月13日

理屈の上では、被告人が二段階右折していれば「偶然」事故を回避できた可能性はある。

刑法上の過失というには、「そのプレイを怠らなければ確実に回避できた」という状態が必要ですが、被告人は後続2輪車の動静を知らなかったのだから、仮に二段階右折していれば回避できたとしても、それは偶然でしかない。
結局、確実に回避できたといえるには後続車の確認が必要になるわけで、その意味では右折方法違反と後続車の確認義務は別問題なんですね。

 

正規の右折方法をしても、確実に事故回避するには後続車を確認しないと回避できない。
その上で最高裁は対向車線にはみ出して無謀な追い越しをする車両を予見する注意義務はないとした。

 

違反と過失は別問題。

偶然の結果は問えない

「そのプレイをしていれば偶然回避できた」として罪に問うことが許されない事例としては、このようなものがある。

 

事故概要。

道路外のガソリンスタンドから進出する際に、歩道左側には高さ2.5mの壁があり左側が見えないにもかかわらず、徐行進行した。
そこに歩道通行する自転車(時速39.6キロ)が衝突した事故になります。
一審は歩道を横切る前に一時停止する注意義務を怠ったとして有罪にしましたが、広島高裁は破棄。

原判決は,その説示に照らし,本位的訴因の内容を⑴で当裁判所が理解したのと同様の趣旨で捉えた上でこれを是認し,そのとおりの犯罪事実を認定したものといえる。しかしながら,以下の理由からこの判断は是認することができない。

 

ア 被告人車両の進路に沿って本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出しようとする場合,左方の見通しが不良であったことは原判決も説示するところである。4のとおり,本件においては,高さ2.5mの壁が本件ガソリンスタンド敷地の西端に南北方向に設けられ,本件ガソリンスタンド敷地と本件歩道との境界線上まで及んでいるのみならず,その北端付近には看板等も設置されている。加えて,被告人車両においては,車両先端からルームミラーまでの距離が約120cm,同じく運転席の背もたれまでの距離がおおよそ160cmであるから,本件歩道手前の地点に被告人車両を停止させた状態では,運転者である被告人は,本件歩道と本件ガソリンスタンドの境界線から1m以上手前(南側)の地点にいることになる。記録によれば,同地点からは,上記壁等遮へい物の存在により,本件歩道上の左方の状況については,視認することが困難な状況にあったものと認められる。
そうすると,被告人が仮に本件歩道手前の地点で一時停止をしても,左方から来るA自転車について視認することは困難であるから,本件歩道手前の地点で一時停止をして左右等の安全確認を行ったとしても,左方から来るA自転車を発見,視認して衝突回避措置を執ることはできなかったことになる。
したがって,本位的訴因において本件過失の根拠となる注意義務として行うべきとされた本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認措置は,本件事故の回避を可能ならしめる有効な措置とはいえず,本位的訴因における上記注意義務及びその違反は,被告人に過失責任を問うことのできないものであったといわざるを得ない。
原判決は,このような過失責任を問うことのできない注意義務を設定した本位的訴因をそのまま是認した点において,その事実認定は,論理則,経験則等に違反した不合理なものといわざるを得ない。

イ また,原判決は,本位的訴因における過失行為と本件結果との因果関係を肯定し,本件結果を本位的訴因における注意義務違反,つまり,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認の各義務違反に帰責しているが,この判断についても是認することはできない。
すなわち,本件においては,上記のとおり,被告人には,本位的訴因に係る本件歩道手前の地点での一時停止義務及び安全確認義務を課すことはできず,本位的訴因における被告人の行為に,本件結果を帰責することは許されない。
また,仮に,被告人が,本位的訴因における本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認の各措置を執ったとしても,A自転車が左方から進行して来ることに気付くことができず,ひいては,本件結果を回避することができる有効な措置を執ることができなかったものと認められ,原判決は,当該各措置を履行したとしても,予見することも有効な回避措置を執ることもできないまま発生した結果を被告人に帰責するものであって是認することができない。
この点,原判決は,被告人が本件歩道手前の地点で一時停止をしていれば,被告人車両が本件衝突地点に到達する前にA自転車が同地点を通過し終えていることになるため,本件事故は発生しなかったことを指摘し,これを主たる根拠として,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認義務違反と本件結果との因果関係を肯定している
しかしながら,上記のような理屈によって,本件において,被告人が本件歩道手前の地点に到達した時点で一時停止をしていたら,その分だけ本件衝突地点への到達が遅れ,本件結果を回避することができたとはいえるとしても,それゆえに,被告人に対し,本件歩道手前の地点での一時停止義務を課し,同義務違反と本件結果との間の因果関係を肯定することは許されない。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

一時停止しても壁で確認できないのに、一審は「一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性」を指摘している。
これは過失の捉え方としてはダメなんですね。
だから広島高裁は「自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く」としている。

 

同じように最高裁判例にしても

二段階右折していれば偶然回避できた可能性から有罪にすることは許されない。
確実に回避するには後方確認が必要。

 

なお、広島高裁の事例については、一審判決を破棄した上で有罪。

 

そこで新たに認定された注意義務違反がこちら。

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

一時停止したあとに、「小刻みに停止・発進を繰り返すなどして」安全を確認して進行すべき義務を怠った過失として有罪です。

 

一審 二審
本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失 本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失

最高裁の事例は「対向車線にはみ出して無謀な追い越しをする車両を予見する注意義務はない」、広島高裁の事例は「一時停止した後に多段階停止しながら死角消除する注意義務」。
なお、広島高裁の事例については「一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして」なので、もし助手席に信頼できる成人がいたなら助手席の人が降りて誘導するでもかまわない。

 

最高裁の事例は右折方法違反があったとしても結局は後方確認しないと回避できないのだから、後方確認の内容として「対向車線にはみ出して無謀な追い越しをする車両を予見する注意義務はない」となりますが、違反と過失は別問題なんですね。
自転車に乗っていて後続車に追突されたときに、たまたま自転車にベルがついてなかったとしてもベルの有無は事故とは関係ないのだから過失とはならない。
もちろん道路交通法違反にはなりますが(一部の県を除く)、違反は違反として対処すれば足りるし、事故の過失は別問題なんですね。

 

分かりにくい判例ともいえますが、要はこの最高裁判例については「後方確認しないと回避できない」わけだから後方確認義務の範囲に制限をかけた。
右折方法違反とは直接的な因果関係がないからこうなる。
偶然回避できたとしても、それは本質的な安全とは関係ないのよね。

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