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歩行者はもう「注意している」んだと思いますよ…

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横断歩道を横断する歩行者が事故に遭ったときに、歩行者にも過失がつく場合があるという実例はいくつか紹介してますが、

信号がない横断歩道で歩行者に過失が付く。
ちょっと前になりますが、こちらの記事にコメントがありまして。歩行者に違反がないことと過失の有無は別問題ですし、疑うなら裁判所名や判決年月日を書いているのだからご自身で確認したらいかがでしょうか?状況高齢者等歩行者過失広島高裁S60.2.26...

ちょっと勘違いしているのかなと思うメールを頂きまして。
直前横断は確かに過失修正要素になってますが、直前横断と評価されるケースはさほど多くはない(はず)。

 

ちょっと考えて欲しいのですが、以前奈良県警が「横断歩道事故は右折時が多い」と指摘していた。

おそらく車両も歩行者も同一進行方向(下→上)の右折時が多いと思われますが、

歩行者が車両がいないことを確認して横断開始しても、よく見てない車両が突っ込んできたら歩行者の努力では回避不可能なのよ。
なぜなら歩行者の歩行速度は時速4キロ程度、車両の右折時は12~15キロくらいは出ているから3~4倍くらいの速さでしょ。
そして歩行者の幅なんて50~60センチなのに対し、クルマは1.5~1.8mと幅がある。

 

「細くて遅いもの」避けるのと、「太くて速いもの」を避けるのはどっちが簡単なんですか?という話でもある。
野球の距離(18m)で時速70キロの野球ボールを避けるのはそんなに難しくないけど、同じ距離で時速200キロのサッカーボールが飛んできたら難しくね?

歩行者がクルマがいないことを確認して横断開始しても、車両がちゃんと見てなくて突っ込んできたら歩行者の努力では回避不可能なわけで、民事修正要素の「直前横断」とは歩行者が容易に回避できる場合しか適用されないと思いますよ。

 

直前横断修正を適用した判例をみるとわかるんだけど、「横断開始して2、3歩」で「クルマの側面に衝突」みたいな事案が多い。
つまり歩行者が横断開始する直前では、クルマは至近距離に迫っていたわけ。

 

◯広島高裁 昭和60年2月26日

本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かばんを持つて(または抱えて)歩行し、信号機の設置されていない本件事故のあつた横断歩道の手前で、横断のため左右を見たところ、南方から被控訴人車が北進しているのに気づいたが、かなりの距離があつたので歩道(一段高い)端附近に横断歩道に向つて立ち止まり、右のように右手に傘を持ち左手にかばんをかかえながらライターを取り出して煙草に火をつけた後、左右の交通の安全を確認しなくても安全に横断できるものと考えその確認をしないまま、横断歩道上を横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触し、本件事故を起した。

以上のとおり認められる。もつとも、乙第12号証(控訴人の供述調書)には、横断前に一度左右を見たことについて述べていないが、原審控訴人本人尋問の結果では事故のシヨツクで思い出せなかつたと述べており、これと対比すると右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右する証拠がない。

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。右事実によると、控訴人は一旦横断歩道の手前で左右を見て被控訴人車がやや離れた南方から北進中であり直ちに横断すれば安全に横断できた状態であり、その時点では控訴人は右注意義務を果したといえないわけではない。しかし、控訴人はその直後に歩道端に横断歩道に向つて立ち止まり、右手に傘を持ち、左手でかばんをかかえながらライターを取り出して、煙草に火をつけたというのであるから、通常の場合よりも若干手間取つたことが考えられ、その時間的経過により、被控訴人車がさらに近づきもはや安全には横断できない状態になつていたことが十分に予測できたものといえるから、控訴人が横断し始めるときには、すでに、歩道に立ち止まる以前にした左右の交通の安全の確認では不十分で、さらにもう一度左右の交通の安全を確認した後に横断を始めるべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、控訴人は歩道に立ち止まる前にした左右の交通の安全の確認だけで安全に横断できるものと軽信し、あらためて左右の交通の安全を確認しないまま横断し始めた過失があり、それが本件事故の一因となつているものといわざるをえない。本件事故についての控訴人、被控訴人双方の過失の態様、程度を比較し検討すると、控訴人の過失割合は10%とみるのが相当で、これを損害額算定につき考慮すべきものである。

広島高裁 昭和60年2月26日

横断開始して1.3mで左フェンダー(側面)に衝突なので、歩行者が横断開始するときには既に車両は直前に迫っていた状態。

◯大阪地裁 令和2年9月25日

本件の証拠上,被告車両の速度や原告の歩行速度は明らかではないが,上記のとおり,原告が横断開始から約1.6m地点で被告車両に衝突していることからすると,原告の横断開始時点において,被告車両は横断歩道に相当に接近していたことが明らかであり,原告が左右の安全確認をしていれば,本件事故を回避できたということができる。横断歩道を横断する歩行者は車両との関係で優先するとはいえ(道路交通法38条1項),安全確認を行わず,被告車両の直前で横断を開始した点において,原告にも過失があるといわざるを得ず,10%の過失相殺を行うのが相当である。

大阪地裁 令和2年9月25日

横断開始して1.6mで衝突したことから、横断開始時点では既に車両は直前に迫っていた。
つまり歩行者のわずかな注意で衝突を回避できた事案なのであって、そのレベルのことはほとんどの歩行者は既に注意してるのよね。

 

現に民事修正要素「直前横断」を適用した判例がどんだけあるんだ?という話でもある。
直前にクルマが迫っているのにあえて横断する歩行者がどんだけいるのよ…歩行者が自制したから「横断歩行者妨害違反検挙数」より「横断歩行者事故件数」が少ないという見方もできますが、ほとんどの歩行者は最低限の注意は既にしている上に、それ以上に注意したところで歩行者の努力では回避不可能なケースは多いんじゃないかな。

 

ちょっと気になっているのですが、こういう判例の具体的中身を検討することなく、「過失が認められたかどうか?」という結果論のみ語る人がわりといる。
その考え方は事故防止には何の役にも立たないと思う。

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