どこかの人が「行政処分は第一当事者のみ」みたいな解説を繰り返しているので書いておこうと思うのですが、
「基本的には関係がない」
道路交通法施行令を読んでも「第一当事者に加点する」という決まりもないし、そのような慣習もない。
第一当事者、第二当事者
交通事故の統計データを見ると、第一当事者、第二当事者という分類があります。
警察庁のホームページによると、このようになってます。
「第1当事者」とは、最初に交通事故に関与した車両等(列車を含む。)の運転者又は歩行者のうち、当該交通事故における過失が重い者をいい、また過失が同程度の場合には人身損傷程度が軽い者をいう。
さて実務上、第一当事者、第二当事者をどのように決めるかですが、以前いくつかの警察本部に聞いたところ
「第一当事者、第二当事者を決める基準はない」
これは質問した都道府県全てに共通する話。
その上で某県警本部がなかなか興味深い話をしてまして。
ケガしたほうが第二当事者。
そもそも第一当事者、第二当事者というのは「お前」「あいつ」みたいに言うわけにもいかないから便宜的に甲乙に分けているだけで、区別したことにより民事の過失割合が変わるわけでもないし、行政処分や刑事処分の有無とも関係がない。
つまり第一当事者、第二当事者と分類することで何ら法的な効果を生まないのだから、警察的には単なる呼び名程度にしか捉えていない。
だいぶぶっちゃけていただいてビックリしたのですが、確かに第一当事者と認定されたことで何ら法的な効果を生まないのだから、関係ないんですね。
つまり第一当事者だから行政処分という説は既に否定される。
次に行政処分の仕組みを考えましょう。
メインとなるのは付加点数
交通事故を起こしたときに点数が高い特定違反行為を除けば、点数の大半を占めるのは付加点数になる。
付加点数を考えましょう。
付加点数のうち、左欄が「専ら運転者の不注意」、右欄は「それ以外」。
専ら運転者の不注意の解釈はこれ。
「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」の解釈
施行令別表第2の3の表における「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」とは,当該違反行為をした者の不注意以外に交通事故の原因となるべき事由がないとき,又は他に交通事故の原因となるべき事由がある場合において,その原因が当該交通事故の未然防止及び被害の拡大に影響を与える程度のものでないときをいうものと解するのが相当である。
東京地裁 平成27年9月29日
さて、こういう事故を考えてみましょう。
優先道路通行車と非優先道路通行車が衝突し、非優先道路通行車側がケガをしたとする。
この場合、非優先道路通行車は36条2項の違反行為に当たりますが、付加点数はこのように規定されている。
人の傷害に係る交通事故(他人を傷つけたものに限る。以下この表において「傷害事故」という。)のうち
非優先道路通行車(青車)の運転者のみがケガをしたなら、青車の運転者は「自爆」したけど他人をケガさせていないことになるのだから、付加点数の対象にはならない。
なので36条2項違反の加点のみですよね。
ところが優先道路通行車(赤車)は青車の運転者、つまり他人をケガさせている。
じゃあ赤車の運転者に付加点数がつくのか?になりますが、制限速度を遵守していても回避できないタイミングで青車が飛び出してきたなら、交差点安全進行義務違反も成立しない。
付加点数はあくまでもベースとなる違反に「付加」するのだから、結局赤車には加点されない。
警察庁はこのように解説している。
予見可能性も回避可能性もないものは点数登録の除外としている。
これは当たり前ですよね。
ところが、
優先道路通行車が余裕で衝突を回避できたにもかかわらず前方不注視で衝突し青車の運転者を負傷させたなら、交差点安全進行義務違反(2点)と「専ら以外」の付加点数がつく。
これは行政訴訟での加点状況からも明らかですよね。

もしも両者が負傷したなら、非優先道路通行車にも付加点数の対象になりますが、
結局のところ、第一当事者だから行政処分、第二当事者だから行政処分なしみたいな規定もないし、第一当事者、第二当事者という分類自体がかなりルーズ。
だからそもそも関係がないんですね。
違反行為が認められ、他人(同乗者も含む)を死傷させたなら付加点数もつきますが、「第一当事者だから」「第二当事者だから」という概念で動いていない。
そして行政処分は公安委員会の裁量なので、猶予もある。
処分猶予にする事例がどれくらいあるかは知りませんが、行政訴訟の中身をみると、事故が軽微すぎて付加点数の加点を見送っている事例もある。
時速5キロで追突したようですが…
なぜ、おかしな解説ばかり繰り返すのか?
そもそもこの人、以前は「被害者が処罰を求めないとすれば加点されない」みたいな解説をしてましたが、行政処分は処罰ではない。
道路上の危険性を排除するために免許をコントロールするのだから、処罰感情とは関係ないんですね。
で、なぜこの人がおかしな解説ばかり繰り返すのか考えると、過去に解説してきた誤りと整合性が取れなくなるために誤りに誤りを重ねるしかないんだと思う。
安全運転義務、交差点安全進行義務に基づく「民事過失」がつくことと、安全運転義務違反や交差点安全進行義務違反が成立することは別問題ですが、誤った解釈を披露してきたことから、「行政処分は第一当事者」という誤りを重ねないと現実世界との整合性が取れなくなる。
しかしその誤りを重ねた結果、双方ともに行政処分になるようなケースは説明がつかなくなる。
結局、間違いに間違いを重ねても何のメリットもないのよね。
例えば回避可能性がないのに行政処分が下りるとしたら
優先道路通行車は徐行するしかない。
しかし優先道路通行車が徐行した場合、非優先道路通行車は「さっさといってしまえ」になるわけで、何のメリットもない。
それは旧37条2項を削除した際にも指摘されている。

そして回避可能性がないのに行政処分が下りるとしたら、世間的には「世の中理不尽ですね」としかならないのであって、安全に寄与するわけでもないのよね。
当たり前ですが、回避可能な事故なら優先側も回避義務があります。
しかし回避可能性がなければ法は不可能や理不尽を強いるわけでもない。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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