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思っている以上に民事は複雑。

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以前取り上げた福井地裁判決について、やっぱりわからないというメールが来たのですが、

 

正直なところ、この判例は難しいです。
たぶんなんだけど、「過失を取られた」みたいな発想を捨て去ることから始めたほうがいい。

 

ではあらためて。

この事故は赤車両の運転者が居眠り運転したことでセンターラインをはみ出し、青車両と衝突したもの。
赤車両の同乗者が死亡したことについて、赤車両の同乗者が青車両の所有者に損害賠償請求した事件です。

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なぜ青車両の所有者に損害賠償請求するか?

たぶん最初につまづくポイントは、「なぜ青車両の所有者に損害賠償請求したか?」。

居眠り運転した赤車両の運転者に損害賠償請求するのはわかるけど、青車両は左側通行していただけなんだしおかしくね?となりそうなんですが(ちなみに赤車両の運転者にも損害賠償請求はしています)、

 

亡くなった同乗者は、赤車両の所有者なんですね。
所有者なので赤車両の自賠責保険による補償対象にならない。

 

じゃあ青車両の所有者に損害賠償請求したとしても、左側通行していただけなんだし過失が認められないんじゃね?となりそうですが、ここからが法律の話になる。

無過失を主張するなら無過失を証明してね!

たぶん一般的な発想だと「過失があるから過失を取られた」になるのだろうけど、法律上は違います。

 

ケガや死亡など人身損害に関する部分は自賠法3条により、「無過失を証明しない限り賠償責任がある」としている。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない

つまり青車両側は「過失がないことの証明」をしない限り賠償しなければならない。

 

一方、物損部分は民法709、715条の規定により「過失があるなら賠償しろ」となっているので、赤車両の「車両損害等(物損)」を青車両に請求するなら、赤車両側が青車両の過失を証明する必要がある。

人身損害 物損
根拠 自賠法3条 民法709、715条
立証責任 青車両が自らの「無過失の証明」をしない限り、賠償しなければならない 赤車両側が青車両の過失を証明すれば賠償責任が認められる

これが前提。

福井地裁判決の要点

これを踏まえて、青車両は「無過失」だと主張しているのだから、賠償責任から逃れるためには「無過失の証明」をしなければならない。

 

この事故ですが、青車両の先行車2台は赤車両との衝突を避けたことから、青車両にも回避する余地があったのではないか?と疑義が生じる。
そして話がややこしいことに、警察が作成した実況見分調書の内容が不正確だと認定された。

 

その結果、青車両が赤車両のはみ出しをどの時点で把握出来たか?が全くわからないことになってしまい、「無過失の証明」が不可能に陥ったんですね。
自賠法によると「賠償責任から逃れたいなら自らの無過失を証明してくれ」としているのだから、わからないものは証明不可能だし、この時点で自賠法による賠償責任が確定する。

 

一方、どの時点で赤車両のはみ出しを把握出来たか?がわからない以上、過失があったことの証明も出来ない。
なので民法上の賠償責任は否定される。
その結果、こういう判断になる。

以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であったと認めることはできない一方原告Fに過失があったとも認められない。したがって,被告Eは,原告Bらに対し,自賠法3条に基づき,本件事故により亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害の限度でこれを賠償する義務を負う一方,民法715条に基づく損害賠償義務を負わない。

福井地裁 平成27年4月13日

中央線を越えて対向車線に進行した車両甲が対向車線を走行してきた車両乙と正面衝突し,車両甲の同乗者が死亡した事故について,同乗者の遺族が,車両乙の運行供用者であり,当該車両の運転者の使用者でもある会社に対し,自動車損害賠償保障法3条及び民法715条に基づき損害賠償を求めた事案において,車両乙の運転者は,より早い段階で車両甲を発見し,急制動の措置を講じることによって衝突を回避すること等ができた可能性が否定できず,前方不注視の過失がなかったとはいえないが,他方で,どの時点で車両甲を発見できたかを証拠上認定することができない以上,上記過失があったと認めることもできないから,会社は,自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償義務を負うが,民法715条に基づく損害賠償義務は負わないとした事例

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

判決文をみると「青車両に過失がなかったと言えるか?」と「青車両に過失があるか?」を分けて検討してますが、法律概念では両者は別。
「過失がなかったとは言えない」と「過失があった」は別の概念だから分けて検討しているけど、一般人の感覚だと「過失がなかったとは言えない=過失があった」ですよね。
法律上は別だから分かりにくいのでして。

分かりにくいので

要は「過失があったのか、なかったのかわからないなら、人身損害部分の賠償責任から逃れることは出来ない」という法律。
これは被害者保護のためにこういうルールにしているのですが、一般人が思い浮かべる民事って「過失があるから過失を取られた」ですよね。

 

その発想が法律とは違うのでして、「自らの無過失を証明できなければ、過失があったかはさておき賠償しろ」ということになっているのよね。

 

警察の実況見分調書の信用性が否定された時点で無過失の証明は困難になり、ドラレコもなければ無過失を証明することはできない。
ドラレコって悪い奴を晒す道具みたいに勘違いしている人もいるけど、本質的には事故態様を明確にして正確な損害賠償に繋げるものだと思うのよね。
もし青車両にドラレコがあったなら、無過失を証明できたかもしれないし、逆に過失が証明されたかもしれない。

 

けどこの事故ってマスコミがおかしなところをクローズアップするから真意が伝わらないし、どこぞのYouTuberも全く違う内容にすり替えて解説するから本来の意味が理解されなくなる。

 

「無過失を証明出来なければ、少なくとも人身損害部分は払え」という法律なんだと理解する必要があるわけよ。

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