夜間に、赤点滅信号(一時停止)と黄色点滅信号(注意進行)の車両が交差点で衝突する事故が起きたのですが、運転レベル向上委員会は「黄色点滅側に徐行義務はない」としている。
これは誤りです。
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黄色点滅信号と徐行義務の関係

黄色点滅信号は「注意進行」(施行令2条)と規定されてますが、一方で当該交差点が「左右の見通しがきかない」なら徐行義務(42条1号)が別に課される。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
注意点が3つ。

一点目として、徐行義務は「交通整理がある交差点」では除外されてますが、点滅信号は交通整理ではないとしている。
なお、道路交通法三六条二項、三項にいう「交通整理の行なわれていない交差点」とは、信号機の表示する信号または警察官の手信号等により、「進め」「注意」「止まれ」等の表示による交通規制の行なわれていない交差点をいい、本件交差点のように、一方の道路からの入口に黄色の燈火による点滅信号が作動しており、他方の道路からの入口に赤色の燈火による点滅信号が作動している交差点も、これにあたるものと解するのが相当である。
最高裁判所第一小法廷 昭和44年5月22日
二点目。
「左右の見通しがきかない交差点」とは、「左右ともに見通しがきかない交差点」ではなく、「左右いずれかの見通しがきかない交差点」で足りる。
この見とおしは、もとより左右いずれか一方がきかないもので足りる。
名古屋高裁 昭和44年2月6日
三点目。
徐行義務は「交差点に入ろうとするとき」に課してますが、クルマは急に止まれないし急に徐行になれないのだから、徐行体制に入るために必要な距離を置いた交差点より手前での左右の見通しを意味する。
急ブレーキを踏むことなく徐行体制に入るには、交差点の40mくらい前には判断しないとムリですよね。
これを踏まえて。
さて、黄色点滅信号側からみた当該交差点の様子。
徐行体制に入るために必要な距離を考えて、交差点より手前での風景です。
左側にはビニールハウスや壁があるので、左側の見通しがきかないのは明らかでして、右側は木があり見通しがきかない。
なのでこの場合は黄色点滅信号であっても徐行義務が課されてます。
この事故は双方ともにケガしてますが、全治1ヶ月を越えるなら双方ともに過失運転致傷罪で起訴される可能性がある(ただし略式起訴の罰金刑でしょうけど)。
行政処分も双方ともに課されると考えられますが(行政処分は第一当事者のみというのはデマです)、ちょっとその前に。
最高裁判例を読み間違えている
運転レベル向上委員会は2つの最高裁判例を持ち出してますが、どちらも読み間違えていると言わざるを得ない。
運転レベル向上委員会から引用
まず最高裁判所第二小法廷 平成15年1月24日ですが、この判例は破棄差戻しではなく破棄自判(そもそも差戻しの意味を取り違えてません?)。
それはおいといて、この判例の概要です。

赤車両は指定最高速度が30キロの道路において、赤点滅(一時停止)を無視し、時速70キロで交差点に進入。
なお赤車両は酒気帯び運転&足元に落とした携帯電話を拾うために前方をみないまま進入。
青車両は「左右の見通しがきかない交差点」なので徐行義務(42条1号)があるところ、徐行せずに時速30キロで交差点に進入。
青車両の同乗者が死亡、負傷した事件です。
一時不停止で著しい高速度で進入した赤車両の過失は明らかですが、この判例は青車両に業務上過失致死傷罪(現在の過失運転致死傷罪)が成立するかが争点になっている。
過失運転致死傷罪は「予見可能」で「回避可能」な場合に成立しますが、最高裁は以下の理由から破棄無罪にしている。
また,1,2審判決の認定によれば,次の事情が認められる。すなわち,本件事故現場は,被告人運転の車両(以下「被告人車」という。)が進行する幅員約8.7メートルの車道とA運転の車両(以下「A車」という。)が進行する幅員約7.3メートルの車道が交差する交差点であり,各進路には,それぞれ対面信号機が設置されているものの,本件事故当時は,被告人車の対面信号機は,他の交通に注意して進行することができることを意味する黄色灯火の点滅を表示し,A車の対面信号機は,一時停止しなければならないことを意味する赤色灯火の点滅を表示していた。そして,いずれの道路にも,道路標識等による優先道路の指定はなく,それぞれの道路の指定最高速度は時速30キロメートルであり,被告人車の進行方向から見て,左右の交差道路の見通しは困難であった。
このような状況の下で,左右の見通しが利かない交差点に進入するに当たり,何ら徐行することなく,時速約30ないし40キロメートルの速度で進行を続けた被告人の行為は,道路交通法42条1号所定の徐行義務を怠ったものといわざるを得ず,また,業務上過失致死傷罪の観点からも危険な走行であったとみられるのであって,取り分けタクシーの運転手として乗客の安全を確保すべき立場にある被告人が,上記のような態様で走行した点は,それ自体,非難に値するといわなければならない。
しかしながら,他方,本件は,被告人車の左後側部にA車の前部が突っ込む形で衝突した事故であり,本件事故の発生については,A車の特異な走行状況に留意する必要がある。すなわち,1,2審判決の認定及び記録によると,Aは,酒気を帯び,指定最高速度である時速30キロメートルを大幅に超える時速約70キロメートルで,足元に落とした携帯電話を拾うため前方を注視せずに走行し,対面信号機が赤色灯火の点滅を表示しているにもかかわらず,そのまま交差点に進入してきたことが認められるのである。このようなA車の走行状況にかんがみると,被告人において,本件事故を回避することが可能であったか否かについては,慎重な検討が必要である。
この点につき,1,2審判決は,仮に被告人車が本件交差点手前で時速10ないし15キロメートルに減速徐行して交差道路の安全を確認していれば,A車を直接確認することができ,制動の措置を講じてA車との衝突を回避することが可能であったと認定している。上記認定は,司法警察員作成の実況見分調書(第1審検第24号証)に依拠したものである。同実況見分調書は,被告人におけるA車の認識可能性及び事故回避可能性を明らかにするため本件事故現場で実施された実験結果を記録したものであるが,これによれば,①被告人車が時速20キロメートルで走行していた場合については,衝突地点から被告人車が停止するのに必要な距離に相当する6.42メートル手前の地点においては,衝突地点から28.50メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することはできなかったこと,②被告人車が時速10キロメートルで走行していた場合については,同じく2.65メートル手前の地点において,衝突地点から22.30メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であったこと,③被告人車が時速15キロメートルで走行していた場合については,同じく4.40メートル手前の地点において,衝突地点から26.24メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であったこと等が示されている。しかし,対面信号機が黄色灯火の点滅を表示している際,交差道路から,一時停止も徐行もせず,時速約70キロメートルという高速で進入してくる車両があり得るとは,通常想定し難いものというべきである。しかも,当時は夜間であったから,たとえ相手方車両を視認したとしても,その速度を一瞬のうちに把握するのは困難であったと考えられる。こうした諸点にかんがみると,被告人車がA車を視認可能な地点に達したとしても,被告人において,現実にA車の存在を確認した上,衝突の危険を察知するまでには,若干の時間を要すると考えられるのであって,急制動の措置を講ずるのが遅れる可能性があることは,否定し難い。
そうすると,上記②あるいは③の場合のように,被告人が時速10ないし15キロメートルに減速して交差点内に進入していたとしても,上記の急制動の措置を講ずるまでの時間を考えると,被告人車が衝突地点の手前で停止することができ,衝突を回避することができたものと断定することは,困難であるといわざるを得ない。
そして,他に特段の証拠がない本件においては,被告人車が本件交差点手前で時速10ないし15キロメートルに減速して交差道路の安全を確認していれば,A車との衝突を回避することが可能であったという事実については,合理的な疑いを容れる余地があるというべきである。
以上のとおり,本件においては,公訴事実の証明が十分でないといわざるを得ず,業務上過失致死傷罪の成立を認めて被告人を罰金40万円に処した第1審判決及びこれを維持した原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものとして,いずれも破棄を免れない。
最高裁判所第二小法廷 平成15年1月24日
最高裁は青車両について、徐行義務違反(道路交通法42条1号)があることを認め非難に値するとしている。
しかしこの事件は業務上過失致死傷罪の成否を争うもので、道路交通法違反の成否を争うものではない。
そのため、この判例でも時速15キロで検討されている点に注意。
業務上過失致死傷罪は「予見可能」で「回避可能」じゃないと成立しないのだから、このケースにおいて青車両が徐行義務を果たしていたなら回避可能だったか?が問題になる。
最高裁はこの事故について、「徐行していたとしても衝突を回避することができたものと断定することは困難」、つまり回避可能性に疑問が残るとし無罪(疑わしきは被告人の利益に)。
黄色点滅信号であっても左右の見通しがきかない交差点であれば、徐行義務があることは最高裁が認めていることなのよね。
次に最高裁判所第三小法廷 昭和48年5月22日。
上の最高裁判例と似ている。
| 被告人 | 相手方 | |
| 信号 | 黄点滅 | 赤点滅(一時停止) |
| 道路交通法の義務 | 左右の見通しが悪いから徐行 | 一時停止 |
| 速度 | 50キロ | 60キロ |
最高裁平成15年判決と違うのは、相手方車両が右→左という点と、速度。
さてこの判例も業務上過失致死傷で道路交通法違反事件ではない。
最高裁は信頼の原則から予見可能性を否定し無罪にしている。
前記のとおり、Aの対面する信号機は、赤色の燈火の点滅を表示していたというのであるが、この信号は、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの。以下同じ。)二条一項が定めるとおり、車両等につき、「交差点の直前において(中略)一時停止しなければならないこと」を意味するものであり、また道路交通法四条二項により車両等が信号機の表示する信号に従うべきこともちろんであるから、右交差道路から本件交差点に入ろうとする車両の運転者は、すべてその直前において一時停止しなければならなかつたのである。また、この場合、再度発進して交差点に入るにあたつて国道上の交通の安全を確認し、接近してくる車両があるときには衝突の危険を回避するため所要の措置をとるべきことも当然の事理である。
しかるに、被告人の対面する信号機は、黄色の燈火の点滅を表示していたというのであつて、前記施行令二条一項によれば、その意味は、「他の交通に注意して進行することができること」というにとどまり、なんら特殊な運転方法ないし注意義務を課するものではない。そして、被告人が本件交差点に差しかかつた際に、交差道路からすでに交差点に入つた車両や交差点の直前で一時停止し、発進して交差点に入ろうとしている車両があるような場合には、そのまま進行すれば衝突する危険があるから、被告人においてもその動静に注意しつつ、減速徐行あるいは一時停止等、臨機の措置に出て、もつて危険を回避すべき義務があるけれども、そうでなければ、右のとおり交差道路上の車両はすべて信号に従い一時停止およびこれに伴なう措置をとることとなつているのであるから、被告人の車両がそのまま進行しても、交差道路上を接近して来た車両が、被告人の車両に先んじて、もしくはこれと同時に交差点に入るというようなことは考えられず、したがつて衝突の発生する危険もないはずであり、特段の事情の認められない本件において、被告人が、交差道路を進行してくる現認できない車両は当然交差点直前で一時停止するから衝突の危険はないものとして、徐行することなく交差点に進入したとしても、これをもつて不注意であるということはできないのである。
もつとも、本件交差点の前示状況に照らし、被告人がその直前で徐行しなかつたことは道路交通法四二条に違反している疑いがないではなく、かつ、被告人がこの徐行をしていれば本件衝突は起らなかつたかも知れないと考える余地があつて、この意味で、右徐行懈怠と本件の結果発生との間には条件的な因果関係があるといえなくはないけれども、交通法規違反のあることがただちに、刑法上、個別的な業務上の過失があることを意味しないことは多言を要しないのみならず、もしも、道路交通法上、被告人が徐行をしておれば交差道路上の車両は一時停止義務を解除されるようなことになつていたのであれば、被告人は、Aが被告人において徐行するものと考えて一時停止をしないことをも予想すべきであり、徐行することのないまま交差点に進入したことはこの点に思いをいたさなかつたものとして過失の責を問われてもやむをえないであろうけれども、すでに述べたとおり、本件交差点では、Aは、国道上の交通状況如何にかかわらず、必ず一時停止のうえ安全を確認すべく、本件のように、時速約六〇キロメートルという速度のまま、交差点に突入することが道路交通法上許容されることはありえなかつたのであり、かつ、Aにおいてこのように適法な運転をしていさえすれば、被告人の徐行の有無に関係なく、本件衝突の発生するおそれはまつたくなかつたのであるから、被告人の徐行しなかつたことは、本件の具体的状況のもとでは、なんら事故に直結したものといえず、これをもつて不注意ということもできない。
原判示のような注意を被告人においてしなければならないとすれば、一時停止などを定めた道路交通法の趣旨は没却されることになるといわなければならない。
このようにみてくると、本件被告人のように、自車と対面する信号機が黄色の燈火の点滅を表示しており、交差道路上の交通に対面する信号機が赤色の燈火の点滅を表示している交差点に進入しようとする自動車運転者としては、特段の事情がない本件では、交差道路から交差点に接近してくる車両があつても、その運転者において右信号に従い一時停止およびこれに伴なう事故回避のための適切な行動をするものとして信頼して運転すれば足り、それ以上に、本件Aのように、あえて法規に違反して一時停止をすることなく高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまで予想した周到な安全確認をすべき業務上の注意義務を負うものでなく、当時被告人が道路交通法四二条所定の徐行義務を懈怠していたとしても、それはこのことに影響を及ぼさないと解するのが相当である。最高裁判所第三小法廷 昭和48年5月22日
黄色点滅信号の被告人車が徐行義務を負っていたことを認めながらも、道路交通法違反と業務上過失致死傷罪の注意義務違反は別個の問題(交通法規違反のあることがただちに、刑法上、個別的な業務上の過失があることを意味しないことは多言を要しない)とし、この事故のように一時不停止のまま高速度で進入する車両があることを予見する注意義務はないとする。
その結論は被告人が徐行義務を怠っていても影響しないとして業務上過失致死傷罪を無罪としている。
この2つの判例は結局のところ、「黄色点滅信号であっても左右の見通しがきかないなら徐行義務(42条1号)がある」ことを認めつつ、「一時不停止&著しい高速度で進入する車両を予見する注意義務はない」(昭和48年判決、信頼の原則から予見可能性を否定)、「徐行していたとしても回避できたか疑問」(平成15年判決、回避可能性を否定)としている。
以前この2つの判例は何回か取り上げたけど、

昭和の時代は信頼の原則から直ちに予見可能性を否定する傾向があった。
しかし平成15年判決では「時速70キロで一時不停止のまま進入する車両を予見する注意義務はない」とはしておらず、「徐行義務をしていたとしても回避可能だったか疑問」として無罪にしている。
無罪という結果は同じですが、理論構成は全く違う。
最高裁は回避可能性に重きを置く考えにシフトした、みたいな解説をする論文もみたことがありますが、そもそも冒頭の事故って、赤点滅側が「著しい高速度で進入」なんですかね?
事案が違う判例にみえますが…
なお以前紹介したこちらに、「徐行していなかったことを過失とした判例」と「徐行していたとしても回避できなかった判例」が紹介されている。

運転レベル向上委員会の人が判例を読み間違える原因は、この人は「道路交通法違反=過失」という法律ガン無視の独自論が頭にあり、「徐行義務違反があったけど無罪」という概念を理解できないのでしょう。
最高裁昭和48年判決にもあるように、交通法規違反と過失運転致死傷罪の注意義務は別問題なのでして、理屈の上では「徐行していたとしても回避できなかったなら無罪」になる。
しかし、左側は透け気味の壁とは言えビニールハウスがあり、右側は木があるのだから、黄色点滅信号でも「左右の見通しがきかない交差点」に該当するのは明らかとしか言いようがないのに、
徐行義務がない、と語る人がいるのはなかなか驚く。
ちなみに冒頭の事故について双方ともに「加療30日~3ヶ月」と仮定した場合、点数はこうなる。
| 赤点滅側 | 黄色点滅側 | |
| 信号無視(点数) | 2 | |
| 徐行違反(42条) | 2 | |
| 付加点数(専ら以外) | 6 | 6 |
| 計 | 8 | 8 |
実は同点なのよね。
ちなみに運転レベル向上委員会がよく語る「行政処分は第一当事者のみ」については、警察に聞くと「何の関係もないしそんな規定もない」と言われる。
黄色点滅信号自体は「注意進行」ですが、その交差点の左右の見通しが悪ければ徐行義務がある。
これを知らないと普通に有罪になるんだけど、
上の最高裁判例って、結果論なのよ。
左右の見通しがきかない交差点だったのだから、著しい高速度で進入する車両がいるか、単なる一時不停止で10キロくらいで進入する車両がいるか、横断歩行者がいるかは「徐行してなかった被告人」からすると単なる結果論。
単なる一時不停止で10キロくらいで進入する車両や横断歩行者と衝突した場合なら「徐行していたら回避できた」として有罪だし、たまたま相手が著しい高速度だったから無罪。
相手方の挙動次第で自分の徐行義務の有無が変わるわけがないのよね。
しかし、最高裁判例の趣旨が全然違う内容になって紹介されていくのは理解しがたい。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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