ではこちらの件。


この交差点でガードマン風の人が交差道路の通行を止め、「行け」と合図していたとする。

一時停止標識に従わず一時停止しなかった場合に、43条前段の違反になるのでしょうか?
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
関東管区警察学校教官室 編、「実務に直結した新交通違反措置要領」にはこのように書いてある。
交差道路入口で、私人の手旗による交通規制が行われている交差点に進入する場合に、手旗による交通規制が信号機による場合と同様の交通秩序の保障機能を有する点に着目して信頼の原則が肯定され、徐行義務が免除されるとしている(最高裁昭48.3.3)。
このようなことから、取締上の妥当性の問題を考慮すべきである。関東管区警察学校教官室 編、「実務に直結した新交通違反措置要領」、立花書房、1987年9月
最高裁判例の概要はこう。
しかしながら、右Bによる交通規制が、道路交通法42条にいう交通整理にあたらないことは、原判決の判示するとおりであるが、右Bが北方から本件交差点に進入する車輛に対し赤旗により停止の合図をしていたものである以上、東方から同交差点に進入する車輛の運転者としては、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図に従うことを信頼してよいのであつて、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図を無視し同交差点に進入してくることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。
本件記録によると、被告人は本件事故当日大型貨物自動車を運転してたびたび東西道路を往復し、本件交差点の西北角で右Bらが北方から同交差点に進入してくる車輛に対し赤旗と白旗で交通規制をしているのを知つていたものであるが、本件事故の際、被告人は東西道路の東方から前記自動車を運転して時速約50キロメートルで進行し、同交差点の約15m手前の地点(南方道路の入口を規準とする。Cの進行してきた北方道路の入口からは20m以上手前であると認められる。)において、同交差点の西北角でBが赤旗を上げ北方からの車輛を停止させようとしているのを認め、北方からの車輛は右Bの停止の合図に従つて同交差点の手前で停止するものと考え、アクセルペダルから足を離しただけでそのまま進行したところ、同交差点の手前約4.7mの地点において、北方道路からCの運転する大型貨物自動車が、右Bの停止の合図を無視し時速約25キロメートルで同交差点に進入してくるのを約19.3mの距離に発見し、急停車の措置をとるとともにハンドルを左に切つたが間に合わず、同車の前部に自車の右前部を衝突させたものであることが認められる。
そうすると、被告人が、北方から進行してくる車輛の運転者が右Bの停止の合図に従い本件交差点の手前で停止するであろうと信頼したことは相当であつて、同交差点で徐行しなかつたことを被告人の過失とすることはできないものというべきである。
最高裁判所第一小法廷 昭和48年3月22日
業務上過失致傷の判例ですが、左右の見通しがきかない交差点にもかかわらず、私人が交通誘導していたから徐行せずに進入し、事故を起こしたもの。
交差道路通行車両は私人の誘導に従うはずであり、そのように信頼して徐行しなかったことは過失ではないとする。
そして大阪高裁は最高裁判例をさらに進化させている。
私人による交通規制が行われている場合に、自動車運転者が右規制に従つていさえすれば必ず過失が否定されるということにならないのは当然である。しかし、私人による交通規制であつても、これを信頼して進行したため過失が否定される場合があることは、最高裁判所の判例(昭和48年3月22日第一小法廷判決・刑集27巻2号240頁)も認めるところであつて、結局、当該私人による交通規制の趣旨・目的、同人に課せられた任務・役割、同人が現実に行つていた規制の方法及びこれを前提とした当該場所における現実の交通状況等にかんがみ、これが自動車運転者にとつて信頼に値するものであると認められるときは、右規制に従つて進行する自動車運転者にとつて、本来同人に課せられている注意義務が軽減又は免除されることがあると解すべき
大阪高裁 昭和62年5月1日
私人による交通規制であれば必ず信頼できるというわけではなく、具体的な状況次第で考える問題です。
これらからすると、私人が交通誘導していたときにその私人の信用性や交通の状況次第になるとしか言えませんが、
徐行していたなら、一時不停止だからといって取締することには妥当性がないですかね。
なお、「交通整理」とは信号機(2条1項14号)か警察官による手信号(6条1項)しか認められてないため、私人の誘導を「交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近」とは解釈できませんが、要は私人の誘導を交通整理同等にみれる場合もあるということです。
ただし一時停止したほうが無難なことは言うまでもない。
ちなみにこれ。
第四十三条 車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
なぜ「第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか」としているかというと、36条2項では「優先道路/広路車の進行妨害禁止」としているので、一時停止した交差道路が優先道路だった場合、36条2項が適用されるのか、43条後段が適用されるのかわからなくなる。
「第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか」とすることで36条2項の場合には43条後段の適用がないことを明らかにしているわけで、一時不停止&優先道路の進行妨害をした場合には43条前段と36条2項の違反が成立することになる。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント