こちらについてご意見を頂いたのですが、

なければ運転レベル向上委員会が間違っているとは言えないと思う。
要はこの記事、行政処分の点数計算が間違っていることを指摘してまして、本来なら以下3つの合計になる。
② ①に対する付加点数
③ 救護義務違反の点数
ところが運転レベル向上委員会は、救護義務違反に付加点数を加算すると間違った計算をしているわけで。
付加点数の計算

付加点数の計算については施行令に書いてある。
一 違反行為に付する点数は、次に定めるところによる。
1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする。
2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。
(イ) 1による点数に、三の表の区分に応じ同表の中欄又は下欄に掲げる点数を加えた点数とする。ただし、当該交通事故が建造物以外の物の損壊のみに係るものであるときは、1による点数とする。
・「一の表」→一般違反行為
・「二の表」→特定違反行為
・「三の表」→付加点数
「当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)」には「三の表」にある付加点数を加えるとしてますが、
救護義務違反は「事故を起こした後」の話ですよね。
以下は日本語として成り立ってないのよ。
横断歩道において歩行者をはねた場合、「横断歩行者妨害(38条1項)によって事故を起こした」になる。
事故が起きたから救護義務が発生するのであって、事故が起きなければ救護義務が発生するわけもない。
なので「救護義務違反によって交通事故を起こした」なんて日本語は成り立つ余地がない。
酒気帯び運転に「よって」死亡事故を起こしてさらに逃走したなら、以下3つの合計になる。
① 酒気帯び運転
② 酒気帯び運転によって起こされた死亡事故の付加点数
③ 救護義務違反
現に警察本部の解説はそうなってましてね。
5.救護義務違反(いわゆる「ひき逃げ」)に対し、行政処分の基礎点数として35点を付し、救護義務違反のみでも欠格期間が3年となる。
なお、救護義務違反に先行する交通事故に係る違反行為の点数については、累積する。例えば、酒酔い運転をしていた運転者が不注意により死亡事故を起こし、かつ、救護義務違反をした場合には、55点+35点=90点となり、10年の欠格期間が指定される。 運転免許証の欠格期間
事例
酒酔い運転により横断歩道を横断中の歩行者をはねて死亡させ、ひき逃げをしたとき。酒酔い運転35点+死亡事故(本人の一方的不注意による場合)20点+ひき逃げ35点=90点
運転免許の点数制度/長野県警察
| 項目 | 点数 | 備考 |
| 横断歩行者妨害(38条1項) | 2 | 酒酔い運転は同時に二以上の種別の違反行為に当たるときに該当 |
| 酒酔い運転 | 35 | 横断歩行者妨害は同時に二以上の種別の違反行為に当たるときに該当 |
| 付加点数(専ら) | 20 | |
| 救護義務違反 | 35 | |
| 計 | 90 |
事故を起こした原因となる違反行為は酒気帯び運転と横断歩行者妨害ですが、酒気帯び運転と横断歩行者妨害は施行令でいう「同時違反」なので点数が高い酒気帯び運転が加点される。
さらに酒気帯び運転「によって」死亡事故を起こした以上、付加点数がつく。
そして事故後に逃走したなら救護義務違反が加点されますが、酒気帯び運転と救護義務違反は「同時違反」には当たらないため別に加算する。
では判例とのことなので判例を。
事案の概要。
ア 原告は,第1事故当時,本件車両を運転し,春日通りを池袋方面から茗荷谷駅方面に向かって進行し,その後方を相手方車両が進行していたところ,(住所省略)で進行方向の道路左側に駐車車両があったため,相手方車両が通り抜けるスペースがなくなり,本件車両と相手方車両が接触しそうになった。Aは,原告から幅寄せされたと感じ,原告の顔を見ようとして本件車両を左側方から追い抜いた。その後,原告は,前方の信号が赤色であったため,相手方車両の右後方を減速しながら進んでいたが,相手方車両が停止した際,ブレーキが間に合わず,本件車両の前方左側バンパー部分が相手方車両の右後方のマフラー部分に接触した(第1事故)。
イ 原告が道路脇に停止した相手方車両の後方に本件車両を停止させると,Aが本件車両の運転席側に駆け寄り,何か言いながら運転席側のドアミラーをたたき,運転席側のドアガラスを何度か強くたたいた。その際,ドアミラーはボンネット側に傾き,その鏡の部分が外れ,鏡がワイヤーでつるされた状態となった。
ウ 原告は,本件車両のエンジンをかけて一旦後退させた後,前進させてその場から逃げ出し,Aは原告を追跡した。
(3) 本件交通事故の状況等
ア 原告は,路地裏に入ったり,転回したりを繰り返しながら逃走したが,Aは本件車両の追跡を続けた。そして,原告は,本件道路の第1車線を進行して本件交差点に差し掛かり,左折を開始して本件車両の方向を左に向けたが,前方に停止中の左折車両があったため,同車両の右側方から追い越して左折しようと,ハンドルを右に切って,本件車両の方向を変換して進行した。イ Aは,本件車両の前に左折中の車両があったことから本件車両は左折できないと考え,本件車両を停止させようとして本件車両を第2車線側から追い抜き,その進路上に相手方車両を停止させた。原告は,急ブレーキをかけたが間に合わず,本件交差点の第1車線上の地点において,5~10㎞毎時の速度で,Aがまたがっていた相手方車両の左側面に本件車両の前部を衝突させた(本件交通事故)。衝突の衝撃により,相手方車両は倒れたが,Aは,体が左に揺れたものの転倒することはなかった。
ウ Aは,本件交通事故後,すぐに本件車両の方に走り寄っていった。原告は,本件車両を右後方に後退させた際,Aが本件車両の運転席に向かってくるのが見えたため,それから本件車両を前進させて,現場から離れた。
エ 本件交通事故により,相手方車両の左後部に擦過痕が生じ,本件車両の前部に擦過痕が生じた。Aは,救急車で病院に運ばれた。
これについて公安委員会が行った行政処分は、以下。
| 内容 | 点数 |
| 安全運転義務違反(法70条) | 2点 |
| 付加点数(専ら運転者の不注意で15日未満のもの) | 2点 |
| 救護義務違反(法72条) | 35点 |
| 計 | 39点 |
この処分の取消を求めて提訴してますが、被害者が襲ってきた以上「救護の放棄」とみなし救護義務違反が成立しないとする。

その上で原処分のうち、安全運転義務違反の加点と付加点数については適法とし、原処分(39点)から救護義務違反(35点)を差し引いた4点が適法な処分だとする。
なお,本件交通事故の発生につき,前記事実関係によれば,原告は,本件交差点において左折進行を開始した際,前方の車両の右側方を通過しようとしてハンドルを右に切って方向変換をしたことが認められるから,右後方から進行してくる車両に対し,十分に注意を払う必要があったというべきであり,それにもかかわらず,右前方ないし右後方に対する安全確認が不十分なまま,漫然とハンドルを右に切って本件車両を進行させた原告の行為は,法70条所定の安全運転義務に違反したものであったといわざるを得ず,また,Aが本件車両を停止させようとして相手方車両を本件車両の進行方向に停止させた行為が本件交通事故の発生に影響していることは否定できないにせよ,原告において上記安全確認を行っていれば,少なくとも相手方車両の存在を確認することができ,本件交通事故を回避できたというべきであって,原告の安全運転義務違反と本件交通事故との間には,相当因果関係が認められるというべきである。
しかしながら,原告の当該安全運転義務違反行為に付する点数は,基礎点数2点に,傷害事故のうち治療期間が「15日未満であるもの」で,「交通事故が専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合」以外の場合における付加点数2点を加えた合計4点であるところ(道路交通法施行令別表第2の1,3),原告には前歴がなく,当該安全運転義務違反行為に係る累積点数も4点であること(甲1。本件処分に係る累積点数とされる39点から救護義務違反行為に付する点数35点(同令別表第2の2)を除くと4点となる。)から,当該安全運転義務違反を理由として法103条1項5号,同令38条5項1号イ,別表第3の1の規定に基づき運転免許の取消処分をすることは許されない。東京地裁 平成31年2月20日
救護義務違反が成立しないとしても、下記はそのまま維持される。
①事故に関する違反行為(安全運転義務違反)
②安全運転義務違反に係る付加点数
処分取消訴訟なので、公安委員会の点数計算が違法ならそこも裁判所が指摘することになりますが、施行令をみてもこの計算方法はなんら問題ないわけでして。
ただし
行政処分は公安委員会の裁量行為だから、この処分はMAXの計算方法。
裁量で事故に対する違反行為と付加点数の加点を見送ることもあり得る。
なお上の判例については、東京都公安委員会が納得せず控訴したものの控訴棄却、最高裁に上告受理申立までしてますが不受理で確定してます。
被害者が襲ってきた場合の救護義務違反の成否という珍しい事案です。
原告が運転する自動車と相手方の車両が接触した第1事故後,相手方から執拗に追跡されて本件事故が発生したという状況下において,第1事故の際の相手方の暴行,相手方の執拗な追跡,本件交通事故後の相手方の行動等によれば,相手方は,本件交通事故による負傷にもかかわらず,原告による救護を望むどころか,かえって本件車両又はその運転者である原告に危害を加えようとしていたことが見て取れ,このような場合には,軽傷の被害者が医師の診療を拒絶した等の場合に準じて,原告の救護の措置義務は解除されるに至ったと解するのが相当であり,原告が本件交通事故現場を立ち去った行為は,負傷者救護の措置義務違反を構成しないなどとして,救護義務違反を理由とする免許取消処分の取消請求を認容した事例
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
この判例が意味をなすとしたら、執拗な煽り運転を受けた末に事故を起こされた場合。
理屈の上では煽り運転の加害者が負傷した可能性があれば、煽り運転の被害者にも救護義務が生じる。
しかし執拗な煽り運転をしてきた加害者の救護に向かうことは、普通の感覚だと恐怖ですよね。
そのような場合にクルマから降りて救護に向かうこと自体にリスクがありますが、車内から110番通報して指示を仰ぐのがいいかと。
話を戻しますが、救護義務違反に付加点数は加算できないのは明らかでして、「事故の原因になった違反行為」に付加点数を加算することになる。
判例とのことなので裁判の前提になった行政処分の一例を紹介しておきます。
理屈の上では事故を起こしたとしても「違反行為」が成立しないことはあって、予見可能性も回避可能性もないなら違反行為+付加点数の加算はない。
交通事故に関する登録除外理由
1 交通事故が不可抗力によって起きたものである場合(当該交通事故の際の具体的事情から判断して、結果予見及び結果回避の可能性がなく、事故防止の期待可能性がない場合をいう。)
2 違反行為をした者の不注意の程度が極めて軽微であり、かつ、当該交通事故の際の具体的事情において、その者に結果予見及び結果回避を期待することが困難であったと認められる場合(違反行為をし、よって交通事故を起こしたと認められる場合であっても、当該違反行為をした者がその結果を予見することが困難であったと認められる場合であって、かつ、当該違反行為をした者に対し、危険に際しての結果回避行為に出ること、又はその行為に出たとしても結果回避を期待することは困難であったことが認められる場合をいう。)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20181030_062.pdf
しかしこの場合においても救護義務違反があれば35点は加算される。
なので「事故の原因は専ら被害者だけど、救護義務違反は別」、「第二当事者のほうが点数が高くなる」こともあります。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。






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