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自転車が至近距離で追い抜きされた!さて、問題点は何なのか?

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こちらの件。

これ、現行法規では道路交通法違反として検挙することは困難です。

 

まず、大型車が自転車の側方を通過したのは「追い越し」ではなく「追い抜き」です。
なぜなら追い越しの定義は「追い付いてから」進路を変えることだとしているため、追い付いたかどうかもわからないものを追い越しとは認定できない。
そして仮に追い越しだとしても、二重追い越し禁止規定には抵触しない。

 

この規定はクルマを追い越し中の車両をさらに追い越しするなというもの。

(追越しを禁止する場合)
第二十九条 後車は、前車が他の自動車又はトロリーバスを追い越そうとしているときは、追越しを始めてはならない。

で。
こういう危険が多発しているから18条3項を新設したのよね。

第十八条
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない

路側帯を通行する自転車であっても18条3項の適用があり、安全側方間隔が保てない場合は安全な速度で追い抜きしろとする。
これの解釈はこちら。

第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日

○塩村あやか君 ありがとうございます。
ということは、やっぱりその自転車を運転する側がしっかりといろいろな方向に注意をしておかなくてはいけないという形で、運転する人がちゃんと、自分は大丈夫なのかというのはやっぱりちゃんと自問自答しながら自転車に乗っていかなきゃいけないなというふうに思いました。ありがとうございます。
十八条、先ほど酒井先生の方からも質問あったと思うんですけれども、自動車などの車両は、特定小型原動機付自転車などの右側を通過する場合において、十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等の間隔に応じた安全な速度で進行しなければならないという規定を創設するということに今回なっております。
十分な間隔そして間隔に応じた安全な速度とは具体的にどのようなものを想定しているのか、分かりやすく教えてください。

○政府参考人(早川智之君) お答えいたします。
歩道における自転車と歩行者の事故件数が増加傾向にある中、自転車の車道通行の原則の徹底を図るためには自転車利用者が安全に車道を通行できる環境を整備することが重要であると考えております。
御指摘の規定は、車道における自転車と、失礼しました、自動車と自転車の接触事故を防止するため、自動車が自転車の側方を通過する際のそれぞれの通行方法を整備する規定でございます。本規定に定める自動車と自転車との間隔や安全な速度につきましては、自動車と自転車との具体的な走行状況に加えまして、道路状況や交通状況などにより異なることから、具体的な数値は規定していないところでございます。
その上で、あえて申し上げれば、例えばでありますが、都市部の一般的な幹線道路においては、十分な間隔として一メートル程度が一つの目安となるものと考えているところでございます。また、このような十分な間隔を確保できない狭隘な道路におきましては、自転車の実勢速度というものが、いろいろありますが、二十キロメートル毎時程度であるということを踏まえますと、例えばこうした場合には、間隔に応じた安全な速度としては二十キロから三十キロ、これぐらいの速度というのが一つの目安になるのではないかと考えているところであります。
いずれにいたしましても、この規定の趣旨は、自転車の安全を確保しつつ、自動車と自転車の双方が円滑に車道上を通行することを確保することにありまして、自転車に危害を加えるような態様でなければ本規定の趣旨に反するものではないと考えているところであります。

 

安全側方間隔は概ね1m程度、安全速度は自転車の速度+10キロ程度までとする。

 

元々、追い越しだろうと追い抜きだろうと二輪車との間に十分な間隔を保って通過する注意義務(道路交通法違反とは別の概念)があるとされてきました。
一例↓

20~40センチで追い抜きした判例。

被告人に注意義務懈怠の事実があるか否かについて考えるに、一般に先行する自転車等を追い抜く場合(追越を含む。以下同じ。)、自転車の構造上の不安定をも考慮に入れ、これと接触のないよう安全な速度と方法によって追い抜くべき注意義務のあることはもとよりであるが、右の安全な速度と方法の内容は、道路の巾員、先行車及び追抜車の速度、先行車の避譲の有無及び程度、対向車及び駐停車両の存否等具体的状況によって決すべく、一義的に確定すべきでないところ、前記認定の被告人車の場合のように左側端から1mないし1.2m程度右側のところを進行中、道路左側端から0.8m程度右側を進行中の先行自転車を発見し、これを時速45キロ程度で追い抜くに際しては、先行車の右側方をあまりに至近距離で追い抜けば、自転車の僅かな動揺により或いは追抜車両の接近や風圧等が先行自転車の運転者に与える心理的動揺により、先行自転車が追抜車両の進路を侵す結果に至る危険が予見されるから、右結果を回避するため、先行車と充分な間隔を保持して追い抜くべき注意義務が課せられることが当然であって、本件においても右の注意義務を遵守し、被害車両と充分な間隔(その内容は当審の差戻判決に表示されたように約1m以上の側方間隔を指称すると解すべきである。)を保持して追い抜くかぎり本件衝突の結果は回避しえたと認められる以上、被告人が右注意義務を負うことになんら疑問はない。

 

仙台高裁秋田支部 昭和46年6月1日

自転車への側方間隔はどれくらい空けるべき?判例を検討。
先行する自転車を追い越し、追い抜きするときに、側方間隔が近すぎて怖いという問題があります。これについて、法律上は側方間隔の具体的規定はありません。(追越しの方法)第二十八条4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「...

 

要は道路交通法違反ではない注意義務違反(いわゆる過失)は、事故が起きなければ問題にできない。
しかしこのように多数の判例で注意義務違反が認定されてきた現実にもかかわらず注意義務懈怠が多発していることから、事故未発生でも取り締まり可能にするために18条3項を新設したのよね(ただし現状は改正法施行前)。

 

ところで、大型車を追い越ししたクルマは17条4項の違反に問える余地があると思う。
17条4項は「左側通行義務」を定め、17条5項各号では「左側通行義務の例外」を定めてますが、

四 当該道路の左側部分の幅員が六メートルに満たない道路において、他の車両を追い越そうとするとき(当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限る(以下略)

右側にはみ出て追い越しする条件は以下。

①当該道路の右側部分を見とおすことができる
②反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合

先行車が大型車である以上、当該道路の右側部分を見とおすことはできるわけもない。
この規定は「結果的に対向車を妨げたか?」を問題にするのではなく、対向車を妨げるおそれがあるプレイを禁じていることは明白。
なので①に違反し、17条5項4号の違反(ただし違反事実は17条4項になる)という見方も成り立つ。

 

ただまあ、現実に違反として検挙するのは困難でしょう。

自転車への側方間隔はどれくらい空けるべき?判例を検討。
先行する自転車を追い越し、追い抜きするときに、側方間隔が近すぎて怖いという問題があります。これについて、法律上は側方間隔の具体的規定はありません。(追越しの方法)第二十八条4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「...

以前、二輪車を追い越し/追い抜きして起きた事故判例(主に刑事、一部民事)をひたすらまとめましたが、わりと興味深いのはこちら。

自転車追い抜き時に非接触事故の判例。
自転車を追い越し、追い抜きする際には側方間隔が問題になりますが、接触してないものの事故になった判例を。非接触事故の判例非接触事故の判例としてますが、事故態様には争いがあります。判例は東京地裁 平成27年10月6日。まずは大雑把に状況から。こ...

自転車を側方間隔1.2mで追い抜きしたところ、自転車はバランスを崩して転倒。
追い抜き車に60%、自転車に40%の過失を認めた。

 

なぜ側方間隔1.2mで転倒に至ったかはわかりませんが、非接触事故の民事判例としてはなかなか興味深い。

 

ちなみに道路交通法違反ではない注意義務違反ってわりとあるのですが、要は事故が起きたか起きなかったかは結果論に過ぎないのでして、注意義務であっても遵守することが期待されている。

 

業務上過失致死傷罪(現在の過失運転致死傷罪)の注意義務であったものが道路交通法違反に昇格した事例として知られているのは、38条1項前段(減速接近義務)。
減速接近義務自体は業務上過失致死傷判例で認定されてきたものの、事故未発生でも取り締まり可能にするために昭和46年に道路交通法の義務に昇格した。

 

改正18条3項についても、業務上過失致死傷判例で注意義務違反として認定されてきたものが道路交通法違反に問えるようにしただけだと理解してますが、

 

18条3項にしても、立法に至った過程はわりと興味深い。
おそらく解釈上、業務上過失致死傷判例で示されてきた内容に準じたものになると思いますが、

 

先行車が大型車であれば道路右側の安全を十分確認できないはずで、それにもかかわらず右側にはみ出て追い越しするセンスが一番ヤバい気がするし、17条5項4号の趣旨もそういうことなんじゃないですかね。

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