最近、自賠法の運行供用者責任を勘違いした解説を見かけるのですが、今回はクイズ形式にします。
まず、自賠法では無過失を証明しない限り人身損害の賠償義務があるとし、
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
3条の運行供用者責任が生じた場合に自賠責保険を支払うとする。
第十一条 責任保険の契約は、第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。
※自賠法でいう「運転者」は「運転していた人」とは異なりますが、今回のケースでは関係ないので割愛。
ではケーススタディしていきましょう。
Contents
チャイルドシート不使用と自賠法の無過失

事案の概要です。
・妻が運転する甲車が青信号の交差点に進入したところ、左から赤信号を無視した乙車が進入してきて衝突。
・幼児はチャイルドシート不使用だったこともあり、高次脳機能障害3級3号の後遺症を負った。
・「幼児、父親、母親」は赤信号無視した乙車の所有者と運転者を相手に損害賠償請求訴訟を提起したが、裁判所はチャイルドシート不使用が被害拡大に寄与したとし、1割の過失相殺をした和解案を提示。
・和解が成立し、約1億円が支払われた。
以上が概要。
ではここからがクイズ。

理屈の上では、被害者(幼児)が乗っていた甲車が「無過失の証明」をしない限り、甲車の所有者(父親)と運転者(母親)は共同運行供用者としての賠償責任が生じる(自賠法3条)。
そして3条の運行供用者責任が生じる場合には自賠責保険が支払われるとする(自賠法11条)。
被害者の幼児(もちろん実質的には親)が甲車の自賠責保険に請求した場合に、甲車の自賠責保険から支払われるのでしょうか?
論点を整理します。
この場合、青信号で交差点に進入した甲車の運行供用者は、所有者(父親)と運転者(母親)の2名になる。
そして運転者の母親はチャイルドシートを使わずに我が子を乗せて運転したのだから、道路交通法違反である。
チャイルドシート不使用という交通法規違反があり、赤信号無視した乙車との訴訟ではチャイルドシート不使用を理由に1割の過失相殺がなされている。
さて、甲車は自賠法3条でいう無過失の証明ができるのでしょうか?
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
正直なところ
以前から書いているように、民事はかなり複雑なので素人が解説すると間違える。
現にどこぞのYouTuberなんかは間違いを連発し、しまいには自賠法の運行供用者責任を勘違いしたままでして。
お金の話って交通安全とは何ら関係がない「事後処理」でしかないし、このケースの正論は「信号くらい守りなよ…」でしかない。
「他人を信用しない」というのはある意味当たり前なんだけど、想定外の行動をする人もいるし、間違いばかり撒き散らしてしまう人もいるのだから、他人を信用しないことは大事。
とはいえ限界がある。
元にある「想定外の行動」や「間違いの流布」を止めさせない限り、被害者は出るのよね。
ちなみに今回のクイズ、難易度は激高です。
あえてノーヒントにします。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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