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保険における「重過失免責」とは。

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こちらの件。

人身傷害保険は、同乗者について重過失免責を適用することがある。
運転レベル向上委員会が人身傷害保険について、酒気帯び運転や無免許運転による「免責」は運転者のみの話で同乗者は支払い対象と解説してますが、こちらにも書いたけど、同乗者についても支払われない可能性が普通にある。なぜこれだけ人身傷害保険をプッシュ...

酒気帯び運転の「同乗者」に対する人身傷害保険の適用について、同乗者の重過失を認め保険金不支給になった札幌地裁 令和3年1月27日判決を紹介しましたが、

(3)原告B(本件重過失免責条項による免責の成否)について

ア 前記(2)のとおり,原告Aについては,本件事故の当時,「道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転⼜はこれに相当する状態」にあったものと認められるところ,原告Bは,本件事故前⽇の⼣⽅以降,原告Aとその⾏動を共にし,原告Aが飲⾷する様⼦を認識していたにもかかわらず,本件事故直前に原告Aが本件⾞両の運転を開始する際,原告Aの状況を確認したり,運転代⾏を要請することを検討したりすることなくその運転を委ねている。そして,原告Aは,本件⾞両の運転を開始した直後に居眠りをし,本件事故を発⽣させたため,原告Bの⾝体に傷害を⽣じたというのであって,飲酒運転の重⼤性も考慮すれば,「損害が保険⾦を受け取るべき者の重⼤な過失によって⽣じた場合」に該当するものといわざるを得ない

札幌地裁 令和3年1月27日

人身傷害保険は重過失免責条項を設けている。
では保険における重過失とはどんな状況なのか判例から検討します。

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重過失免責を認めた判例

判例は東京地裁 平成30年1月17日。
事案の概要はこう。

・Aは未明(午前4時過ぎ)に泥酔の上、交差点内に座っていた。
・交差点を直進しようとしたX運転のクルマがAと衝突し、Aは死亡。
・運転者Xに対し損害賠償請求を、Aが契約していた保険会社に対し人身傷害保険等の請求をした。

判決結果です。

被害者A 運転者X 保険会社
50% 50% 重過失免責

まず運転者Xと被害者Aの事案から。
運転者Xは衝突地点の14.5m手前で急ブレーキをかけたが間に合わなかったのですが、実況見分によると衝突地点の41.5m手前で「何らかの物体」と認識でき、衝突地点の30.8mでそれが人だと認識できたことからすると、運転者Xに前方不注視の過失があったと認定。
その上で泥酔の上で交差点内に一定時間とどまる行為が事故発生の危険性が高いことから、50%の過失相殺とした。
なお自賠責保険上は満額の3000万が支払われており、いわゆる重過失減額はなされていない。

 

次にAと、Aが契約していた保険会社の事案。
こちらについては片側一車線の交差点で夜が少しずつ明けていた、泥酔だった、交差点に一定時間とどまる行為の危険性を認定した上で保険約款上の「重大な過失」と認定。
保険金請求は棄却されている。

 

ここで勘違いしやすいのは「自賠責保険の重過失減額」と「保険契約における重過失」はそもそも違うものだということ。
自賠責保険における重過失減額は被害者過失7割以上の場合に適用されると定義しているが、保険上の重過失とは「故意に近い状態」や「わずかな注意を払えば容易に回避できる場合」であり、同じ「重過失」という言葉でも意味は異なる。

重過失免責を認めなかった判例

判例は大阪地裁 平成24年5月30日。
事案の概要はこう。

運送業のAは、妻を助手席に乗せ高速道路の追い越し車線を走行中に空気の入れ替えのため窓を開けた。
その際、仕事に必要な受取伝票が車外に飛んでしまったため、追い越し車線上に停止したところ、後続車に追突され死亡した。

Aが契約していた保険会社に対し普通傷害保険の死亡保険金の請求をした事案。

 

こちらについては「重過失免責」を認めなかった。

本件故意重過失免責条項は,いわゆる保険事故招致免責規定であり,その趣旨は,保険契約者等が故意または重過失によって保険事故を招致することは,契約当事者に求められる信義誠実の原則に反するものであり,社会的にも許されない公序良俗に反するものであるという点にあると解される

とし、わずかな注意で防げたとしても信義則違反や公序良俗違反と言えない場合は含まないとし、保険金請求を認容した。

人身傷害保険の支払い

ちょっと前に運転レベル向上委員会は、酒気帯び運転+定員外乗車の末に進路逸脱した事故について、同乗者の損害は人身傷害保険に加入していたら支払われる(つまり運行供用者からの賠償を含めると満額回収できる)と解説してましたが、

 

札幌地裁、東京地裁、大阪地裁の各判決から検討しても、支払われない可能性が高いと言わざるを得ない。
仮に運転者の酒気帯びを「知らなかった」としたらやや話は変わるが、無謀な定員外乗車が重過失免責と判断される可能性は十分ある。

 

運転レベル向上委員会は「こんな事例でも人身傷害保険から支払われる」という印象操作をしたいようだが、普通に考えて保険会社が拒絶すると考えられる事案にも「人身傷害保険から支払われる」と解説する。
そのような印象操作をしてまで人身傷害保険を推奨することが正しいのだろうか?

 

正しい内容を伝えても、人身傷害保険がいざという時に役立つことに変わりはない。
しかし運転レベル向上委員会の解説は誇大広告と何ら変わらないのでして、しかも事故防止の観点を蔑ろにしてまで人身傷害保険をプッシュするように見えてしまう。

 

裁判基準で算定した賠償金全額が人身傷害保険から支払われるかのような解説をするのも問題だが(人身傷害保険は裁判基準よりも低い人傷基準で支払われる)、話を大きくして保険を推奨することは大問題なのよ。
全然勉強せずに語るスタイルは全く理解できない。

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