読者様から時速194キロ事故について質問を頂いたのですが、
民事だと直進:右折=20:80に「30キロ以上の速度超過+20%」が加算されて、40:60になるのですか?
理不尽過ぎませんか?
確かに直進車:右折車の基本過失割合は20:80ですが、一般的に著しい高速度の態様では基本過失割合は適用されません。
現にこの事故について、当初被告人側の保険会社は「右折車80%程度」という見通しを伝えてきたあとに、直進車の著しい高速度が判明し「算定不能」と言ってきたそうな。
ここで考えて欲しいのは、基本過失割合とはなんなのか?ということ。
基本過失割合として公表されている数字は、右直事故として通常みられる範囲の事故を想定しているのでして、時速194キロのような著しい高速度の態様を想定したものではない。
現に、右直事故で時速120キロ以上(制限速度の2.4倍)だったことと、右折車が十分確認してから右折を開始したことを理由に「右折車無過失」とした福岡高裁判決がある(なお一審も同じ判断)。
控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である。
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。福岡高裁 令和5年3月16日
優先道路/非優先道路の事故の基本過失割合は10:90ですが、優先道路通行車の著しい速度超過/非優先道路通行車の安全確認を理由に基本過失割合10:90を適用せず95:5とした名古屋地裁判決がある。

事故の態様はこう。

青車両(原告)は一時停止後、優先道路に向かい左折。
赤車両(被告)は優先道路(法定速度60キロ)を時速114キロで直進し衝突。
青車両の後部座席に座っていた同乗者が車外に投げ出され死亡した事故です。
なお青車両が第二車線に左折したのは、直後の交差点で右折するため。
問題になるのは過失割合ですが、原告と被告の主張は解釈が対立している。
優先道路に左折するにあたり十分確認してから左折したところに異常な高速度で追突されたような形だから、原告は無過失である。
優先道路と非優先道路の基本過失割合10:90をベースに、時速20キロ以上の速度超過修正「+20%」を適用すれば30:70なのだから、原告の過失は70%である。
「オレ無過失!」と「オマエ70%」で示談がまとまるわけもなく裁判に至ってますが、被告(優先道路通行車)を被告人とした刑事裁判では、原告(非優先道路通行車)に落ち度はないとなっている。
さて名古屋地裁が判断した過失割合がどうなのか。
| 原告(非優先道路) | 被告(優先道路) |
| 5 | 95 |
要は非優先道路から左折した原告は、十分確認してから左折したところに異常な高速度で突っ込まれた。
民事無過失までは認めなかったものの、優先道路を時速114キロで直進した被告に事故の原因があるとの判断。

ところで、判タでも赤い本でもこのような「異常な高速度」については解説がないはず。
基本過失割合に修正要素「20キロ以上の速度超過」を加味すると被告の主張通りになるわけで、なぜこうなるのでしょうか?
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
要するに、基本過失割合として規定した事故態様の範疇か否か?という話であって、基本過失割合では両者に一定の過失割合を設定してますが、基本過失割合に内包された過失(不注意)の範疇とはどこまでなのかになる。
民事の争いは、まず「どの基本過失割合を適用すべきか?もしくは基本過失割合を適用しない非典型例なのか?」がスタート。
夜間に時速194キロで直進する車両を予見して回避するのは不可能だし、そもそもそのような高速度で走れば「自ら事故回避可能性を著しく減衰させている」ことになる。
そのような場合に、基本過失割合として規定した典型例を当てはめるのが妥当ではないことは言うまでもない。
大分地裁判決(刑事)は右折車に過失がないとする。
これは刑法上の過失である「制限速度+20~30キロを予見して右折する注意義務」に違反がないことを意味します。
で。
大分地裁判決(刑事)にはこのような文言がある。
その上で、被告人が、常習的に高速度走行に及んでいたことなど自己に不利益な事実を率直に認めたり、本件事故現場での献花を続けたりして、反省の態度を示していること、未だ若年であること、両親が出廷して社会復帰後の監督を申し出ていること、被害者の遺族に対して保険により損害全額の賠償がなされる見込みがあることのほか、被告人の責めに帰し得ない事情のため公訴提起から公判審理までの期間が長引き、被告人として不安定な状態に置かれ続けたことといった一般情状も考慮し、主文の刑を量定した。
大分地裁 令和6年11月28日
通常、こうした判決では「相応の賠償が見込まれる」みたいな表現になるところ、同判決では「損害全額」だとする。
ここから推認されるのは、過失割合については被害者無過失で合意しており、損害額がいくらなのかはまだ合意してない可能性が高い。
どちらにせよ被害者と加害者の合意に係る一筆がない限り、刑事裁判所はこのようなことを書くことはないし、判例等に照らしても被害者無過失の判断は妥当でしょう。
ところでこの事故については、某YouTuberが「右折車のほうが過失割合が大きい」と繰り返し解説してますが、
勉強不足による誹謗中傷になっていることに気づかないのはかなりヤバイ。
そして民事って不可能を強いるものではないのでして、「かもしれない運転」では到底防げないものなのよ。
人間の能力には限界がある。
なお、刑事裁判の結果が危険運転だろうと過失運転だろうと、民事の過失割合には影響しません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント