危険運転致死傷罪の改正要綱が発表されました。

以前解説した内容と変わらないのですが、現行法では8類型があるのを11類型に拡大する。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
3号から8号はそのまま維持で、1号を「アルコール態様」と「薬物態様」に分離する。
そして現行法では2号に「進行制御困難高速度」がありますが、これの他に「数値基準を越えた高速度態様」を追加。
そして最後にドリフト走行を追加し、11類型になると。
以前も解説したんだけど、

「進行制御困難高速度」が数値基準化されると勘違いしている人が出てくる。
進行制御困難高速度とはコースを逸脱しかねない高速度のことを指すのだから、制限速度以下であってもヘアピンカーブなどでは成立する。
一例として、時速45キロで同罪を認めた福岡地裁判決がある。
【罪となるべき事実】
被告人は、令和5年11月2日午前1時50分頃、普通乗用自動車を運転し、福岡県糟屋郡a町bc番地南西方約430m先の右方に湾曲する下り勾配の道路をA展望台方面からd方面に向かい進行するに当たり、その進行を制御することが困難な時速約45kmの高速度で自車を走行させたことにより、自車を道路の湾曲に応じて進行させることができず、自車の制御を失わせて横転させ、よって、自車同乗者B(当時16歳。以下「被害者B」という。)に加療約3日間を要する脳震盪等の傷害を負わせるとともに、同C(当時16歳。以下「被害者C」という。)に肝損傷の傷害を負わせ、同日午前7時26分頃、福岡市e区fg丁目h番i号D病院救命救急センターにおいて、同人を同傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた。福岡地裁 令和7年9月22日
なぜ時速45キロで同罪が成立するかというと、この事故現場は下り勾配のヘアピンカーブであり、理論上の限界旋回速度は時速36~38キロ。
数値基準以下だと危険運転致死傷罪にならないとしたら、上の福岡地裁判決のケースは危険運転致死傷罪にならなくなってしまうのだから、現行法の「進行制御困難高速度」を残した上で別に数値基準以上の高速度を危険運転致死傷罪に取り込むのでして。
ここを勘違いして「○○キロ以下なら危険運転致死傷罪にならない」と解説するYouTuberとかいましたが、本質が見えていない。
ところで、例えば一般道を時速130キロ(基準以上)で通行していた事故なら全て危険運転致死傷罪として評価される…というわけではないのかと。
一例を挙げるなら、仮に制限速度であったとしても回避可能性がないけど、時速130キロで進行中に事故を起こしたような場合でして。
危険運転致死傷罪は柱書きに「よって」として因果関係を求めている以上、制限速度であっても回避可能性がない場合に危険運転致死傷罪は成立しないことになると考えられる。
なお制限速度であったとしても回避可能性がない事故なら、過失運転致死傷罪も成立しない。
要するに、新設される「数値基準以上の高速度」とは、対処困難性を悪質評価したものになる。
制限速度であれば衝突を回避できたのに、速度が速すぎたために衝突したという態様の事故のうち、一定の数値基準以上のものを悪質評価した。
ここを見誤りすると、数値基準以上なのに不起訴にした案件を陰謀論で片付けようとすることに繋がりかねないから、要注意。
さて。
速度が速すぎたために衝突を回避できなかったという事故は度々ありますが、これは従来なら過失運転致死傷罪として裁かれてきた。
「制限速度を遵守する義務を怠り、制限速度内であれば衝突を回避できたのに回避できなかった」という話になりますが、これの一定基準以上を危険運転致死傷罪として裁くことになる。
危険運転致死傷罪は危険な運転行為のうち、より悪質なものに絞って類型化したものですが、
数値基準が低い場合…例えば「+20キロ」のような場合にまで危険運転致死傷罪が成立するとなると、他の規定と比較しても著しい不均衡に陥ると思われる。
そして「数値基準の+50キロ、+60キロ以下ならセーフ」という考え方に陥る人が出てくるけど、これらはそもそも道路交通法違反として処罰可能だし、数値基準にしても「数値基準より-10キロ程度」まで取り込む方針だという。
何かと誤解が絶えないけど、現行法の「進行制御困難高速度」についての判例は今後にも活きるのよね。
なぜなら、進行制御困難高速度態様は今後も継続するからなのでして。
大分時速194キロ事故は、改正要綱の「数値基準以上の高速度」であれば危険運転致死罪になりますが、進行制御困難高速度の解釈は今後も必要なのだから、裁判で争われた意味は今後にも必要なのよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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