PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

救護義務は、人間に不可能を強いるわけではない。

blog
スポンサーリンク

読者様から質問を頂いていたのですが、こちら。

車で歩行者はねた男性が救護中、別の車が2人をはね2人死傷…佐賀市
【読売新聞】 29日午前0時45分頃、佐賀市愛敬町の市道で、道路を歩いていた住所、職業不詳の石井敏朗さん(57)が、同市の運転代行業の男性(34)の乗用車にはねられた。さらに、男性が石井さんを救護中、2人とも後から走ってきた同市の理
読者様
読者様
運転レベル向上委員会が、道交法72条は①直ちに停止、②救護、③道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない、と3つの義務を課しているのだから、救護中に他車にはねられた=危険防止措置をやっていなかったとして救護義務違反になる可能性があると解説してます。
本当にそうなのでしょうか。

運転レベル向上委員会の人は結果論者でしかないことは今までも指摘してますが、まさに結果論者の思考なのよね。

 

まず、道路交通法72条1項。

(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して負傷者を救護し道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。

※「直ちに」は「停止し」のみに掛かるわけではない。

①直ちに停止
②直ちに救護
③直ちに危険防止措置

の3つを課していますし、後段も含めれば④直ちに警察に報告も含まれる。

 

人間は複数のことを同時にすることは不可能なので、「直ちに」を厳格に捉えた場合、4つの義務を「直ちに」履行することは不可能なんですね。

 

千手観音じゃあるまいし。

 

そうすると必然的に、この4つの義務は状況に応じて優先順位が決まるわけですが、一般論としてはとりあえず停止しないと始まらない。
なので「停止」が第1順位ですよね。

 

次に、路上で横たわる被害者を路端や歩道に引き上げること(二次災害防止措置)と、救急車の要請(救護)はどちらが優先されるべきか?
これは状況次第。

 

例えば被害者の意識があるけど痛みで身動きが取れない場合、まず被害者を路端や歩道に引き上げてから119番通報することが考えられる(なぜなら命に別状がないと考えられるので、救急車要請に数分の遅れがあることは問題にならないと考えられるから)。
しかし被害者が明らかに意識不明のときに、被害者を動かすこと自体にリスクがあることすらあるわけで、まず119番通報するということは普通。

 

両者を同時に履行することは人間には不可能なのだから、必然的に状況に応じて優先順位が変わるだろうし、仮にその順番を誤ったとしても、事故を起こして気が動転した状況では非難に値する話ではない。

 

期待可能性がない、という考え方もあるでしょう。

 

運転レベル向上委員会の人って「道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」とある以上、「後続車に轢かれた=結果的に危険防止措置をしてなかったからだ=救護義務違反になる」という思考回路。
結果から逆算して、不可能なことであっても義務だと言い張るスタイル。

 

法律解釈って、最終的な結果から逆算して当てはめるものではないのよね。

 

そもそも、報道からはこの人がやっていた救護活動の具体的内容はわかりませんが、例えば被害者を路端に動かそうとしていたときに後続車両に轢かれた場合、「危険防止措置をしてなかったからだ」とはなりませんよね。
被害者を路端に動かすために3分くらいかかったとして、その後救急車を要請したけど助からなかったとする。
「あと1分救急車が早く到達していたら命は助かった」と言われたときに、「直ちに救護しなかった」として救護義務違反になると思います??

 

ならないわな。
法は迅速な救護活動を求めていると言えますが、結果論でしか考えられない人は法律解釈には向かないのよね。

 

結局のところ救護活動を履行したと言えるかが問題になる。
ここで一つ事案を検討します。

第1 事案の概要
1 第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は、「被告人は、平成27年3月23日午後10時7分頃、長野県佐久市内の交通整理の行われていない交差点において、普通乗用自動車を運転中、被害者(当時15歳)に自車を衝突させて、同人を右前方約44.6m地点の歩道上にはね飛ばして転倒させ、同人に多発外傷等の傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたところ、その後すぐに車両の運転を停止したものの、直ちに救護措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。」というものである。

2 第1審判決の認定及び記録によれば、本件の事実関係は次のとおりである。
⑴ 被告人は、平成27年3月23日午後10時7分頃(以下、時間のみを記載しているものは同日の時間である。)、長野県佐久市内において、普通乗用自動車を運転中、被害者に自車を衝突させ、同人を右前方約44.6m地点の歩道上にはね飛ばして転倒させ、同人に多発外傷等の傷害を負わせる交通事故を起こした。
⑵ 被告人は、フロントガラスがくもの巣状にひび割れたことから、自車を人に衝突させたと思い、衝突地点から約95.5m先で自車を停止させて降車し、衝突現場付近に向かった。
⑶ 被告人は、午後10時8分頃、衝突現場付近で靴や靴下を発見し、その後約3分間、付近を捜したが、被害者を発見することはできなかった。その間に、被告人は、通行人から救急車を呼んだかと聞かれたが、所持していた携帯電話で警察や消防に通報をすることはなかった。
⑷ 被告人は、午後10時11分頃、自車まで戻り、ハザードランプを点灯させた後、運転前に飲酒していたため酒臭を消すものを買おうと考え、自車の停止位置から、衝突現場とは反対方向にあり、約50.1mの距離にあるコンビニエンスストアに赴いて口臭防止用品を購入し、午後10時13分頃、これを摂取して、衝突現場方向に向かった。
⑸ その頃、通行人が、歩道上に倒れていた被害者を発見して、午後10時14分頃、110番通報をし、その通報がされている間に、被告人も、被害者の元に駆け寄って、人工呼吸をするなどした。

10時7分に事故が発生し、10時8分には現場で被害者の靴などを発見。
さらに3分間被害者を捜索したが発見できず、コンビニに向かい飲酒運転発覚回避のためにブレスケアを購入し、10時14分に110番通報した。

 

最高裁は救護義務違反にあたるとする。

しかしながら、原判決の前記判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

1 道路交通法72条1項前段は、車両等の交通による事故の発生に際し、被害を受けた者の生命、身体、財産を保護するとともに、交通事故に基づく被害の拡大を防止するため、当該車両等の運転者その他の乗務員のとるべき応急の措置を定めたものである。このような同項前段の趣旨及び保護法益に照らすと、交通事故を起こした車両等の運転者が同項前段の義務を尽くしたというためには、直ちに車両等の運転を停止して、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護及び道路における危険防止等のため必要な措置を臨機に講ずることを要すると解するのが相当である。

2 前記第1の2の事実関係によれば、被告人は、被害者に重篤な傷害を負わせた可能性の高い交通事故を起こし、自車を停止させて被害者を捜したものの発見できなかったのであるから、引き続き被害者の発見、救護に向けた措置を講ずる必要があったといえるのに、これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いており、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護等のため必要な措置を臨機に講じなかったものといえ、その時点で道路交通法72条1項前段の義務に違反したと認められる。原判決は、本件において、救護義務違反の罪が成立するためには救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったことが必要であるという解釈を前提として、被害者を発見できていない状況に応じてどのような措置を臨機に講ずることが求められていたかという観点からの具体的な検討を欠き、コンビニエンスストアに赴いた後の被告人の行動も含め全体的に考察した結果、救護義務違反の罪の成立を否定したものであり、このような原判決の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかで、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。

最高裁判所第二小法廷 令和7年2月7日

ところで、被告人が3分間被害者を発見「できなかったこと」は何ら刑責に問われていない。
また、仮に被告人がコンビニに向かうことなく被害者の捜索をし、結果的に被害者を発見するのに時間がかかったとしても、救護義務違反にはならない。

 

なぜか?
頑張って捜索した結果として時間がかかることは救護活動の一環だし、二次災害を防止するにしても被害者がどこにいるかわからないと講じようがない。
しかし捜索を中断して無関係な行動を取ったから「負傷者の救護等のため必要な措置を臨機に講じなかった」になるのでして。

 

仮にコンビニに行こうと、行かずに捜索していようと同じ時間がかかったとしても、前者は救護義務違反になり、後者はならない。

 

さて。
救護中に後続車両に轢かれたという報道をみて、「二次災害防止措置をしてなかったから救護義務違反になる」と解説することは、人間に不可能なことを要求しているのと変わらない。
法律を語る初学者が陥りがちな誤りでして、結果的に条文に当てはまるかが違反の成立ではないのよね。

 

まあ、結果論でしか考えられない人らしさ全開なのではなかろうか。

 

とりあえず言えるのは、その状況におけるベスト(と思われること)を尽くそうとすることが大事なのであって、気が動転した状況では優先すべき事項を間違えることもあるでしょう。
間違えたかどうかは結果論でしかないし、間違えたことが非難されるのではなく、尽くそうとしなかったことが非難の対象。

コメント

タイトルとURLをコピーしました